第17話 アイリスの涙
【お詫びと訂正】
セイカの言葉が通じないことをすっかり忘れてました…!
とりあえず前話にてトマスとアイリスは日本語を勉強をある程度勉強→【商人】のジョブスキル〈翻訳〉との掛け合わせでいい感じにしゃべれるという感じに修正しております。
――――――――――
翌日、俺とセイカとアイリスの3人でダンジョンへ潜ることになった。
シャノアはのんびりしたいとのことで留守番だ。
一応セイカに〈影分身〉はつけてくれるみたいだけど。
「しかし、久々にひとりで寝たな」
セイカとアイリスはいつのまにか仲良くなっていて、昨夜はふたり同じ部屋で過ごしたようだ。
そのうえシャノアまでそっちにいったので、俺はひとりでのびのびと寝られたわけだ。
ちょっとだけ寂しかったけど。
あとタカシの見舞いにもいった。
トマスさんから再生魔法の話を聞いたおかげで希望が持てたようで、かなり元気そうだった。
幻肢痛の痛みについては【黒魔道士】を雇い、〈パラライズ〉で緩和できたらしい。
ポーションで押さえられない痛みに〈パラライズ〉を使うのは、こちらではよくあることだとかで、これにはセイカも驚いていた。
タカシはこちらの世界に骨を埋める覚悟ができたらしく、スキルオーブで〈翻訳〉を習得し、現在こちらの言語を勉強中だ。
メイドのモランさんと互いに言語を教え合っているようで、お互いにめきめき言語力をのばしているとのことだった。
朝食を終え、準備を整えたところで屋敷の外へ。
「おまたせ」
外では、すでにアイリスとセイカが待っていた。
「アイリス、その恰好は?」
「わたし、ただいま【銃士】強化月間ですから!」
そう言って意気込むアイリスはテンガロンハットを被り、丈の短いハーフスリーブのブラウスにブラウンのレザーベスト、ホットパンツ、太ももを半分以上覆うロングブーツという出で立ちだった。
「セイカも、似合ってるな」
セイカは白いブラウスの上にロングスリーブのレザージャケットを羽織り、下はワイドパンツにスニーカーという格好だった。
セイカの装備はアイリスが見繕ってくれたらしく、お揃いのテンガロンハットを抱えている。
「本当は全部お揃いにしたかったのですが……」
「この歳でそんな攻めたカッコできねーよ」
いや、セイカまだまだ若いと思うけどな。
ちなみにワイドパンツとスニーカーは、セイカの私物だ。
服に防御力がないかわりに、中のタイツが相当いいものらしい。
「アラタも、似合ってんな」
「おう、ありがと」
俺もいつものスタイルではない。
ダークレッドのロングコートに、黒のレザーパンツ、同じく黒のショートブーツという格好だ。
これは最初に預けたレッドドラゴンとハイオーガの素材で作られたものだった。
「まぁ、ちっと中二くせーけどな」
「自覚はあるけど、こっちじゃ地味なほうだよ」
さすがにこの格好を地球でするのは、少し恥ずかしい。
それ以前に、これらの素材をどこで手に入れたんだって話になるからな。
ジンから預かった死骸は、ダンジョンを彷徨う際の囮に使ったと報告してるわけだし。
「それではみなさま、お気をつけて」
「セイカ、アイリス、気をつけてな」
トマスさんとシャノアが、見送りに来ていた。
「シャノアさま、いま……!」
アイリスが驚きに目を見開き、声を上げる。
「どうした、アイリス?」
「あぁ、やっぱり……シャノアさまが、わたしの名前を……!」
どうやら名前を呼ばれたことに感動したようだ。
「人の名を覚えるのは苦手だが、主が世話になっていることだしな。アイリスという名は、親が名付けてくれた大切な名前なのだろう?」
「はい……はい……! 亡くなった、母の……大切な……うぅ……」
感極まったのか、アイリスは言葉を詰まらせ、涙を流し始めた。
「どうしたアイリス、なぜ泣くのだ?」
シャノアは困ったように言いながらアイリスの元へ掛けより、彼女の足に頭を何度も撫でつける。
「ごめんなさい……わたし、嬉しくて……」
アイリスはそう言ってしゃがみ込むと、顔を覆って嗚咽を漏らした。
シャノアは心配そうに、顔を覆う彼女の手をぺろぺろと舐めている。
「よかったな、アイリス……」
なぜかセイカも、もらい泣きしていた。
……なんだこれ?
