第二十二話 ~彼女と過ごす二日目・彼女と食事をしていると、意外な二人組を見つけました~

 第二十二話




『イートインコーナー』




「そろそろご飯の時間だよね。俺はお腹が空いてきたよ」

「はい。朝ごはんをしっかりと食べましたけど、恥ずかしながら私もぺこぺこです」



 永久さんの洋服の会計を済ませ、二人分の荷物を持ちながら俺たちはイートインコーナーへと向かう。


 洋服なので、荷物の大きさはあるが、重さは大したことない。


「持ってもらって良かったのですか?」

「あはは。大した重さは無いから全く問題ないよ」


 申し訳なさそうにしている永久さんに、俺は笑いかけた。


「さて。そろそろイートインコーナーに着くけど永久さんは何か食べたいのはあるかな?」

「そうですね。お肉系が食べたい。と言うのはありますね。霧都くんは何をとか考えてますか?」


 永久さんのその質問に、俺はさっき考えていた食事処の話をする。


「めちゃはやステーキって店があるんだけど、どうかな?」

「行きます!!」


 思いの外食い付きが良くて俺は少しだけ驚く。

 けど、賛成が得られたのは良かったな。


「あはは。さっき永久さんが着替えてる時に調べてたんだ。結構有名なお店だし、以前食べた時も美味しかったんだよね」

「私は恥ずかしながらまだ未体験なんです。黒瀬先輩からは『大変満足出来るお店でしたよ』と言われていましたので、気になってたんです!!」


 黒瀬先輩の言葉はきっと彼女にとっては何よりも重要なレビューなのかもしれないな。


 なんて思いながら、


「じゃあそのお店に行こうか。ちなみに、良かったらそこのお店の代金は俺に払わせて貰えないかな?」


 と提案した。


「……え。ステーキのお店ですのでかなり良いお値段がしますよ?」

「あはは。そうなんだけどさ、ほら。さっきの俺が服を買ったお店で割引き券をもらったでしょ?その時に浮いたお金で一緒にご飯を食べようよ。と思ってね」


 1000円引きのクーポンを五枚も貰っていたのだ。

 実質5000円の値引きだ。

 このお金があるのなら、ステーキだとしても二人分のお昼代としては十分過ぎる金額だ。


「なるほど、そうでしたか。でしたら、お言葉に甘えようと思います」

「男として、少しは見栄を張れるかな?」


 なんて話をしながら、俺と永久さんはお店の前に行く。



 俺はサーロインを250g頼んで焼き方はミディアムにした。

 ご飯は大盛りだ。


 永久さんもサーロインで200g頼んで焼き方はレアにしていた。

 ご飯は普通盛りだ。


「永久さんはレアなんだね」

「はい。レアだと柔らかいお肉を食べながら、ペレットを使えばミディアムにも出来ます。一度で二度の味が楽しめます」

「なるほど。今度は俺もレアにしてみようかな」

「ふふふ。もし良ければ一口食べてみますか?」

「うん。それは嬉しいな」


 俺と永久さんはステーキとご飯を持って席へと座る。


 飯時を少し外しているので、イートインコーナーには空きがあったので、すんなり席を確保出来た。


「それじゃあ食べようか」

「はい」


 俺と永久さんは「いただきます」と声を揃えてから、ステーキを一口大にナイフで切って口にする。


「……うめぇ」


 サーロイン特有のジューシーな肉の味。

 噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。

 これはご飯が無限に食えるな


 フォークでご飯を掬って口に入れる。


 あぁ……幸せだ。


「美味しいですね。これは私も大満足です!!」

「喜んで貰えてよかったよ」


 笑顔でそう言う永久さんに、俺も安心して笑顔になる。

 そんな俺に、永久さんはレアのステーキを一口大にナイフで切る。

 そして、それをフォークで刺して俺に差し出してきたら。


「はい霧都くん。あーん。です」

