第二十二話 ~今年から体育祭の場所決めは新しいルールに変わりました~

 第二十二話




 部活動予算会議を終え、一段落が着いたと思っていたが、もうひとつのイベント。体育祭がすぐに控えていた。


 実行委員の俺はその準備にも追われていた。


 六時間目を終え、SHRの時間。根岸先生から諸連絡が話された。


「今日の放課後には体育祭の実行委員の集会が予定されている。この時間では来週のLHRの時間を使って行われる『体育祭の練習場所』を決めることになっている」


「例年では権力の強い三年生が良い場所を選び、二年、一年になるにつれて場所の確保が難しくなっていた」


 ざわ……ざわ……とクラスメイトがざわつく。


 つまり、俺たちは良い場所が選べない。ってことにも聞こえるからだ。


「しかし、それに意を唱えたのが今の生徒会長の桐崎でな。今年からはそう言った『悪しき年功序列』は無くしていこう。そう声を上げた」


 おー。流石は桐崎先輩。


 一年生や二年生の時に、そういう扱いを受けてきて、ようやく恩恵に預かれる三年になったのに、その恩恵を放棄するのは勇気がある。


「今日の会議では桐崎が司会になって、場所決めが行われる。桜井、星、北島、南野の四人はそれに参加しなさい。南野に関して言えば部活を理由にして欠席しても構わない」


「佐藤部長にはあらかじめ話をしているわ。私も参加するわよ」


 凛音は根岸先生の言葉にそう返した。


「そうか。ならば今の四人はこのSHRが終わったら会議室へと向かいなさい。今の時点で何か質問がある者はいるか?」

「はい」


 俺が手を挙げて発言の許可を求める。


「桜井。何かあるか?」

「先生に。と言うよりはクラスメイトに。ですかね」


 俺はそう言うと、クラスメイトに問いかける。


「場所を選べる。という話を聞いたからな。とりあえずみんなの希望くらいは聞いておきたい。グラウンドか体育館か。それくらいは今のうちに採決を取らせてくれないか?」


「まぁ、100%希望が通るとは思えないけどな?」


 と、前置きをしておいた。


「桜井。俺は体育館が良いな」


 鷲宮が俺に向かってそう言った。


「理由はあるのか?室内でやる競技は体育祭には無いぞ?」


 それがそう聞くと、鷲宮は答える。


「体育館の中ならドッチボールとかで遊べるという話を聞いて……」

「よし。とりあえずグラウンドを確保する方向で行くからな!!」


 俺がそう言うと、クラスメイトは笑いながらそれに賛同した。


「では、これで今日のSHRは終了とする。部活の者は怪我のないように、帰宅する者は気を付けて帰りなさい」


 先生はそう言うと、教室を後にした。


「よし、じゃあ会議室へと向かおうか」

「そうですね。とりあえず、どんな方法で場所を決めるのか興味はあります」


「無難なところで言えばジャンケンとかくじ引きじゃないかしら?まぁ話し合いでってなると時間がかかりそうだし」

「あはは。俺は運に自信が無いから、くじ引きとかなら誰かに任せようかな……」


 なんて話をしながら、俺たち四人は会議室へと向かった。



『会議室』



 目的の部屋へと辿り着いた俺たちは、部屋の扉を開けて中へと入る。

 つい先日来たばかりだけど、ここに入ると気持ちが引き締まる。


「失礼します」


 そう言って入ると、既に桐崎先輩が中で待っていた。


「よう、桜井。そう言えばお前は体育祭の実行委員だったな」

「はい。桐崎先輩、年功序列の慣習を撤廃してくれてありがとうございます」


 俺がそう言って頭を下げると、桐崎先輩は笑ってそれを制止した。


「辞めてくれよ、別に大したことはしていない。本当は去年からそうしたかったんだが、俺や空さんだけの一部の意見ではなかなか難しくてな。今年からになってしまった」

「先輩以外の三年生にも反対意見は無かったんですか?」


「無かったよ。もともとこういう慣習は無くして行きたい。と思ってる奴が多くてな。そこの話はすんなり通ったよ」

「そうなんですね」


 そして、桐崎先輩と話をしていると会議室にだんだんと人が集まってきた。


「じゃあ先輩。俺は自分の席に戻りますね?」


 俺がそう言うと、先輩はニヤリと笑った。


 ……あ、これはヤバイやつだ。


「よし。桜井。お前が司会進行をやるんだ」

「……何となく、そんな事を言われる気がしましたよ」


 ため息混じりでそう言うと、先輩は笑っていた。


「あはは。なに、そんなに緊張することも無いぞ。決め方はくじ引きで決めることにしてある。代表者がくじ引きを行い、引き抜いたカードに書かれた場所で練習をすることが出来る」


「ちなみに、使える道具もくじ引きで手にすることになる。そして、ここが面白いところだが『カードの交換は自由』としている」


「……え?」


 つ、つまり……


「面白いことを考えるじゃない。つまり、『体育館』と『バトン』のカードを引いてしまった人は、バトンを有効活用出来ない。相手のカードを見て『交渉』をしろってことよね」

「……凛音」


「そういう事だ。運で手にしたカードを実力で望みのものに変えることが出来る。今年からはそうしようと思っている」

「ふーん?ペテン師の貴方には有利に見えるけど、実行委員では無いのよね?」


「そうだな。今年の俺は実行委員では無い。傍観者として君たちの交渉を見ていることにするよ」


 先輩はそう言うと、手をヒラヒラと振って去って行った。


「交渉か……俺は自信ないな……」

「私も得意では無いです……」


 流と永久さんがそう言うと、凛音は笑いながら言ってきた。


「ふん。なら私がそこは担当するわ。自分の都合を通すのは得意よ」

「俺は司会をしないとだから、くじ引きは永久さんにお願いしようかな?」


「はい!!運には自信がありますから!!」

「そうよね。運だけで勝ったようなものよね」


 凛音のその言葉に、永久さんは不敵に笑う。


「そうですね。本当に運が良かったと思いますよ?ありがとうございます、南野さん」

「……ちぃ。まぁ……ここではやり合わないでおくわよ」


 二人はそう言うと、自分の席に戻って行った。


「ねぇ……霧都。君が司会の方に行くと、あの二人のところに俺だけが残されるんだけど……」


 流が凄く辛そうな表情で俺に言ってくる。


「ごめん……頑張ってくれ……」

「はぁ……ライジンでもそうだけど、君が取ってきたヘイトを押し付けられることが何度もあったよね……リアルでも同じことをされるとは思わなかったよ……」


「あはは……ごめんな、スター」

「いいよ……頑張るよ、ブラザー……」


 俺はとぼとぼと帰っていく親友を、申し訳ない気持ちで見送った。

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