第3話 地球ダンジョン

 俺が今回この木造迷宮を選んだのにはいくつか理由がある。


 まず第一に通路が入り組んでいて、他の冒険者に戦いを見られづらいこと。

 ここは新人研修によく使っているので、マップが頭に入っていること。


 そしてもうひとつは……。


「ニャッ!」


 なんて考えてると、シャノアがひと鳴きして飛び出した。

 そして視線の先では、ウェアラットの首が飛んでいた。


「シャノア、おつかれ」

「うむ」


 ウェアラットの死骸を〈収納〉したシャノアが、小走りに戻ってくる。

 床が木なので、歩くたびに爪があたってチャカチャカと音が鳴った。

 このチャカチャカを聞きたいというのも理由のひとつ……というわけではなく、目当てはさっきのウェアラット。

 というか、人型のモンスターだな。


 迷宮型のダンジョンには、人型モンスターが出る確率が高いのだ。


 このS-70ダンジョンは下から上に登っていく塔型のダンジョンで、全5階層。

 まるで寺の五重塔がダンジョンになったみたいだ。

 とはいえ、1フロアあたりの面積は寺の敷地全部を合わせたより広いんだけど。


 出現するのはウェアラット、ゴブリン、コボルト、オーク、リザードマンの5種類。

 1階ごとに出現するモンスターが決まっているのも、わかりやすい。


「それで、どうだった?」

「戦った感覚はそこまでかわらんが、そのあたりは主が戦ってから考察したほうがよかろう」

「だな」


 ここは異世界ではじめて潜ったダンジョンの魔物と、同じようなモンスターが出現する。

 それを利用して、それぞれの世界のダンジョンを比べてみようじゃないかというわけで、最初にここを選んだのだ。

 ほかのダンジョンだと難易度が高いので、ランク的には問題なくてもたぶん止められていただろうからってのもある。


「じゃあ、この階はシャノアに任せるよ」

「よかろう」


 尻尾とヒゲを立てて、シャノアが答える。

 ネズミを狩れるのが楽しいのだろう。


 1階は最短ルートを通り、ウェアラットを10匹ほど倒して階段を上った。


○●○●


「ゲギギッ!」


 ゴブリンが現れた。

 これが2階のモンスターだ。


「じゃあ、俺がやるぞ」

「かまわんよ」


 シャノアはあくびをすると、俺の足下で寝転がった。

 いくら油断したところで、ゴブリンじゃあこいつには傷ひとつつけられないだろうなぁ。


「さて」


 〈収納〉から魔弾銃を取り出す。

 これは最初にトマスさんからもらったものよりも、遙かにグレードの高い銃だ。

 オリハルコンやミスリルなどの稀少金属、トレントという樹木型の魔物素材をふんだんに使い、一流の【鍛冶師】が魔素をしっかり込めて作った、ダンジョン産のものにも匹敵するシロモノだった。

 主な性能の違いは魔力の充填量と伝達効率。

 ようは一度にたくさんの魔力を早く込められるってことだ。


「といっても、相手はゴブリンだからな」


 ほんのちょっとだけ魔力を充填し、構え、引き金を引く。


 ――バチッ!


