第30話 いまさら〈帰還〉の成果報告

 ギルドからウォーレン邸に帰った俺は、シャノアが昼寝したいというので部屋に戻った。


「では、夕食のころにお呼びしますね」

「うん、よろしく」


 なんか疲れたし、俺もちょっと休むことにした。


 それにしてもいろいろあったな。


 まず今朝起きてシャノアと一緒にこちらへ〈帰還〉したらアイリスがエリクサーをくれた。

 それでシャノアの病気が治ったと思ったら神獣になって喋るようになった。

 神殿で【銃士】のジョブを得たら、なぜかシャノアが【忍者】のジョブを授かった。

 冒険者ギルドで登録作業をしたらジャレッドくんと決闘騒ぎになった。

 そのあと俺はいきなり5級にランクアップし、シャノアも10級冒険者になった。


 まだ半日かそこらで、いろいろありすぎだろ。


「ふぅ……」


 ベッドで仰向けになると、シャノアが駆け寄ってきた。

 そしてなにも言わず俺の腹に顎を乗せ、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。

 いや、しゃべれるんだからなんか言えよ。


「ふぁ……」


 そうこうしているうちに眠くなったので、そのまま意識を手放した。


○●○●


 19時頃に起こされ、今日もトマスさんやアイリスたちと夕食をともにすることとなった。


 ダイニングテーブルにはすでにいくつかの料理が並べられている。

 今夜も美味そうだ。


「シャノアさまはこちらへどうぞ」


 アイリスの示した先に、少し小さい器に盛られた料理があった。

 その前の椅子には台が置かれ、ちょうど猫が食べやすそうな高さに調整しているようだ。


「儂、これ食っていいのか?」

「はい!」


 アイリスがにっこりと答える。


「いやいやいやいや、ダメでしょ!」

「なんだ、ダメなのか? 主はケチだな」

「そういうんじゃなくて、猫は人間と同じもの食ったらいろいろまずいんだよ」


 塩分量とか、消化できない成分とか。

 あと人間には平気でも、猫にとっては毒になるものもある。


「それでしたら大丈夫です。わたし、ちゃんと調べましたから!」


 アイリスは俺たちが寝てるあいだ、神獣になにを食べさせればいいかを調べてくれたようだ。


「結論から言うと、神獣に食事は必要ありません」


 なんでも大気中の魔素を取り込み、それをエネルギーとして生活できるのだそうな。


「シャノア、腹減ってる?」

「言われてみれば減ってはいないが、メシならいくらでも食えるぞ」

「なんだそりゃ」

「いえ、そういうものなのです。神獣にとっての食事とは、娯楽みたいなものなので」

「そうなんだ……」


 そして文献をいろいろ調べた結果、人間と同じものを食べても問題ないということがわかった。

 というか食べたものを体の中で魔素に変換して吸収するらしいので、毒でもなんでも食えるのだそうな。


「そういうわけですので、どうせなら美味しいものがいいですよね、シャノアさま?」

「うむ、よくわかっているな、娘よ。もうカリカリにはうんざりだ」

「あれ、シャノアってカリカリ嫌いだったの?」

「嫌いではないが飽きた」

「その割にはフガフガ食ってるじゃん」

「腹が減ればなんでも美味い」

「さよか」


 まぁ、せっかく用意してくれたんだし、問題ないなら食べさせてもいいだろう。


○●○●


「そういえばアラタさん、いまさらですが、よくぞ無事に帰ってこられましたな」

「ああっ! 本当に、おめでとうございます!」


 たしかに、いまさらだな。

 まぁ帰って来るなりシャノアが逃げ回ったかと思うとしゃべり出したりしたもんだから、その話題をすっかり忘れてたよ。


「ところで、もしよろしければそのあたりのことを詳しくお聞かせ願えますかな」

「ええ、もちろん」


 トマスさんが提供してくれた魔道具のおかげで行き来できたわけだから、そのあたりの報告はしなくちゃいけないだろう。


「とりあえず、これを」


 俺はそう言って、空になった魔石と魔神の腕輪を取り出し、トマスさんに渡した。


「ふむふむ」