「あの、トマスさん?」
「……なんでしょう?」
トマスさんも亡き奥さまを思い出してうるっとしているみたいだが、比較的冷静ではあった。
「アイリスはどうしてあそこまで感動してるんでしょう?」
「それは、シャノアさんに名を呼ばれたら感動もするでしょう」
「それって、シャノアが神獣だから、ですかね?」
神獣に名を呼ばれることが、名誉なことなのかも?。
「それもあるでしょうが、アイリスは単純にシャノアさんが大好きなのですよ」
「はぁ……」
推しに名前を呼ばれて感動する女の子、みたいなもんかな?
○●○●
あのあとアイリスが落ち着くまで待って、出発した。
やってきたのはおなじみ、石造りの迷宮だ。
「セイカさま、その角を曲がったところに、1匹います」
「どれどれ」
セイカは足音を殺して壁沿いに歩き、角のころから向こう側をのぞき込む。
「ドブネズミめ、死にやがれ!」
そこまでは慎重だったのに、ウェアラットを見るなり踏み込み、拳銃をバンバン撃ち始めた。
「ちっ、すばしっこいやつめ!」
どうやら逃げられたらしい。
「セイカ、もっとちゃんと狙わないと、当てるのは無理だぞ?」
「あぁ、わーってる。ドブネズミを見てちっと熱くなりすぎたぜ……」
どうやらセイカはネズミが嫌いなのかな。
「セイカってネズミが苦手なのか?」
「ドブネズミだけな。あいつらがどんだけ店に迷惑かけてるか……」
なるほど、ドラッグストアの店長としては、悩みの種なんだろうな。
よくよく考えればセイカは薬学部なんだから、実験用のネズミなんかで見慣れてそうだし。
「セイカさま、次はわたしが動きを止めますので、落ち着いて狙ってください」
「わかったぜ」
ほどなく、俺たちはウェアラットに遭遇する。
――パシッ!
魔弾銃から大きめの発射音はしたが、弾丸は見えない。
「チチッ……!?」
その直後、逃げようとしたウェアラットの動きが止まる。
「セイカさま、いまです!」
「おう!」
セイカは拳銃をしっかりと両手で構え、狙いをつけて引き金を引いた。
――バンッ! バンッ!
銃弾は頭と胴に1発ずつ命中し、ウェアラットは即死だった。
「セイカ、ナイスだ!」
「おみごとです!」
「へへっ……」
俺たちに褒められ、セイカが照れたように頭をかく。
「アイリスはもう〈スタンショット〉を使えるんだな」
さっきアイリスがウェアラットの動きを止めたのは、〈スタンショット〉というジョブスキルだ。
銃弾は出ず、音が聞こえる範囲にいる前方の敵を硬直させる、という効果がある。
そこまで成功率の高いスキルではないが、ウェアラットなら問題ない。
たしか【銃士】レベル10くらいで覚えたかな。
「はい! もうすぐ【銃士】レベルが15になりますので!」
アイリスがそう言って胸を張る。
彼女もこのところ、がんばってるんだな。
もとはトマスさんの補佐をしていたアイリスだが、先日のオーガの件が彼にはかなりこたえたらしい。
アイリスが強くなるぶんには問題ないということで、いまは冒険者稼業を応援してくれているのだとか。
「それじゃこの調子でどんどんいこうか」
その後もアイリスのサポートを受けたセイカは、順調にレベルをあげながら探索を進めることができた。
セイカにとっては初めてのダンジョン探索なので、半日くらいで帰る予定だったのだが……。
「まだまだいけるぜ!」
と、セイカが思ったよりも元気だったので、結局丸1日かけて最深部までを攻略した。
ジョブレベルが順調にあがったことと、元から持っていた〈健康〉スキルのおかげだろう。
このぶんならセイカのことは、アイリスたちに任せてよさそうだ。
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