最終話 ~過去との決別・桜井霧都は北島永久を心の底から愛しています~ 前編

 最終話 前編




『思い出の公園』




 ショッピングモールを後にした俺たちは、バスに乗って公園へとやってきた。


 自宅からそう遠くない場所にある小さな公園。

 ベンチと砂場とシーソーとブランコと鉄棒位しかない。だが、俺はこの場所で凛音と良く遊んだ。

 美鈴はベンチに座ってその様子を見ていた。


 そんな、思い出の公園だ。


「あはは……小さい頃には広く感じてたけど、デカくなってから来るとこんなにも狭く感じるのか……」


 俺は公園の入口でそう呟く。


「永久さん。ベンチに座って少し話せないかな?」

「……はい」


 察しの良い彼女のことだ。この後、何を言われるか。それを理解しているのかもしれない。

 永久さんは少しだけ緊張しているような気がした。


 俺と永久さんはベンチに座り向かい合う。


「今日はとても楽しかったよ、永久さん」

「はい。私もとても楽しくて、時間が経つのが凄く早く感じました」


 俺の言葉に、永久さんはフワリと笑って答えてくれる。


 俺はカバンの中からプレゼント包装をしたブローチを取り出す。大切に取り扱っていたので、潰れたりなんかはしていなかった。


「これは俺が君のために用意したプレゼントだよ。今日の記念にサプライズで買ったんだ。受け取ってくれないかな?」

「う、嬉しいです……っ!!」


 俺からプレゼントを受け取った永久さんは、泣きそうなくらいの表情で喜びを現してくれる。


 良かった。このくらい喜んでくれるなら奮発した甲斐があった。


 そんな彼女から視線を逸らして、俺は話を始める。


「この場所はね、俺が小さい頃に良く遊んだ場所なんだ」

「はい。先程言ってましたね。思い出の公園だ……と」


 その言葉に俺は首を縦に振る。


「そう。思い出の公園なんだ。俺はこの場所で……凛音を好きになった」

「……っ!!」


 俺のその言葉に、永久さん表情が歪んだ。


「あの頃の凛音は感情を表に出さない……いや、出せない子でね。そんな凛音を笑わせてやりたい。そう思ってたんだ」

「……はい」


 俺は、ぽつり、ぽつりと、昔を思い出しながら話をする。

 あの時のことは、今でもまだ鮮明に覚えている。




『ほら、凛音!!次は砂場で遊ぼ……ぐふっ!!』

『……大丈夫、霧……』

『……ぶへ』

『ふふふ……霧都……砂まみれね……』



「そんな凛音が初めて笑ってくれたのがこの公園の砂場でね。その理由は俺が砂場でずっこけて、砂まみれになったのを笑ってたんだ」

「……そうだったんですね」


 こんな話、聞きたくも無いだろう。でも、話さなければならない。彼女には、俺の過去を知ってもらわないといけないから。


「その時からずっと……十年間。俺は凛音を好きだった。あいつを笑わせてやりたかった。あいつを幸せにしたいと思っていた。死ぬまで……死んでも……一緒に居たいと思っていた……あの日、あいつに振られるまでは……」

「………………」


『俺、お前のことがずっと好きだったんだ!!ただの幼馴染じゃなくて、お前と恋人同士になりたい!!だから俺と付き合ってくれ!!』

『アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!』


 誤解やすれ違い。勘違いがあったのは事実。

 だけど、この瞬間。俺と凛音の運命は決まっていたんだ。


 俺の頬を涙が伝った。

 これは、あいつの為に流す最後の涙だ。

 もうこれで終わりにする。



 俺はこの場所で、凛音のことを好きだった過去と決別する。


 そして、北島永久さんと、恋人になる。




「この場所は、俺があいつを好きだった過去がある。でも、もう俺はそれと決別する。俺に必要なのはあいつを好きだった過去なんかじゃない」

「……霧都くん」


「俺に必要なのは、未来なんだ。その未来を君と一緒に過ごしたい。死ぬまで……いや、死んでも。永久とわに」

「…………はい」


 俺は息を吸って……吐く。


 心臓が跳ねるように鼓動する。


 そして、彼女の目を見て、俺は……言う。



「桜井霧都は北島永久を心の底から愛しています。俺の恋人になってください」

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