第14話 セイカの考え

「それで、セイカはどう思う?」

「企業戦士の件か?」

「ああ」

「受けりゃいいと思うぜ」


 なんともあっさりした答えだった。


「相手はあの鵜川泰治だけど……いいのか?」

「ギルドよりゃましだろ」


 セイカはそう言って、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 ジンの一件以来、セイカのギルドに対する評価は地に落ちていた。

 彼らには彼らなりの理由があるんだと、なぜか俺がギルドを擁護するように説明したんだけど……。


『職員や一般人が何人犠牲になろうが、アラタになにかあるほうが嫌に決まってんだろーが』


 なんて過激ながらも嬉しいことを言ってくれた。


 どうやらセイカの中では、俺を切り捨てようとしたギルドよりも、俺に価値を見出して利用しようとするタイジくんのほうがましに見えるようだ。

 実際そうかもしれないな。


「大体よぉ、冒険者ギルドってのは、昔の農協や漁協みたいなもんだろ?」

「まぁ、そうかなぁ」

「組合のやり方に不満をもって独自路線でやってた農家や漁師は当時だっていたんだし、別にいいんじゃね?」

「……そういうもんかな」


 冒険者はギルドとともにあるのが当たり前。

 そう思っていたけど、そもそも異世界と地球とを行き来できる俺自身が、当たり前の存在じゃないからなぁ。

 そういう考えも、いい加減あらためなくちゃいけないのかもしれないな。


「それに、企業戦士ってんならあたしもあっちで戦えるだろ?」

「あー、それはそうかもな」


 錬丹術師であるセイカが冒険者になるってのは、日本じゃおかしな話しだ。

 だがこの異世界だと、ジョブチェンジさえすれば問題ない。

 まぁ【錬丹術師】なんていうこっちでも稀少な生産職にあって、わざわざ冒険者になる人はほとんどいないけど、ありえないって話じゃないからな。

 実際セイカはかなり戦えるようになっているし、日本でもCランクくらいの実力はあると思う。

 日本でセイカとダンジョン探索か。

 悪くないな。


「そういえばトマスさん、リースの件はどんな感じですかね?」

「冒険者の反応としては半々といったところですな」


 昨日の今日ではまだなんの進捗もないと思っていたが、トマスさんはすでにギルド支部へ話を持ち込んでいたそうだ。

 そこで職員が実際に冒険者たちの声を聞いたところ、乗り気なのが半分、怪しんでいるのが半分という具合らしい。

 下級冒険者にとって結構うまい話ではあるけど、そのぶんなにか裏があると考えるやつもいるだろうな。

 ってか、ここで考えなしに飛び付くようなヤツは、考えが甘いと言わざるを得ないだろう。


 もちろんこちらに相手を騙す意図はないけど、だとしてもちゃんと考えなくちゃいけないんだよな。

 とはいえ考えすぎてなにもしないってのもよくないんだけど。

 そのあたりのバランスは難しいところだ。


「ただ、ガズさん始めギルド職員の方々からはかなり期待を寄せられておりますな。成功例が出ればあとに続く冒険者は多いだろうと」

「なるほど」

「ただ、そうなりますと装備品の生産が追いつくかどうかが心配ですなぁ」


 この世界では、ハンドメイドが基本だ。

 ジョブの恩恵があるので生産速度は地球のハンドメイドとは比べものにならないくらい速いけど、それでも機械による大量生産には遠く及ばない。


「それにメンテナンスの手間もありますしなぁ。その手が追いつくかどうか」


 たとえば予備の武具があれば、メンテナンスで預かっているあいだそれを貸し出すことも可能だが、そうなるとやはり数が必要になってくる。


「それこそ、鵜川の坊ちゃんに頼めないのかい? あそこ、なんかそういうの作ってただろ」

「あー、鵜川アームズか」


 鵜川アームズってのは、ダンジョン発生以降に鵜川グループが立ち上げた、武器防具の生産会社だ。

 自動車部品を作っていたノウハウを活かして、アルミニウムやポリカーボネート、ステンレスを使った装備品の大量生産を行っている。


 冒険者の装備で最も上等なのはダンジョン産の宝物で、次に鍛冶師などの手によるハンドメイド品だ。

 それに比べて大量生産品は品質が数段劣る。

 工業品としての質というよりは魔素含有量の点で、だけど。


 ただ、ダンジョン探索においては魔素含有量がかなり重要になってくる。

 だから冒険者はこぞってダンジョン産のアイテムや、ハンドメイド品を求めるんだけど、それらはなにせ高い。


 ならばと、多少品質は劣っても、安い大量生産品を使う冒険者も少なくない。

 というか、最初のうちはみんな大量生産品を使うのだ。

 ないよりはまし、というやつだな。


 それに、大量生産品であっても野良モンスターに対してはそれなりの効果を発揮する。

 冒険者じゃない一般人が、自衛のためにアルミニウム合金やポリカーボネート製の防具を身に着け、ステンレスの剣を腰から提げる、なんてのはよくある話なのだ。


 そしてこの世界のダンジョンに現れる魔物は、地球でいう野良モンスターに相当する。

 上級ともなればともかく、下級か、うまくすれば中級くらいまでなら大量生産品でも充分に戦えるだろう。


「なるかぁ、企業戦士」


 どうやらいろんな意味で、そうしたほうがよさそうだ。


 どうせタイジくんは俺を利用しようとしているんだからな。

 こちらもせいぜい利用させてもらうさ。

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