 トマスさんは魔人の腕輪本体と、ふたつの魔石をじっくりと見ている。

 というか、〈鑑定〉してるんだろうな。


「これほど密度の高い魔石が、空になったのですなぁ」

「実をいうと1回目のときは、生命力を削って魔力を使ったみたいで、結構危なかったんですよ」

「まぁ!」


 俺の言葉にアイリスが驚き、心配そうにこちらを見る。


「まぁ、そのおかげで〈帰還〉が成長したらしくてね。こちらに戻るときは自前の魔力だけでなんとかなったよ」


 そう聞いて、アイリスはほっと胸を撫で下ろす。

 この娘、表情がころころ変わるから、見ててほっこりするなぁ。


「なるほどなるほど。ああ、そうそう、空の魔石はいただいてもよろしいかな?」

「ええ、どうぞ」


 俺には必要ないけど、こういうのは研究材料として価値がありそうだしな。


「それと、代わりにというわけではありませんが、こちらグリフォンの魔石です」


 トマスさんはそう言って、魔石を外した腕輪と一緒に、加工済みの魔石をふたつ、俺に差し出した。


「本来レッドドラゴンの魔石よりも密度は低いのですが、あれは大急ぎで加工したせいで少し魔素が漏れたようでしてな」

「ほうほう」


 というわけで俺は残るレッドドラゴンの魔石を取り出し、グリフォンのものと合わせて〈鑑定〉した。


「おっ、密度はほとんど同じですね」

「はい。いただいた素材からですと、同程度のものがあとひとつかふたつは用意できそうです」

「なるほど。助かります。腕輪はまたお借りしても?」

「ええ、もちろん。それが使えると知られるとなにかと面倒なので、アラタさんが持っていてください」


 魔道士ひとりが戦略兵器になるようなシロモノだもんな。


「とりあえず、1往復はできるわけか……」


 新たに得たグリフォンの魔石ふたつと合わせて、3回は世界を越えられるわけだ。


 ただ、もう少し俺のスキルが成長すれば、もっと密度の低い魔石で行き来ができるんだけどな。


「トマスさん、転移系スキルを伸ばせるようなジョブってありますかね?」

「ふむ、でしたら【時魔道士】でしょうな」


 【時魔道士】か、なんかカッコいいな。


「どういう条件が揃えば、ジョブチェンジできますかね?」

「空間系のスキルが必要なのですが……候補にありませんでしたかな?」


 空間系となると、〈収納〉と〈帰還〉がそれだけど。


「残念ながら。というか、魔道士系はひとつも」

「ふむ……なら、魔法系スキルを習得すれば、あるいは……」


 魔法系スキルか……。


「キャパシティに余裕があるのでしたら、オーブを差し上げますが」


 いや、ほんと気軽にオーブくれるよね。

 ありがたい申し出ではあるんだけど……。


「残念ながら」


 ジョブを授かってキャパシティは広がったんだけど、そこは〈クリエイトブレット〉で埋まっちゃったんだよね。


「となりますと、【銃士】レベルを上げるのがいまは最善ですかな」

「【銃士】って、魔法系スキルを覚えるんですか?」

「たしか〈ファイアブレット〉などの属性弾を作れるスキルか〈エンチャントブレット〉などの付与系スキルが、魔法扱いになったはずですな」

「じゃあわたし、そのあたり調べておきますね」

「そっか、助かるよ」


 つまり当面の目標は、ジョブレベルを上げることになるわけだ。


 というわけで、今夜の夕食はお開きとなった。


「ところで主、ちゅるちゅるをもらってないぞ」


 部屋に戻る途中、シャノアに催促される。

 そういやそんな約束してたな。


「でもお前、腹一杯とか言ってたじゃん」


 メシならいくらでも食べられると豪語したシャノアだったが、どうやら一度に吸収できる魔素には限界があるらしい。

 なので出されたものはすべて食べたが、提案されたおかわりは断っていた。


「ちゅるちゅるは別腹だ」


 そう言いながら、シャノアは俺の脚に頭を撫でつけてきた。


「はいはい。ってか危ないからちょっと離れろよ」


 しょうがないので部屋に帰ってちゅるちゅるをあげた。

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