第二十五話 ~凛音の家で食事をしたら、意外な事実を知ることになりました~

 第二十五話





「ただいま」

「おかえりお兄ちゃん!!」


 永久さんと別れたあと、俺は自転車を漕いで家まで帰った。

 玄関の扉を開けると、既に美鈴は帰って来ていたようで俺を出迎えてくれた。


「美鈴。早速なんだけどさ、今日は凛音の家で夕飯を食べることになったよ」

「え!?そうなの!!」


 洗面所で手洗いとうがいを済ませたあと、俺は居間でテレビを見ていた美鈴にそう切り出した。


「その……永久さんはなんて言ってたの?」

「永久さんもこの件に関しては了承をしてるよ。なんでも凛音が何をしてきても、俺がそれに惑わされなければ構わない。そう言われたよ」


「……なるほど」

「惑わされたら……刺すからとは言われたよ」


 あはは……と俺は苦笑いを浮かべる。


「え?当然だよね。と言うか今更凛音ちゃんが何かしてもお兄ちゃんは揺れないでしょ」

「……そ、そうだね」


「あんまり永久さんを心配させたらダメだからね!!」

「はい。それは肝に銘じてるよ」





 そして、そんな話をしながら時間を過ごした俺と美鈴。


 とりあえずお風呂にも入っておいた。


 約束の時間の七時半になったので、隣の凛音の家に向かった。


 ピンポーンとインターホンを鳴らす。


『はーい』


 と静流さんの声が俺と美鈴の耳に届く。


「こんばんは、静流さん。夕食をご相伴に預かりに来ました」

『うふふ。待ってたわよ、霧都くんに美鈴ちゃん。今から鍵を開けさせるから待っててね』


 プッという音と共に通話が切れる。


「開けてくれるみたいだから玄関の前に行こうか」

「うん!!」


 俺と美鈴が玄関の前に行くと、ガチャリと扉の鍵が開く。


「良く来たわね。歓迎するわ」

「こんばんは、凛音」

「こんばんは、凛音ちゃん!!」


 扉を開けたのは凛音だった。


 彼女に招かれた俺と美鈴は、家の中へと入る。


「今日の夕飯はメンチカツよ。知ってると思うけど、お母さんのメンチカツは絶品よ」

「おー。静流さんのメンチカツは中にキャベツが入ってて美味しいよね」

「今ではよく聞くけど、最初に入れたのは静流さんじゃないかって思うくらいに昔から入ってたよね」


「ふん。お母さんのアイディアをパクったヤツがいるのよ」


 なんて話をしながら廊下を進み、居間へと辿り着く。


「やぁ、霧都くん。久しぶりだね」

「こんばんは、雅紀さん。本日はお招き頂きありがとうございます」

「こんばんは、雅紀おじさん。ご相伴にあずかります!!」


 居間では雅紀さんが既に座って待っていた。


「いらっしゃい、霧都くんに美鈴ちゃん。もう出来るからご飯を好きなだけよそってから座って待っててちょうだい」

「ありがとうございます」

「私お腹が空いたからいっぱい食べようかな!!」


 台所から静流さんの声が聞こえてきた。

 俺と美鈴はその言葉に甘えて、棚からお茶碗を取り出してご飯をたくさんよそってから席に坐る。


 お茶碗を片手に雅紀さんの正面に座ると隣には美鈴が、そしてその隣には凛音が座った。

 ……いつもの場所だけど、なんか近くないか?


「ふふふ。お待たせ、出来たてだから火傷しないように気をつけてね」


 大皿に山盛りの千切りキャベツとたくさんのメンチカツが乗せられている。

 自分の取り皿にキャベツとメンチカツを移してから好きな味付けで食べる。そういうスタイルだ。


 お味噌汁も出てきて夕飯の準備が整った。


「それじゃあ食べましょうか」


 静流さんのその言葉に、俺たちは首を縦に振る。

 うん。もうお腹がペコペコだ。


「いただきます!!」と声を揃えてから、俺たちは静流さんのお手製の夕飯を食べ始めた。



「凛音から聞いてるよ。霧都くんは生徒会に入ったようだね」


 メンチカツを食べながら、雅紀さんがそう切り出してきた。


「はい。高校では新しいことをしてみようと思ってましたので。先輩からは色々な経験をさせてもらってるのでありがたいですね」

「野球部の助っ人もやってると聞いてるね。君がまた投げられるようになったことは、私も嬉しく思ってるよ」


「ご心配をお掛けしました。ですがもう大丈夫ですよ」


 俺はそう言うと、雅紀さんの目を見て言う。


「食事が終わったあとにお話したいことがあるので、お時間よろしいですかね?」

「構わないよ。私も君と話をしたいと思ってたからね」


「ありがとうございます、雅紀さん」


 俺はそう言って、食事を再開する。


 うん。やっぱり静流さんのメンチカツは美味しいなぁ。


 なんて思って食べていると、


「優美さんのハンバーグとどっちが美味しいかしら?」

「そうですね。甲乙つけがたいですよ。どちらも美味し……え?」


 静流さんの質問に、俺は顔を上げる。


 な、なんで静流さんが永久さんのお母さんのことを知ってる?


「ふふふ。驚いてるかしら?」

「えぇ……とても……」


「お会いする機会を作ったのよ。そこで色々と話をしたのよね」

「そ、そうですか……」


「血の繋がった息子の彼女のお母さんよ?お会いしに行くのは当然よ」

「あはは……そ、そうですか……」


「ふん。どうせすぐ別れるわよ」

「もう、凛音ちゃん。そんな事言わないの」


 静流さんの言葉に、凛音はぷいっとそっぽを向いた。


「ご馳走様。とても美味しかったわ」

「ふふふ。ありがとう、凛音ちゃん」


 夕飯を食べ終わった凛音はそう言って立ち上がった。


「霧都。お父さんと話が終わったら私の部屋に来なさい」

「……え?」


「ちょっと話があるのよ。そんなに時間は取らせないわよ」

「……わかった」


 俺が了承をすると、凛音は満足そうに居間を後にした。


「……何を話すつもりなんだろうな」

「告白でもするんじゃない?」


 メンチカツの最後の一口を食べ終わった美鈴が笑いながらそう言ってきた。


「……無いだろ?」

「あはは。わかんないよ?」


 まあ、今更何を言われても変わらないよな。


 俺はそう思いながら、最後の一口のメンチカツを咀嚼して、飲み込んだ。

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