第6話 シャノアと野良退治

 地球へ〈帰還〉し、セイカを親父さんに預けて別れたあと、俺はスマホ見て手頃な討伐依頼を探した。


「んー、ぼちぼちだなぁ」


 野良モンスターなら異世界のギルドに納品できるので、できるだけ多く地上の依頼をこなしたかったが、思っていたよりも数が少ない。


「とりあえず、近場のヤツをいくつかやっとこう」


 というわけでその日1日はスクーターを走らせて市内を転々とし、野良モンスターを狩ることに費やした。

 

 その際、半分はシャノアに狩ってもらう。

 俺が狩ってしまうと討伐記録が残るので、こちらのギルドに納品せざるを得ないからだ。

 まぁ、何割かは〈収納〉せず放置したことにして異世界にも回す予定だけど、そんなに多くはごまかせないだろう。


「そういや分身って戦えるのか?」


 ひと仕事終えて俺の隣に戻ってきたシャノアに、問いかける。

 アイリスにつけた分身は単なる連絡要員なのか、それとも少しは護衛の役割を果たせるのか、少し気になったのだ。


「それは儂のさじ加減次第だな。いまは半分ほど力を持たせておるので、それなりに戦えるぞ」

「つまり、シャノアの半分の実力があるってこと?」

「あくまでこちらが本体ゆえ、半分には満たぬがな」

「じゃあこっちのシャノアも半分ちょっとの強さか?」

「うむ、そんなところだ」


 シャノアなら力が半減しても充分な強さだからなぁ。

 実際いまやってる野良モンスター狩りも、俺以上に活躍してるし。

 探知能力の高さが異常なんだよ。

 手加減してもらわないと俺が1匹も狩れない、なんてことになりそうだ。


「そういうわけなので、アイリスもあちらでダンジョンに潜っているぞ」


 聞けばマリアンほか数名の護衛とパーティーを組んで、ダンジョンを探索しているらしい。


「シャノアがついてるから問題ないかな」

「うむ、そうだな」


 待てよ、じゃあシャノアは地球と異世界の両方で同時に戦ってるってことになるのか。


「なぁ、あっちで戦ってるぶんも経験値が入ってるのか?」

「けいけんち、とは?」

「あー、なんつーか……あっちで分身だけが戦った場合、ジョブレベルってどんな感じ?」

「うむ、どうやら分身で戦闘を繰り返すだけでも上がるようだな」

「……こっちで戦えば、そのぶんも上がるんだよな?」

「もちろんだ」


 すごいな。

 レベリングの効率が倍増するってことじゃないか。


 いや、でも分身を操る手間を考えると、それはそれで大変なのかな。

 ってかそのへんの思考回路ってどうなってんだろ。


「あっちの分身って、こっちのシャノアが操ってるのか?」

「ふむう……そういうのではないな」

「じゃあどんな感じ?」

「分身も儂ゆえ、儂が考えて動いているぞ」

「……ごめん、よくわからん」

「うむ、儂もなんと言っていいのかわからん。儂がこちらからあちらの分身を操っているという意識はあまりない、と言えばいいのか……」

「分身が勝手に動いているってこと?」

「勝手に……いや、あれも儂なのでなぁ……」


 なんかわからんけど、意識がふたつに分裂してるって感じか?