「……ありがとう、永久さん。じゃあいただきます」


 俺は少しだけ恥ずかしく思いながらも、彼女からのあーんを受け入れる。


「……美味い。レアって初めて食べたけど、お肉の柔らかさが全然違うね」

「ふふふ。良いお肉の時はレアが良いと思っています。ですが、あまり良いお肉でなかったり、お腹が弱い人ですと壊してしまうかもしれないので、注意が必要ですね」

「なるほど」


 そして、俺と永久さんがお肉に舌鼓を打っていると、俺の視界に二人の男女が映った。


「……あれ」

「どうかしましたか、霧都くん」


 イートインコーナーの端の方で見知った二人組を見つけた俺は、少しだけ申し訳ない気持ちになりながら永久さんに教える。


「もしかしたら、あまり公にしない方が良いと思うけど、あっちを見てもらっていいかな」


 俺は視線で永久さんに場所を示すと、


「……あ、桐崎さんと星くんです」

「うん。二人でご飯を食べてるね」


 そこにはうちの学級委員の二人。

 桐崎雫さんと星流くんが仲良さそうに食事をしながら話をしていた。


 桐崎さんはオムライス。星くんはスパゲティを食べている。


「休日に二人でお出掛けをする程に、あの二人って仲が良かったんだね」

「そうですね。朝の教室に二人で居るのは見てました。私たちの知らないところで仲を深めていたのかも知れませんね」


 なんて思いながら二人の様子をこっそりと見ている俺たち。


「ふふふ。他人の恋路と言うのは少し気になっちゃいますよね」

「あはは。趣味が悪いと思うけど、やっぱり気になるのは事実かな」


 なんて話していると、


「あ!?アイツら!!」


 先程永久さんに絡んでいた二人組のクソ野郎が桐崎さんたちにちょっかいを出しに行ってるのが見える。


『覚えてろよ!!』なんて言ってたからしっかりと顔は覚えていた。


 桐崎さんは凄く迷惑そうな顔をしてるし、星くんはそんな彼女を守ろうと立ち上がっている。

 だけど、二人組は星くんなら勝てると思ってるのだろうか。

 ニヤニヤ笑いながら、引こうとはしてなかった。


 俺が助太刀に行こうか。と、立ち上がった時だった。


 その様子を見た桐崎さんが立ち上がる。


 まさかまた金的を蹴り上げようとするのか!!??


 だが、俺のその予想は覆される。


「助けてくださーーーーーーーい!!!!!!」


 と大きな声で叫んだ。



「あはは。桐崎さん、俺が言ったことを覚えててくれたんだ」




『男に力で勝てる。それは余程の実力差が無いと無理だよ。逆に相手を怒らせるだけ。桐崎さんがなにか護身術を体得してたとしても、それは本当にやばくなった時だけにしないとダメ』


『女の人の悲鳴や叫び声って言うのは最強なんだ。それだけで全ての男を倒せる必殺技だよ』



 ゲームセンターで、俺が彼女に言った『本当の意味での護身術』だった。


 それを彼女はしっかりと実行してくれていた。



 桐崎さんの大声を聞いたクソ野郎二人組は、誰かが来ては困るのか、一目散に逃げて行った。


 その様子を確認した俺は、席に座り直す。


「俺の必要は無かったね」

「ふふふ。桐崎さんは霧都くんの教えをきちんと守ってましたね」

「うん。あそこで暴力沙汰になったら大変だからね」


 俺と永久さんは二人の様子を見てる。

 星くんは少しだけ申し訳無さそうに桐崎さんに頭を下げてる。けど、彼女はそうな彼の頭を撫でて何かを言っていた。


「ふふふ。お似合いの二人ですね」

「そうだね。でもこれ以上の覗き見は流石に失礼かな?」

「そうですね。では、私たちもデートを再開しましょう」


 視界の隅では、桐崎さんと星くんが楽しそうに食事を再開していた。




 俺と永久さんは食器を返却口にしっかりと戻して、次の場所。映画館へと足を運んだ。

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