凛音side ③

 凛音side③




「……だから、あの音声の内容は『事実』ではあるけど『本意』では無い。これが俺の見解だ」


 隣で霧都が強い言葉で語るのを、私は微笑みながら聞いていたわ。


 ふふふ。バカね。ここに来てアンタは『あの音声に対しての皆の誤解を解くことが出来た』なんて思ってるのかしら?


 今のアンタの発言は全て『逆効果』よ。


 だってそうでしょ。

 理由は何であれ『北島永久という彼女が居るのに、南野凛音とも関係を持った』という事実は変わらないのだから。


 アンタがここに来なければ『あの音声はAIとかで作られたパチモンだ』みたいな風潮にも出来たのよ。


 そう、私の音声をシカトするべきだったのよ。


 他人に何かを言われても

『あんな音声を信じてるなんて、馬鹿だな』

 みたいに取り合わなければ良かったのよ。


 それをこんな風に『事実だ』と認めるような発言をしてしまったら、なんの意味も無いわよ。


 結局。民衆は『都合いい部分』しか聞かないわ。


 アンタの『真意』なんか『どうでもいい』のよ。


 ま、それが理解出来てれば『ここ』には来てなかった訳だからね。


 アンタが行くべきだったのは、私の所ではなく『永久の所』だったのよ。


 そして私は『最後の仕上げ』としてマイクの前で言葉を紡いでいったわ。


「ふふふ。霧都の言葉の通り、私は仮病を使ってテストに望んだりもしたわ。まぁでもそれは『些細なこと』だと思うわ」


 だってそうでしょ?

『仮病を使って学校を休んだ』

 訳では無いのだから。


 体調不良を装って学校に来ること。になんの問題も無いわよ。


「私からは『あの音声で行わていた事は事実としてあった』『霧都は私ともキスをしていた』という事よ。ふふふ。情熱的なキスだったわ。永久とはそんなこともしていたのね?」

「……凛音……お前……」


 憎々しげな視線でこちらを睨みつける霧都。

 ふふふ。良いわよ霧都。

 キチンと私に『感情』を向けてくれている。


『好き』の反対は『嫌い』では無く『無関心』


 そういう話は有名よね。

 アンタの心の中に『好き』という感情で住むことは諦めてるわ。


『好き』という感情は永久にあげる。


 ……でも『それ以外の感情』は全て私が貰うわよ。


「これで私の話は以上よ。ご清聴ありがとうございました」


 私はそう言って、マイクのボリュームを下げたわ。


「ふぅ……あとは好きに使って貰って構わないわよ。もう一回皆に向けて何かを放送したって良いと思うわよ?」


 何を話すつもりなのかは興味無いけどね。


「いや、俺から何かを言うつもりはもうない。言いたいことは全て言ったからな」

「あらそう?なら私はもう帰るわね。バイバイ霧都。今日からは別に私の家に来る必要は無いわよ」


 私は霧都にそう言って椅子から立ち上がると、部屋の外へと向かって歩いて行ったわ。


「なぁ、凛音。お前はこんなことをして……何が目的だったんだよ……」


 背後からかけられたその言葉。

 私は振り向いて言葉を返したわ。


「ふふふ。目的なんて決まってるじゃない」


 霧都の目を見て、言葉を続けたわ。


「霧都と『本当の家族』になるためよ」

「……無理だろ。俺はお前のことを『愛してなんかいない』それはこれから先も変わらない事実だ」

「あはは。アンタが私に本気の告白をしてから、まだそんなに時間も経って無いのに、すごい心変わりね」


 私のその言葉に霧都の表情が歪んだわ。


「つまり、人の心なんてすぐに変わるのよ。今はそんなことを言ってても、またアンタは私のところにやって来るわ」

「…………凛音」


 そして、私は霧都に背中を向けてもう一度、部屋の外へと向かって歩いて行ったわ。


「ふふふ。待ってるわよ霧都。今度二人きりで会う時は私の『いちばん大切なはじめて』をあげるわ」


 扉を開けて、放送室の中を後にする。

 その時に、そう告げてあげたわ。




「……凛音さん。やってくれましたね」


 放送室を後にすると、絶望的な表情をした北島永久が目の前に居たわ。

 あら?この女がこんな表情をしてるなんて珍しいわね。


『あの放送の内容』はこの女の想定内だと思ってるわ。

 つまり永久は『放送では無い何か』によって衝撃を受けていた。という事になるわね。


 そして、軽く思案した私は理解出来たわ。


 ふふふ……わかったわ。

『私の一番心強い味方の存在』に衝撃を受けたのね。


「その表情。もしかして『私の味方』にショックを受けたのかしら?」

「どうやって……詩織先輩を引き入れたんですか……」


 やっぱりそうね。この女にとって『黒瀬詩織』はそれほどまでに大切な存在だったのね。


「どうやっても何も無いわよ。あの先輩は特に私が何かをすることなく味方になってくれたわ」

「そ、そんなことあるわけないです!!だってあの人は私の……っ!!」

「黒瀬先輩は言ってたわ『サブヒロインがメインヒロインを倒すラブコメラノベが見たい』ってね」


 私のその言葉に、永久が言葉を失ったわ。

 ふふふ。どうやら『心当たり』があるみたいね。


「私自身を『サブヒロイン』と称されるのは癪だけど、まぁそれは我慢するわ」


 私はそう言って永久の横を歩いて抜けたわ。

 そして彼女の耳元で囁いた。


「バイバイ『メインヒロイン』様。必ず貴女を倒して、私が再びその椅子に座るわよ」


 こうして私は全てのやることを終えて学校を後にしたわ。


 明日から始まるのは『霧都にとっては』地獄の日々になるでしょうね。


 あははははは!!!!楽しみだわ!!!!


 アンタの隣には誰も居なくなる。


 支持者も、頼れる先輩も、親友も、将来を誓った彼女も、全て居なくなったあと、アンタの隣に残るのは、


 この南野凛音よ!!!!

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