第九話 ~彼女と過ごす一日目・彼女の両親に自分の想いを話しました~

 第九話




「このオムライス、すごく美味しいですね!!」

「あら、霧都くん。嬉しいことを言ってくれるわね」


 俺は優美さんのオムライスを一口食べて、あまりの美味しさに驚いた。


 最近流行りの半熟卵のふわとろオムライス。では無く、しっかりと卵を焼いてケチャップの味がしっかりとついたライスの上に被せている。


 ライスの中にはチーズが入っていて、それがまたすごく美味しい。


 店で出しても遜色ないレベルの味だと思った。


「ふふふ。霧都くん。うちのオムライスはね、最近流行りのふわとろオムライスでは無く、昔ながらの物なんだ。これはね、優美さんの家庭で代々受け継がれてきたものなんだよ」


 と、雄平さんがドヤ顔で言うが、


「お父さん。代々って言いますけど、受け継がれたのは私のお母さんからだけですよ?」


 と優美さんが少しだけ呆れたように言っていた。


「いや、この味は永久にも受け継がれ、そして霧都くんとの間に産まれた子供やその孫にまで……」

「あ、あの……雄平さん。まだ気が早いです」


 俺が少しだけ困ったようにそう言うと、


「おや?霧都くん。君はうちの永久と結婚を前提に真剣に交際をしたいと話していたじゃないか?それは嘘かな」


 雄平さんはイタズラっぽい笑みを浮かべながらそう言う。


 ホント、永久さんの笑い方はお父さん譲りなんだな。


「いえ、嘘ではありません。自分は永久さんと結婚して幸せな家庭を作っていきたいと思ってますから」

「……き、霧都くん」


 俺の真剣な声色に、永久さんが少しだけ照れたように顔を赤くした。







 そんな話をしながら、俺たちは美味しいオムライスに舌鼓を打った。






 そして、お昼ご飯を食べ終わり、お腹も落ち着いてきた頃。


 俺は永久さんの両親に話をすることにした。



「雄平さん。優美さん。お二人に聞いていただきたい、大切な話がございます」


 俺のその真剣な声色に、二人の目が少しだけ細くなる。


「うん。何かな、霧都くん」


 二人を代表して、雄平さんが返事をくれた。


「自分はつい先日まで、永久さんでは無い、違う女性と人生を共に歩んで行きたいと思っていました」

「き、霧都くん……」


 驚いた目で永久さんが俺を見てくる。

 きっと


『その話はしなくても良いんじゃないんですか!?』


 と思っているんだろう。

 でも、それは違う。


 キチンと俺の気持ちの変遷を話した上で、二人から了承を貰わないと、俺は今後、彼女と胸を張って交際出来ない!!


「へぇ……そうなんだね。それで?」


 鋭い目で俺を見る雄平さんの視線から逃げること無く、俺は言葉を紡ぐ。


「海皇高校の入学式の前日。自分はその女性に告白をしました。しかし、手酷く振られてしまいました。そして傷心のまま、入学式へと向かうと、永久さんがクラス分けの紙の前に居ました。彼女は俺を見て、直ぐにかつての自分だと気が付いてくれました。自分は恥ずかしながら、彼女からの名乗りがあるまで気が付けませんでした」


「そして、自分はその場で永久さんから、小学生の頃から想い、慕っていた。と思いを告げられました」


「振られた翌日に永久から告白されて、君はすぐに乗り換えたのかい?」


 雄平さんのその言葉に、俺は首を横に振った。


「違います。俺がしたのはもっと酷いことです。自分はその告白を『保留』にしました」

「そんな、それをお願いしたのは私……っ!!」


 俺を庇おうとする永久さんを、俺は制する。

 違うんだ。俺は彼女の『優しさ』に甘えただけなんだ。


「自分は、その女性に十年間片思いをしていました。幼馴染と言うやつです。一度振られた位では諦めが付きませんでした。ですが、次の日に『もう脈は無いんだな』そう確信出来るような出来事がありました」

