第18話 伝説のアイテム

 あれから1時間ほどで馬車は町に着いた。


 入場には審査があるのだが、トマスさんが俺の身元を保証してくれたため問題なく町へ入れた。


 それから大通りを馬車で駆け抜け、俺たちはトマスさんの邸宅に到着した。


「では、私はこれで」


 ギルダスさんは亡くなった部下の遺族へ報告にいくため、邸宅で別れることになった。


「アラタさま、またのちほど」


 治療院へ運ばれるマリアンさんに付き添うということで、アイリスさんとも別れる。


「まるで城だな、こりゃ」


 トマスさんの邸宅を見て、思わず呟いた。

 振り返ると、俺の身長の倍以上はあるだろう塀と、大きな門が目に入る。

 あそこを通って、ここまできたんだよな。


 やっぱりトマスさん、ただ者じゃなかったな。


「それではアラタさん、こちらへ」


 執事さんやらメイドさんやらが現れ、いろいろと話をしたあと、トマスさんの案内で邸宅に入った。


 彼に続いて、家の奥へ向かう。

 トマスさん自身の先導で、いくつか鍵のかかったドアを開け、先へ進んだ。


「こちらが当家の宝物庫となっております」


 宝物庫があるって、すごいなぁ。

 なんて感心しながら、彼の案内で中に入る。


「おお……」


 絵画やら芸術品やら楽器やら、いろんなものが保管されていた。


「ここには売りたくないものや、買い手のつかないものを保管しているのですよ。ま、ほとんどは私の趣味で集めたガラクタですがな」


 自嘲気味にそう言いながら、トマスさんは宝物庫内を歩く。


「えーと、たしかこのへんに……ああ、あったあった」


 どうやら目当てのものが見つかったみたいだ。


「それは、腕輪ですか?」


 トマスさんの手には、黒い腕輪があった。


「はい。これは魔神の腕輪と呼ばれる、伝説のアイテムですな」

「伝説のアイテム……」


 なんでもその腕輪を使うと、あらゆるスキルの効果が数倍から数十倍に増幅されるらしい。


「かつてこれを身に着けた魔道士が、万を超える魔物をたった一度の魔法で焼き払い、町を守ったという伝説があるのです」

「すごいじゃないですか!」


 たしかにこれがあれば、〈帰還〉で世界を越えられるかもしれない。


「ただ、ひとつ問題がありましてな」


 トマスさんの表情が曇る。


「それだけの効果を発揮するには、対価が必要となるのですよ」

「対価、ですか」


 まさか、生命力を吸われるとかなのか?

 でも、シャノアのためなら、それくらいの賭けに出ても……。


「高密度の魔石が必要なのですよ」

「えっ、魔石でいいんですか?」


 そんなもので使えるんなら、安いもんだと思うけど。


「ここに魔石をはめ込むのですがね」


 腕輪には、一握りサイズの石がはまりそうなくぼみがあった。


「密度が高いほど、効果が上がるのです。世界を越えるとなると、かなり高密度の魔石が必要でしょうなぁ」

「なるほど……」


 魔石の大きさは、モンスターの体格で決まる。

 たとえばオークとウェアウルフだと、体型はともかく体格は近いので魔石のサイズもほぼ同じだ。

 だがオークよりも遙かに強いウェアウルフの魔石のほうが、魔素含有量が大きい。


 つまり、魔力密度が高いわけだ。


「このサイズに加工して、それなりの魔力量を確保しなくてはいけないわけですか」

「そのとおりですな」

「たとえば、さっき俺が倒したオーガだとどうでしょう」

「オーガ程度でしたら、せいぜい3割増し程度でしょうな」


 それはそれですごいが、さすがに世界を越えるには足りなそうだ。


「ですがご心配なく。ウォーレン商会のあらゆる伝手を使って、ドラゴンの魔石でも手に入れて見せましょう! 遅くとも10日以内には必ず!」

「10日、ですか……」


 ギリギリだな。


 いや、待てよ……ドラゴンの魔石?


「トマスさん、見てほしいものがあるんですが」


 魔石なら、何とかなるかもしれない。


○●○●


 俺たちはトマスさん宅の裏庭にいた。

 裏庭といっても、運動場くらいあるんだけど、それはそれで都合がいい。


「それじゃ、いいですか? 出しますよ?」

「ええ、どうぞ」


 トマスさんに確認をとった俺は、〈収納〉からモンスターの死骸をいくつか取り出した。


「なんと!? これは、レッドドラゴン! こちらはハイオーガですか……! オークキングまで……なんとまぁ」


 次々に現れるモンスターの死骸に驚きの声を上げていたトマスさんだったが、ふと眉を寄せる。


「どれも、一刀のもとに倒されておりますが……もしや?」

「ええ、すべてジンが倒したものです」


 そう、これは昨日の探索で、ジンが倒したモンスターだった。


「恐るべき腕の持ち主ですなぁ。よくぞ生き延びられたものだ」

「助けてくれた人が、いたので」


 あそこでタカシが来てくれなければ、逃げられなかっただろう。

 それだけじゃなく、ナイフを渡してくれなければ、オーガにも勝てなかったかもしれない。


 もし帰れたら、ちゃんと礼をいいたいな。


「そうですか。でしたらその方は、我々にとっても恩人ですな」

「そうなりますかね」


 俺が生き延びたからこそ、トマスさんたちを助けられたもんな。


「それにしても、ものすごい質と量ですなぁ」


 トマスさんがふたたび感心したように呟く。


 昨日のあいつがやたらハイペースで数を倒すものだから、メンバーたちのポーチへの収納が間に合わず、俺も〈収納〉していたのだ。

 そのうちの強そうなやつを、ここに並べたわけだ。


「これなら、なんとかなるやもしれません」

「そうですか、よかった……」


 俺はほっと胸を撫で下ろした。


「では大急ぎで解体を済ませ、魔石の加工をさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 ジンのせいで異世界へくる羽目になった俺だが、あいつのおかげで地球に帰れるかもしれないっていうのは、なんだか妙な気分だな。

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