 光弾が高速で飛び、ゴブリンの頭に命中した。


「ゲ……ガガ……」


 光弾はそのまま貫通し、ゴブリンは身体を硬直させたまま何度か痙攣すると、その場に倒れた。


「ふむふむ」


 歩み寄り、傷口を確認。

 しっかりと焼け焦げていた。


 俺が撃ったのは〈サンダーブレット〉というスキルで作り出した、雷撃の銃弾だった。

 ほんのわずかな魔力を込めただけでも、ゴブリンを一撃で倒せる威力がある。


「どうやら傷口も問題なさそうだ」


 俺は今回、雷の矢を放つ〈サンダーボルト〉という魔法スキルを習得したと、申告していた。


 スキルにはいろいろな分類がある。

 魔法スキルと非魔法スキル、戦闘スキルと生産スキル、と言った具合に。

 そんな分類の中に、複合スキルと単一スキルという分け方もあった。


 たとえば複合スキルである〈火魔法〉を習得すると、〈ファイアボルト〉〈ファイアボール〉〈ファイアウォール〉〈ファイアストーム〉といった魔法スキルを覚えられる。

 対して〈ファイアボルト〉だけを覚えられる単一スキルも存在する。


 それぞれにメリットデメリットがあり、複合スキルは成長するにつれ新しいスキルを習得できるが、各スキルの威力は使用者の魔力や技術に左右される。

 対して単一スキルは、成長するとスキルの威力そのものが増す。

 同じ〈ファイアボルト〉でも、単一スキルか複合スキルで、威力に天と地の差が出るのだ。


 さらに複合スキルに比べて、単一スキルのほうが必要なキャパシティが小さくて済むというメリットもある。


 俺が今回〈サンダーボルト〉を選んだのは、小さいキャパシティでも覚えられる割にそこそこ強いという理由からだった。

 つまり、俺が覚えてもおかしくないからだな。

 また、〈サンダーブレット〉と傷口の形状が似ているというのも、理由のひとつだった。


「じゃあ次の検証にいこうか」


 というわけで今度は9ミリ拳銃を取り出す。


「ゲギャゲギャ」


 しばらく歩き、新たに現れたゴブリンの頭めがけて発射!


「ギャッ!?」


 眉間に銃弾を受けたゴブリンは仰け反ったあと、頭を押さえてうずくまった。

 やはりダンジョンモンスターに、銃弾の効果は薄い。


「それじゃ次な」

「グ……ギィ……」


 額を抑えたまま恨みがましい視線を向けてふらつくゴブリンの頭に、もう1発お見舞いする。


「ガッ……」


 銃弾は額を抑えていた両手を貫通し、頭蓋骨を打ち破った。

 脳を破壊されたゴブリンは、その場に崩れ落ちた。


「〈エンチャントブレット〉だけで、充分に戦えるな」

「ふむ、そのようだな」


 銃弾に魔力を纏わせさえすれば、地球のダンジョンでも通用することが確認できた。


「まっ、こいつは納品できないけどな」


 ゴブリンの死骸を〈収納〉しながら呟く。

 通常弾でダンジョンモンスターを倒したとなると、これまた騒ぎになりそうだからな。


「主、どうだった?」


 ゴブリンを〈収納〉し終えたところで、シャノアが尋ねてくる。


「そうだな。やっぱり魔素が濃いせいか、スキルの威力が高い」


 最初に撃った〈サンダーブレット〉だが、同じ魔力を込めたとしても、異世界だともうひと回り銃弾が小さく、光量も速度も低くなるはずだ。


「儂も同感だ」


 俺の意見に、シャノアも同意する。


「ただそのぶん魔物も強いな」

「うむ。ゆえに戦った感じだと、むこうとかわらんな」


 そう、スキルの威力が増したぶん、敵も強くなっているので、戦闘の難易度はほとんどかわらないのだ。


「つまり、こっちのほうがお得ってワケだ」


 同じ戦闘コストではあるが、得られる素材や魔石の魔力密度が高い。

 ならば、こちらで魔物を狩ったほうがお得ということになる。


「じゃあ、サクッと攻略するか」

「そうしよう」

「悪いけど、他の冒険者に会わないように気をつけてくれよな」

「まかせろ」


 その後はシャノアに周囲を警戒してもらいつつ、ダンジョンの探索を進めた。

 入り組んだ迷宮だけあって、上層階へ向かうルートも複数あるため、他の冒険者を避けるのは楽だった。


 結局俺たちは、3時間ほどで5階層をクリアした。



「えっ、もう最上階までいったんですか?」


 報告をすると、受付さんが驚いていた。


「まあ、あそこのマップは頭に入ってるから。モンスターも弱いし〈サンダーボルト〉だけでも楽勝だったよ」

「なるほど、さすがですね」


 とりあえず〈サンダーブレット〉で倒したモンスターだけを納品し、報告を終えた。

 残りは異世界に持って帰って、トマスさんに引き取ってもらえばいい。


「というわけで、今後はダンジョンもガンガン攻略するから」

「はい、期待しておりますが……」

「なに?」

「それはそれとして、野良の討伐も引き続きよろしくお願いしますね」

「了解、わかったよ」


 野良の一部は向こうの冒険者ギルドにでも納品すればいいかな。

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