第8話 ギルドとの関係

 朝食を終えた俺はセイカをマツ薬局まで送り、ギルドへ向かった。


 ギルドにはまだジンの襲撃による爪痕があちこちに残っているけど、業務に滞りはなさそうだ。

 俺はさっさと申請をして、山のダンジョンに向かった。


「あー、面倒くさいなぁ」


 なんて呟きながら、遭遇するモンスターを〈サンダーブレット〉で倒していく。

 納品しなくてよければ、エンチャント系のスキルを使って自動小銃をぶっ放したり、〈フレアブレット〉でサクッと倒していくんだけどな。

 討伐記録との整合性とかそのあたりを考えて〈サンダーボルト〉で倒したように見せかける必要があるのは、本当に面倒だった。


「儂が全部引き受けてやろうか?」

「それだと俺のレベルが上がらないだろ」


 そう、地球ダンジョンのモンスターは経験値――レベルアップに必要な要素を俺は勝手にそう呼んでいる――がオイシイから、できるだけ倒したいんだよな。

 かといって、あんまり強いモンスターを倒しまくると、それはそれでまたいろいろ詮索されそうだし……。


 なんかモヤモヤしたものを抱えつつ、俺はその日の探索を少し早めに切り上げてギルドに戻った。


「あの、アラタさん」


 探索終了後の活動報告をすると、受付さんが気まずげな表情で尋ねてくる。

 

「なんでしょう?」

「いえ、その……討伐数に対して、納品が少ないような……」

「あー、なんというか〈収納〉にも限界がありますし……」

「そうですか……」


 受付さんはなにか言いたそうにしつつも、言葉を飲み込んだ。

 なんというか、いろいろ遠慮している感じだ。


「もう、いっていいですか?」

「はい。引き続き、よろしくお願いします」


 ジンの一件以来、ギルドとはちょっとギクシャクしている。

 向こうは俺の情報をジンに漏らした負い目があった。

 万が一ジンと遭遇しても逃げると思っていた俺が、一戦交えたというのも想定外だったのかもしれない。

 ギルドが下した判断で、俺の身に危険が及んだわけだからな。


 俺としても、仕方がなかったとはいえまったく気にしない、というわけにもいかない。

 ギルド職員や多くの市民と引き替えに、売られたわけだからな。

 あそこでギルドが強硬な姿勢を取っていたら、ジンの矛先が市民に向いたかもしれない。

 そうすれば"冒険者の情報を優先したせいで市民に犠牲が出るなどけしからん!"てな感じで、のちのち俺が社会的に殺されていたおそれも大いにあったわけだから、しょうがないっちゃしょうがないんだけどな。

 いまさらながら冒険者の人権が低いことを思い知らされたよ。


 そんなわけで、ちょっとギルドに来るのが億劫になっている部分はあった。

 でも日本で冒険者をやる以上、ギルドとは関わらなくちゃいけないし。


 セイカがダンジョンに潜る件も含め、なんだか面倒だな……。

 だれかこの悩みを解決してくれないものか。


「あ、野良の報告しないと」


 昨日シャノアと確認した鵜川家の山林の報告を忘れていたので、受付に戻ろうとしたときだった。


「古峯新太くんだな」


 ふと声をかけられた。


「はい?」


 振り返ると、立派な鎧に身を包んだ剣士風の冒険者が立っていた。

 歳は俺と同じか、少し上くらいか。

 爽やかながらもどこか威厳のあるイケメンだ。

 

 最近どこかで見たような……。


「ああっ、タイジくん!」

 

 ヤスタツの長男でありタツヨシの兄、元厚労大臣の鵜川泰治だった。

 そういえば地元に帰って冒険者をやるとかニュースになってたな。

 でもって彼の地元ってのはこの町だ。

 

「おおっと、その様子だと学生時代の私を覚えてくれているようだな」


 彼はそう言って、にっこりと笑う。

 友好的な笑顔だが、相手は政治家だ。

 腹になにを抱えてるかわかったもんじゃない。

 どうせ俺とタツヨシらとの関係も、知ってるだろうしな。


「そう警戒しないでくれ。あのアホどものことは気にしていない……というか、むしろ感謝したいくらいだからな」


 アホども、というのはヤスタツとタツヨシのことだろう。

 死んだ弟と死にかけの父親をアホ呼ばわりとはなかなか辛辣だが、同意せざるを得ない部分ではある。


 だからといって、警戒を緩めるわけにもいかないんだけどな、相手が相手だけに。


「一度ゆっくり話をしたいのだが、どうかな?」

「いえ、俺から話すことはありませんので。失礼します」

 

 こういうのは逃げるが勝ちだ。

 そう思ってタイジの脇を通ってギルドを出ようとしたんだが……。


「待ちたまえ」


 肩を掴まれてしまった。


「私と一度、話したほうがいいと思うが」

「俺は、そうは思いませんので」


 無視して歩き出そうとした俺に、タイジくんが顔を寄せてくる。


「ギルドは調査を始めているぞ、君の特殊な能力について」


 そして耳元でそう囁いた。


「なっ!?」


 振り返ると、タイジくんは意味ありげな笑みを浮かべている。


「というわけで、これから食事でもどうかな?」

「……はぁ」


 どうやら一度は話をしたほうがよさそうだ。


 面倒だなぁ……。

 また新たな面倒事がはじまるのか……。


 と、ただでさえギルドとの関係で下がりきっていたテンションが、さらに落ちる。


「着替えてくるから、少し待っていてくれ」

「うっす……」


 まさかこのタイジくんが俺の悩みを解決してくるなんて、このときは思いも寄らなかった。

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