第7話 3人?で朝食
朝、肉と醤油の焼けるうまそうな匂いで目が覚める。
その匂いに釣られてダイニングに行くと、ちょうどセイカが朝食の準備を終えたところだった。
「おはよう」
「おう、ちょうど起こしにいこうと思ってたところだぜ」
俺が声をかけると、セイカがエプロンを外しながら笑顔で応えてくれた。
「朝メシ食うだろ?」
「もちろん」
食卓にはすでに三人前の朝食が並べられていた。
「シャノアもおんなじのでいいんだよな?」
「もちろんだとも」
セイカに問われたシャノアは、ひょいとテーブルに乗りながら答えた。
「お、うまそう」
「うまそうじゃなくて、うめーんだよ」
用意された料理を見て呟くと、セイカは自信ありげに笑いながら、俺の隣に座った。
「ああ、そうだな」
セイカの料理が美味いのは、すでに知っている。
母親を早くに亡くした彼女は、昔から家事全般こなしていたからな。
松元家の食卓には数え切れないほど呼ばれたし、そのたびにセイカの料理を食わせてもらったから、俺は詳しいんだ。
ご飯と味噌汁、サラダに卵焼き、そしてメインは豚のしょうが焼きか。
朝からけっこうがっつりだな。
「……豚だよな?」
「んだよ、オークのほうがよかったか?」
俺の質問に、セイカはからかうように問い返していくる。
モンスターってのは、食用にできるものが意外と多い。
獣型のモンスターはもちろん、人型でもオークの肉は上質な豚肉みたいだし、ミノタウロスも高ランクの牛肉に劣らない味だ。
「いや、豚のほうがいい」
「だよな」
とはいえ、人型のモンスターってのはやっぱり食うには抵抗があるんだよな。
ダンジョンという広さも資源もたっぷりある場所があるわけだから、農業や畜産業に利用しない手はない。
ダンジョンってのは、土を掘ったり壁や岩を壊したり、あるいは木を伐ったりしても、元に戻ろうとする。
それでも耕作地にすれば農作物は育てられるんだが、ダンジョン固有の現象として土地が痩せない、というのがあった。
おそらく魔素で無理やり元の状態に戻るからだろうといわれているが、くわしくはわかっていない。
なんにせよ人にとっては都合のいいものだ。
そのぶん雑草の処理なんかが大変とかなんとか、ダンジョン農業ならではの苦労はあるみたいだけど、そのあたりの詳しい事情はわからない。
とにかく、かなり広い耕作地にハイペースで農作物を育てられるわけだから、人が食べるものはもちろん、飼料となる穀物や牧草も育て放題だ。
広い土地に大量の飼料があるのだから、家畜が殖えるのも必然って感じだな。
というわけで、多くの人は普通に家畜の肉を食べる。
ジビエ感覚でモンスターの肉を好む人も少なくないけどね。
冒険者という名の猟師が大量にいるので、ダンジョン発生以前のジビエとはまたちょっと感覚は違うんだけど。
「セイカ、今日はどうするんだ?」
「とりあえず店でポーションづくりかな」
「やっぱジョブがあると違うか?」
しばらくあちらで戦闘職を鍛えていたセイカだったが、帰る前に【錬丹術師】にジョブチェンジしている。
昨日実家に帰った際、店に寄って軽くポーションづくりをしたみたいだけど、以前に比べてかなり効率がよくなっているようだ。
「そのうえこっちでポーションづくりしたほうが【錬丹術師】レベルが早くあがるみたいなんだよな」
「おっ、そのあたりは戦闘職と同じだな」
素材に含まれる魔素量の違いなんだろうか。
「じゃあしばらくはマツ薬局の手伝いをしつつ【錬丹術師】のレベル上げって感じか」
「だな」
今回の帰省は10日ほどを予定している。
アイリスからシャノアの分身を通じてなにかしら連絡があれば、早めに切り上げる場合もあるけど、あまり地球を空けるといろいろ詮索されそうだからな。
「アラタはどうすんだ?」
「俺はダンジョンだな」
「ダンジョンかー。あたしもそのうちいきてーな」
「やっぱ戦闘職のレベルアップもしたいか」
「おう。弱ぇーより強ぇーほうがいいからな」
にっこり笑ってそう言うセイカだけど、ジンの件で足手まといになったことを気にしているんだろう。
彼女のことは俺がいくらでも守ってやるんだけど、ただ守られることに甘んじる女性じゃないからなぁ。
だがセイカがダンジョンに潜るとなると、少しばかり面倒なことになる。
冒険者登録をすればダンジョンには入れるんだが、最初は寺のダンジョンみたいなところをちまちまと探索して、ランクアップをしなくちゃいけない。
すでに山のダンジョンの浅い部分で問題なく戦えるだけの実力が彼女にはあるんだけど、いきなりそんなところにいけば、これまたいろいろ詮索されるわけだ。
レベルアップが目的だからあんまり無駄なことはさせたくないんだけど、そういうわけにもいかんよなぁ……。
そんなことを考えながら、セイカの作ってくれた朝食に箸をつける。
「やっぱうまいな」
「だろ?」
うまい食事のおかげで、少し心が軽くなった。
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