第5話 リースの概要

 それからいろいろ話し合っているうちに、リースの概要が決まってきた。


 初期費用はゼロ。

 支払いは冒険者ギルドの報酬から、毎回1割を差し引く。


 支払いが7割に達した時点で残額を一括支払いして買い取るか、リース品を返却するかを選べる。

 返却後は、新たなアイテムをリース可能。


「……これって残クレってやつ?」


 残価設定クレジットの略で、自動車のローンによく使われてるやつだ。

 事前に決めた価格分のローンを支払ったあと、残額を一括で支払うか、購入品を売却してチャラにするかって制度だったかな。

 頭金を用意できないけど、月々の支払額は抑えたい、って人向けのローンだ。

 ただ残クレを利用する人ってのは貯金なんてできないことが多いから、残額を一括で払うなんて無理なのでほぼ売却一択となる。

 でもこの残額ってのはローンを組んだときに決めるので、想定以上に損耗したり、物の価値自体が下がったりして売却価格が残額に達しない場合、差額を支払う必要も出てくるとかなんとか。

 とにかく、あんまりよろしくないって聞いたことがあるんだけどな。


「残クレとは別物だぜ」

「どう違うんだ?」

「そもそもリースには金利が含まれてねぇんだ」

「ほほう」


 また、支払い終了後に買い取りを選択しない場合、先述したとおり残クレは商品を売却して残額の返済に充てる。

 それに対してリースの場合は商品を返却するというかたちを取るので、仮にその時点でリース品の価値が下がっていても追加での支払いは原則不要だ。


「あとリースの場合、本体価格以外にもいろいろ含まれるな」


 いま想定しているプランだと、武器防具のメンテナンスや修理、場合によっては交換にかかる費用なども含まれるようだ。

 武器防具のメンテナンスってのは意外と金と時間、あと手間もかかるので、おろそかにする冒険者は多い。

 そこをウォーレン商会で請け負うのだという。


「修理だったり、あまりにも破損がひどい場合は交換だったり、そのあたりもできる限り対応するつもりですよ」


 さすがに無制限に請け負うとはいかないが、このあたりのさじ加減は実際にはじめてみていろいろ調整するとのことだった。


「支払いはどうするんです?」

「報酬からの天引きですな」


 冒険者ギルドには銀行のような役割を持っており、そこから口座引き落としのようなかたちでの支払いが可能らしい。

 そのあたりはガズさんにも確認しており、だからこそセイカはこの話をトマスさんに持ちかけたのだろう。


「しかしこれ、最初は赤字じゃないですかね」


 というか黒字化できるのか、これ?

 いくら装備を調えたからって、死ぬヤツは死ぬ。

 そしたら取りっぱぐれるんだよな。

 

 メンテナンスや修理なんかも大変そうだ。

 

 うまく支払いを終えられたとしても、残額を一括で払って買い取れる冒険者がどれくらいいるかわからないし、返却されたところで3割の価値が残っているとも限らない。

 

「ま、ある種の慈善事業のようなものですかな」


 だが、そう言って笑うトマスさんに、悲観的な様子は見られなかった。


 そもそもリースを始めるのは、ギルドへの納品量を上げるためだ。

 他の部門でいくらでも儲けられるウォーレン商会にしてみれば、ここで儲けを出す必要もないのだろう。


「セイカさん、素晴らしい意見をありがとうございます」


 話がある程度まとまったところで、トマスさんがセイカに頭を下げる。


「トマスさんやアイリスには世話になってるからな。役に立てたんなら何よりだぜ」


 トマスさんの謝意に、セイカは少し照れ気味に応えた。


「さて、忙しくなりそうですなぁ」


 トマスさんは最後にそう言い残すと、さっそく準備を始めるのか俺たちの前から去っていった。


「お父さまが楽しそうで、よかったです」


 そんな父親の様子に、アイリスも安堵したようだ。


「どうやらこちらのことは、どうにかなりそうですね」


 アイリスは微笑んでそう言うと、少し表情をあらためて俺とセイカに向き直る。


「というわけですので、アラタさまはセイカさまを連れて一度あちらに帰られては?」


 そういえば、セイカを連れて帰るって話だったな。

 向こうでの騒動も片付いたし、一度落ち着いて親父さんに会わせてやりたいし。


「あー……確かにいっぺん親父には会っときたいけど、リースの件はあたしが言い出しっぺだしな。さすがほったらかしってのは……」

「そのあたりはお気になさらず。お父さまもわたしも、それなりの商人ですから」


 それなりどころか、かなり有能な大商人だと思うけどね。


「トマスさんたちに任せておけばいいと思うけどな」

「そうかもしんねぇけど、万が一なにかあったときに連絡がとれねーのは不安だぜ?」

「それは、そうか……」


 俺たちがいてなにができるってわけでもないが、数日ぶりに帰ってみたら状況が激変してるってのも、たしかに困るよなぁ。


「ふむ、要はあちらとこちらで連絡を取り合えればよいのだな」


 これまでずっと黙っていたシャノアが急に口を開いたかと思うと、2体に分裂した。


「まぁ、シャノアさまがおふたりに!?」


 それを見たアイリスが、驚きつつもなんだか嬉しそうな声を上げる。


「分身をアイリスにつけておこう。それで問題なかろう」


 なるほど、その手があったか。


 シャノアの分身が、とことことアイリスの足下に歩み寄る。

 分身といっても、どちらが本物かは区別がつかないけど。


「アイリスよ、なにかあれば儂に話しかけるがよい」


 アイリスの足下にいる分身が、顔を上げて彼女へ語りかける。


「そうすれば儂に届くでな」


 続けて俺の足下にいる本体がしゃべった。

 ……てか、そんなことできるの!?


「さすがシャノアさま、すごいです!」

 

 世界をまたいでも気配を感じ取れることはわかっていたけど、通信までできるのか。


「なんつーか、すげーな」


 セイカが感心しつつも半ば呆れながらつぶやく。


 ほんと、どこまでチートなんだよ、ウチのお猫さまは。

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