第11話 タイジの狙い

「次に君の戦闘能力についてだが、あの討伐記録はやはり異常だよ」


 やっぱそこも把握してますよねー。

 なんてったって元厚労大臣だもん。


「到底〈サンダーボルト〉だけで成し得るものではない。質も、量もね」

「ですが、単一スキルってのは成長するものですし?」


 たとえば〈雷魔法〉などのスキルオーブだと、〈サンダーボルト〉から始まり〈サンダーブレード〉や〈サンダージャベリン〉など、使い続けると新たなスキルを覚える。

 もちろん成長すれば個々の魔法威力も増幅はするのだが、同じスキルでも〈サンダーボルド〉のスキルオーブで習得したもののほうが威力の上昇幅が大きいのだ。

 ……っていうスキルの仕様でごまかしたいんだけど。


「いくら成長しようと、最弱の雷魔法である〈サンダーボルト〉でレッドドラゴンやグリフォンを倒すのは、不可能だと思うがな」

「そこはほら、個人差とか?」

「仮にそうだとして、納品数の少なさはどう説明する」

「なんといいますか、〈収納〉にも限界が……」

「ジンと組んでいたころは平気で運べていたのに、ソロだと収納量が減る呪いでも受けているのか?」

「ぐぬ……」


 やっぱごまかしきれてなかったか……。


「ジンの件があったから深くは突っ込まれなかったが、あと数週間もすればいろいろと探られていたと思うぞ?」

「いろいろと、ですか」

「そうだ。たとえば納品できないものには、できない理由があるのではないかと。特殊な討伐方法とかな」


 いやだって、レッドドラゴンとかいくら【銃士】のレベルが高くても〈サンダーブレット〉だけじゃ倒せないからなぁ。

 そうなると〈サンダーボルト〉で倒しましたとごまかせなくなるし、じゃあどうやって倒したんだって話になるから納品もできないし……。

 とはいえ、考えなしに強いモンスターを狩りすぎたのも事実なんだよなぁ。

 でもジョブレベル上げたかったし、そうやって〈フレアブレット〉を覚えたおかげでジンにも勝てたわけだし……。


(だから儂にまかせておけばよかったのだ)


 またも影の中から呆れたような声が……。

 いやでも飼い猫に人殺しさせるなんて、やっぱ嫌だしさ。


「なによりあの補佐官を負かしたジンを倒したのだからな。ギルドとしては、調べざるをえんだろう」

「いや、ジンは自爆だったって話で……」

「だが君は最初、自分が殺したと申告したそうじゃないか」


 ……そんなやりとりまで記録に残ってんのかよ。

 でもってやっぱ筒抜けかコンチクショウ!


「まぁでも、討伐記録にはなかったわけですし」

「なら、生きてるんじゃないか?」

「へっ!?」


 生きてるって、ジンがか?


「案外向こう側にいっていたりしてな……くくっ」


 タイジくんがなにやら楽しげに笑う。


 その可能性は、できるだけ考えないようにしてたんだけどなぁ……。

 でもあのときの閃光。

 あれは本当に〈フレアブレット〉だけのものだったのだろうか。

 いくら魔神の腕輪で威力が増幅されたからといって、あそこまでの爆発になるのか?

 あのとき視界に広がったオレンジ色の閃光……。

 あれはトワイライトホールの……世界を渡るときのあの光に似ていなかったか……?


「序盤のボスが終盤にパワーアップして登場というのは、フィクションではよくある話じゃないか」

「よしてくださいよ」


 あいかわらず楽しげなタイジくんを、とりあえずねめつけておく。


「まぁ、向こう側については私の知ったことではないがな」


 彼の浮かべていた笑みが、なんだか意地の悪いものに変わっている。

 教えてくれれば力になってやってもいいぞ、とでも言いたげだ。

 絶対におしえねーぞチクショウ。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。

 タイジくんと話したことで、どうやら俺は自分が思っているより遙かに考えが足りていないことを思い知らされた。


(主はとにかく鈍いのだ。いろいろとな)


 うるせーよ。


 なんにせよジンの件については、とりあえずトマスさんに話して情報を……いや、あの人のことだからいろいろ察してもう動いてるかもなぁ。

 大陸のどこかに異変があったとかそういうの、調べてそうだなぁ。


「さて、あとは黒猫だな」


 どうやらジン絡みのことで俺が相談しないと察したのか、タイジくんは話題を切り替えた。


「総合病院から奥村隆が失踪したと思われる時間の前後、そしてうちの山で複数の遺体が発見される少し前、近くの防犯カメラに映る黒猫を確認したが、あれは君の飼い猫かな?」


 そんなことで、この人はシャノアに目をつけたのか……!


(主、すまん)


 いや、シャノアが謝ることじゃない。

 俺の油断……か。


「どうして俺の飼い猫が黒猫だと?」

「病気の飼い猫にわざわざライフポーションを飲ませて延命させていたんだ。このあたりではそれなり有名だぞ?」

「あー……」


 そりゃそっか。


「ジンとタツヨシの言葉がなければ、気にも留めなかっただろうがな」


 そういやあいつら、黒猫にやられたとか言ってたんだよなぁ。

 警察もギルドもたわ言として処理したけど、この人はそれを気に留めてたわけだ。

 にしても、なんで防犯カメラの映像なんかを……。


「うちの山から十数体もの遺体が発見されたんだ。気になるのは仕方ないだろう?」


 なるほど、それで自宅近くの映像を確認したとき、シャノアの姿が映っていたわけだ。

 

「君や君の周囲を調べているうちに、奥村隆の失踪も気になってね」


 1件だけなら偶然だけど、2件となると疑いも生まれるってワケか。


 だからって、なんだ。

 シャノアについて調べられたところで、なにか困るわけでもないしな。

 正直に"ネコチャンが神獣になりました!"といったところで、誰も相手にしないだろうし。


「猫については個人的な興味から尋ねただけだ。私としてはいろいろ納得できたので、これ以上は聞くまい」


 そうですか。

 じゃあそこはお互い触れずにいきましょうやってことで……。


「そもそもなんで俺に声をかけたんです?」


 なんというか、タイジくんの目的が見えないんだよな。


 彼がまだ厚労大臣だったら、ギルドの利益のために俺の能力を調べるってのもわかるけど。

 それとも自分でいろいろ調べて、その成果を手土産に政界へと返り咲くとか?


「私はね、そもそも政治の世界に興味はなかったんだ」


 なんか絶妙なタイミングで自分語り始めちゃったけど?

 あれですか、〈読心〉とかそういうスキル持ってます?

 あ、ないですか、そうですか。


「じいさまに頼まれて親父のあとを継いだが、正直向いていないんだよ」


 いや、政治家に向いてない人が、四十手前で大臣になれますかね?


「冒険者をやっているほうが、よっぽど自分らしいと思える」


 たしかに冒険者としても優秀だとは聞いてるけどね。

 それもあって冒険者からの支持が厚かったそうだし。


「だから、あのアホどもの件は、私にとって都合がよかったんだ」

「つまり、政治家に戻る気はない、と?」

「おことわりだな」


 そう言って肩をすくめるタイジくんは、嘘をついているように見えなかった。

 とはいえ、腹芸の得意な元政治家だし、本心はわからんけどね。


「そんなタイジくんが、いったい俺に何の用なんです?」


 もうこの人がなにを考えてるのかわからんし、さっさと目的を聞いてしまおう。

 で、無茶な話ならおことわりしておさらばだ。


「アラタくん」


 彼は俺の名を呼ぶと、姿勢を正し、少し前のめりになる。


「企業戦士にならないか?」

 

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