~エピローグ~

 エピローグ





「はぁ……なんか疲れちゃったわ。私、寝るわね」

「はぁ!?学校はどうするんだよ!!」


 布団を被り、寝ようと横になった凛音に俺は叫んだ。


「休むに決まってるじゃない」

「せ、成績に影響……」

「バカね。学年でもトップクラスのこの私が、高々一日程度休んだくらいで、成績に影響なんかないわ。それよりも大切なものがあるのよ」

「た、大切なもの?」


 俺が首を傾げると、凛音は深刻そうな声で言った。


「睡眠時間よ。アンタのせいで二日も削られてしまったわ。まだまだ成長期の私よ。そのためには寝ないといけないわ」


 これ以上、北島永久との差を広げられる訳には行かないわ。


「ま、まさかとは思うけど、お前はまだ『希望』を捨ててないのか?」


 俺のその言葉に、凛音は言う。


「当たり前じゃない!!藤崎朱里はあんなことを言っていたけど、私は絶対に認めないわ!!」

「諦めろよ!!もうお前の『おっぱい』はこれ以上育たねぇよ!!」


 布団を跳ね除けた凛音は俺を睨みつけてくる。


「し、失礼ね!!まだ私は高校一年生よ!!この三年は私にとっては成長期なのよ!!」

「中学の三年間でほとんど変わらなかったのに、高校の三年間で変わるわけないだろ!!諦めろよ!!」

「嫌よ!!せめて北島永久位は欲しいわね」

「高望みが過ぎるぞ……いや、でもあれは本当に良かったなぁ……」


 二回抱きしめられた時の、あの柔らかい感触が思い出される。


「……アンタ、まさか『感触』を思い出してるんじゃないでしょうね?」


「いやぁ、お前を何回も自転車の後ろに乗せたりしたこともあったけど、何も感じなかったんだよな。あれは……初めての感触だった」


「は、はぁ!?そんな事ないわよ!!しっかりとあるわよ!!『少しだけ』今は物足りないだけよ!!」

「ははは」


「笑うんじゃないわよ!!いいわ!!そこに立ちなさい!!」

「……何だよ?」


 俺は凛音に言われたように立ち上がると、彼女はベッドから起きて俺の前に立つ。


「さぁ、とくと味わいなさい!!」


 そう言って凛音は俺を抱きしめた。


 柔らか……くない!!

 痛い!!なんか骨っぽい!!

 お前もっと肉食えよ!!


「全然柔らかくない!!痛いくらいだよ!!お前に必要なのは睡眠時間じゃなくて、肉だよ!!」

「はぁ!?この美少女の抱擁をなんだと思ってるのよ!!」

「美少女?ははは」

「笑うんじゃないわよ!!」


 お前の顔なんか十年見てきたんだぞ?

 今更顔なんかでドキドキなんかしないよ。


「……はぁ、もういいわ」


 凛音はそう言うと、ベッドの中へと戻っていった。

 そして、布団を被り、


「寝るわ」


 そう言われると、なんだか俺も眠くなってきたな。


 欠伸が出てしまった。


「何よ、アンタも眠そうね」

「まぁな。寝てないのは俺も一緒だ」


 そんなことを言うと、凛音が被っていた布団を持ち上げて言ってきた。


「ほら、こっちに来れば?」

「はぁ!?何バカなこと言ってんだよ!!」


 その言葉に、凛音は呆れたように言う。


「何言ってんのよ。小学生の時はこのベッドで並んで寝てたこともあったじゃない?」

「小学生の時は!!今は俺たち高校生!!」


 かなり焦っている俺を見て、凛音がニタリと笑みを浮かべる。


「あら?霧都。私のことを『他人』だと言ったのに、この期に及んで『女』だと思ってくれてるのかしら?」

「はぁ!?」


 そんな俺の反応を楽しむかのように、凛音は言う。


「私は『アンタを男として見た事なんか一度も無い』わよ?」

「なぁ!!??」


 そ、そのセリフを今言うのか!!


「ほら、さっさと来なさいよ。寒いわ」

「……はぁ、わかったよ。北島永久さんならともかく、貧乳のお前と添い寝した所で俺の煩悩はピクリとも動かねぇよ」


 俺はそう言って、凛音の布団の中に入る。


 ………………。


 無理だろ!!なんかいい匂いするよ!!


 何かがガリガリ削られてる気がする!!


「あら?こんな所に抱き枕があるわね?」

「はぁ!?……っ!!」


 後ろから俺を抱きしめてくる凛音。

 さっきとは違い。なんかちょっと柔らかさを感じる。

 あ、こいつ足まで搦めてきてやがる!!


「おやすみなさい」


 そう言うと、凛音すぐにスヤスヤと寝息を起て始めた。


「……マジかよ……」


 そうだよ、こいつは添い寝をすると、めちゃくちゃ寝付きが良いんだよな……


「はぁ……俺も寝るか……」


 起きてるよりは、理性へのダメージが少ないだろ。


 俺はそう考えて、目を閉じた。






「霧都くんと凛音ちゃん……仲直り出来たかしら」



 アレだけ憔悴した凛音ちゃんを見たのは初めてだったわ。


 でも、やっぱりすぐに霧都くんは来てくれたわね。


 あの表情を見たら、安心したわ。


 でも、さっきまでは上でなにか言い争いをしてるような感じがしたわね……


「ちょっと様子を見てみましょうか……」


 私は凛音ちゃんの部屋の前に行って扉をノックする。


 コンコン


「凛音ちゃん?霧都くん?」


 中から反応が無かったわ。

 どうしたのかしら?


 さっきまではあんなに騒がしかったのに……


 私は興味本位で扉を開けてみた。


 すると中には……



「あらあら……」


 ベッドの上で身を寄せあって寝ている二人の姿があったわ。


 もう、まるで小学生に戻ったみたい。


 そうね、この様子を見たら『恋人』よりも『姉弟』よね。






「おやすみなさい。凛音ちゃん、霧都くん」





 私はそう言って、部屋の扉をパタリと閉めた。







 十年間片思いしていた幼馴染に告白したら「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」と振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。



 第一章 前編 ~完~

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