「……その出来事については、聞かないでおくよ。きっと、君にとっては話したくは無いことだろう?」


 雄平さんの言葉に、俺は首を横に振った。


「……いえ、お話します。お二人には全てを知ってもらいたいと思っています。これは自分のわがままです。その幼馴染からは……自分は異性では無く『弟』なのだと言われました」


 出来の悪い。と言う部分は伏せた。

 流石にそれは言うべきでは無いと思った。


「なるほどね。長い間一緒に居たからこそ、そういう思いになってしまったのかも知れないね」


「そして、自分はその場で死んでしまいたい。そう思いました」

「「「……っ!!」」」


 そう、その時は本当にそう考えていた。

 この世から消え去りたい。

 そう思っていた。


「そんな自分を救ってくれたのが、美鈴です。自分の最愛の妹です。そして、振られた翌日に自分を好きと言ってくれた永久さんと、恋人になることを前提とした恋愛をするのは不誠実。そう思っていた自分の気持ちを一蹴してくれました」


「いい、妹さんだね」

「はい。自慢の妹です」


「そして、自分は永久さんと恋愛をすることを決めました」

「そうか、そこまで君は色々と考えてくれて……」


「……ですが、自分の情けない話は続きます」

「……え?」


 疑問符を浮かべる雄平さんに、俺は続ける。


「自分と幼馴染の間には気持ちのすれ違いがありました。それが原因で、自分と彼女とは喧嘩をしました。ですが、自分はその彼女を振り払って、永久さんの元へと向かいました」


「その事を隠したまま、自分は永久さんと会いました。ですが、やはりそんな自分の気持ちは彼女には筒抜けでした。そして、自分が幼馴染にしたことについて、彼女から非常に厳しい叱責を受けました」


 俺はそう言うと、永久さんを見て微笑む。


「永久さんには本当に感謝しています」

「霧都くん……」


「そして、永久さんから、幼馴染としっかりと話をして来てください。と送り出されました。全てが終わったら、話をする。と約束をしました」


「その後は、幼馴染と話をして、すれ違いの原因についての理解も出来ました。そして、仲直りをして、新しいスタートを切れるようにもなりました。彼女の叱責が無ければ、そうはならなかったと思います」


「……そんなことがあったんだね」


 雄平さんはそう言って、目を閉じた。


「ここで、俺が永久さんに電話をすれば良かったんです」

「……ははは。まだ何かあるのかい?」


 その言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。


「はい。ここから先が永久さんが自分の家に来た理由ですね」

「永久が?」


 雄平さんはそう言うと、彼女に視線を飛ばす。


「えぇそうです。まぁ、霧都くんには深く反省してもらったので、今は許してますけど」


「自分は永久さんに連絡をしないまま、幼馴染の部屋のベッドで寝てしまいました。小学生まではそんなことは日常茶飯事だったので、断れなかったのもあります。非常に軽率で不誠実な行為だったと反省しています」


「そして、連絡を怠っていた自分に会って話をするために、永久さんは自宅に来たんです」


「……ふふふ。だって、待てども待てども、全然連絡が来ないんですよ?会って話しを聞こうと思うのは当然ですよね?」

「もう二度とこんな事はしないと誓うよ」


 俺がそう言うと、永久さんは満足そうに笑ってくれた。


「そして、永久さんからは幼馴染との一件を許してもらえる条件として、二日間は自分と夜を過して欲しいと言われました。昨晩と含めてあと一日になります」


 俺はここまで話して、頭を下げる。


「桜井霧都と言う人間は、こんな情けない男です。道に迷い、あっちにふらふら、こっちにふらふらと、一人でまっすぐ歩けないような男です。ですが、こんな自分ですが、永久さんを幸せにしたいと思う気持ちはもう曲げません。自分の一生を賭して、彼女を幸せにします!!」


 俺は雄平さんの目を見て言う。


「永久さんのもう一日の宿泊を認めていただきたいと思います!!よろしくお願いします!!」

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