「分身が見たものや聞いたことってのは、すぐにわかるのか?」

「そうだな」

「それっていま本体が考えることの邪魔にならない?」

「ならん。あちらも儂、こちらも儂ゆえ」

「そっかー……さっぱりわからんな」

「すまぬ、主。儂もどう言葉にしていいのかわからん」


 シャノアがしゅんとうなだれる。


「いや、謝ってもらうことじゃないんだけどな。とにかくシャノアに任せとけばいいってことだよな?」

「うむ、そういうことだ」


 シャノアはそう言って、自信ありげに顔を上げた。


 なんだかよくわからんけど、シャノアはすごいってことでいいか。

 神獣だし、人間には理解できないこともあるよな。



 日が暮れ始めたところで、作業をやめることにした。

 討伐数はシャノアとあわせて100匹に満たないくらいだ。

 シャノアのほうが多く倒しているのと、俺がギルドに納品せずごまかせそうなぶんを合わせても、異世界へ持ち込めそうなのは70匹くらいか。

 はっきりいって、効率は悪い。

 これなら、異世界ダンジョンを攻略したほうがいいな。


 ま、今回はセイカの帰省をメインと考えて、割り切ったほうがいいんだろうけど……。


「もっとこう、ドバッと狩りたいよなぁ」


 ため息とともに思わず呟いてしまう。


「野良どもの話か?」


 そんな俺の呟きに、シャノアが反応する。


「そう。どこかで野良が大量発生してるとか、そういうのがあればいいんだけどな」


 いや、住民の安全を考えると、本当はないほうがいいんだけどね。

 なんて思っていたんだが……。


「あるぞ」


 シャノアが、さらりとそう告げた。


「あるって……野良の大量発生がか?」

「うむ。少し離れた場所に、やたら野良どもがひしめき合っている場所があるな」

「マジかよ」


 いろんな意味で見過ごせないので、シャノアに案内してもらってその場所へと向かう。


「ここは……!」


 辿り着いた先は、鵜川家の所有していた山林だった。

 そう、俺が異世界で見つけたご遺体を置いて、ヤスタツの罪を暴いた場所だ。


「そういやこのあたり、野良退治の依頼が出てなかったな」


 かなり長いあいだ冒険者をしている俺は、市内全域で野良退治の依頼を受けた経験がある。

 だが、思い返せばこのあたりにきたことはなかった。


 そういやあのとき、俺が置いた以上のご遺体が見つかったんだったな。

 つまり、他人に踏み込んでほしくない場所なわけだ。


 そのせいで討伐依頼を出せず、野良の巣窟になっちまったか……。


「ほっといたらまずいよな」

「しばらくは問題なかろうが、そのうち溢れ出すだろう」


 シャノアが感知したところによると、野良どもは森の深い部分にとどまっていて、浅い部分にはそれほどおらず、住宅街へ溢れ出すにはまだしばらくの猶予はありそうとのことだった。

 とはいえその"しばらく"が、数日なのか数週間なのか、はたまた数ヶ月なのかはなんとも言えないようだ。

 しばらく観察し、野良モンスターの増えるペースがわかればもっとはっきりするのだろうが、経過を見ているうちに溢れ出すおそれもある。


 現状、数は1000に届くかどうかというところらしい。

 かなり美味しい獲物ではある。


「ただなぁ……このまま狩るのもなぁ……」


 シャノアと俺なら、野良モンスターが1000匹いようとも狩りつくせるだろう。

 ただそうするといろいろ問題が出てくる。


 まず狩った野良の半数近くを、ギルドに納品しなくちゃいけない。

 せっかくだから、異世界に持っていきたいんだよな。


 そして半数とはいえ、数百匹の野良モンスターを狩ったとなると、いろいろ追及されそうだった。

 自分で処理する前にまずはギルドへ報告すべきだと、怒られそうなんだよな。


 なによりこの山林は、他人の土地だ。

 事件の影響からか、いまだに山へ続く道は通行止めになっている。

 勝手に入れば不法侵入になってしまうのだ。


 まぁ緊急事態ってことで大目に見てくれる可能性もあるけど、土地の所有者である鵜川家とは、揉めたからなぁ……。

 なんか面倒なことになりそうだ。


 こっそり狩って異世界へ持っていこうにも、討伐記録でバレるし。

 かといってシャノアに全部任せるのもなぁ。

 最悪そうするしかないんだろうけど……。


「とりあえず、今日は帰るか」

「うむ、今日明日くらいは放っておいて問題なかろう」


 そろそろセイカを迎えにいかなくちゃいけないし、今日のところは見なかったことにしよう。

 

 鵜川家の山林をあとにした俺たちは、セイカの実家へ向かった。

 そしておやっさんを交えての食事を終え、俺は彼女のを連れて家に帰るのだった。

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