第15話 オーガとの戦い
オーガを20メートルほどの距離まで引きつけ、ショットガンの引き金を引く。
――ドゴンッ!
野太い銃声とともにスラッグ弾が発射され、オーガの腹に命中した。
「ゴホォッ……!」
野良オークなら一撃で仕留められるショットガンは、俺の持つ銃で最高の威力を誇る。
「グフゥォオッ……!」
腹を押さえる手の隙間から、血がにじみ出る。
〈鑑定〉したところ、銃弾は皮膚を裂き、腹にめり込んだが、筋肉に阻まれ内臓までは到達しなかった。
だが、そこそこのダメージは与えているとわかり、俺はフォアエンドをスライドした。
空薬莢が排出され、次弾が装填される。
「グォーッ!」
怒りの咆哮を上げながら、立ち止まっていたオーガがふたたび駆け出す。
その直後に、引き金を引いた。
――ドゴンッ! ……ガチャン! ドゴンッ! ……ガチャン! ドゴンッ!
腹を重点的に狙い、撃ちまくる。
胸は骨に阻まれて致命傷を期待できず、頭は的が小さすぎるため、命中精度の低いショットガンで狙うには厳しかった。
8発中3発を手で防がれ、5発が腹に命中した。
「グブゥォオォッ……!」
銃弾は届かなかったものの、衝撃によって内臓を傷つけられたオーガは、口から血を垂らしていた。
腹を守るために撃たれたせいで、右手の甲と手首の肉は削がれて骨が見え、左手の表面はえぐれていた。
「ゴォォァァアアッ!」
それでもオーガは戦意を失わず、雄叫びをあげた。
「くっ、どうする……?」
自身に問いかけるように、呟く。
ショットガンは弾切れで、再装填の余裕はない。
かなりのダメージは与えているが、戦闘能力を削ぐにはいたらなかった。
逃げようと思えば、森の切れ目に〈帰還〉すれば逃げられる。
「でも……!」
馬車に目をやる。
中に人がいるのは〈鑑定〉で把握していた。
倒れている人たちの何人かは、急いで手当をすれば助かりそうだ。
「最悪、逃げる!」
そう決め、ギリギリまで粘ることにした。
「喰らえこのやろう!」
自動小銃に持ち替え、フルオートのまま膝に銃弾を浴びせ続ける。
スラッグ弾に劣るとはいえ、至近距離で撃てば野良ゴブリンの頭を半分以上吹き飛ばすだけの威力はあるのだ。
――ダダダダダッ!
銃弾を受けた膝の皮膚が裂け、骨が露わになる。
そこをさらに撃ちまくる。
「ガアアアッ……!」
軟骨をうまく傷つけられたのか、オーガが片膝をついた。
「グゥォオオオッ……!」
それでもオーガは怒りに目を濁らせ、残った脚で立ち上がろうとする。
「させるかよ!」
俺はいったん退がってマガジンを交換し、敵の側面に回り込んだ。
そしてほぼ全体重の乗った膝の側面に、銃弾を浴びせた。
「ギャアアアッ!」
数十発の銃弾をぶちかましたところで、オーガはガクンと膝を折った。
膝の腱が断裂したようだ。
「よしっ!」
これで動きはある程度抑えられる。
そう思ったときだった。
「ガアアアッ!」
オーガが長い腕を振るった。
「うおぉっ!?」
それは思っていたよりもリーチがあり、目の前に迫る血まみれの手を前に、俺は咄嗟にナイフを
「ギョアーッ!」
「えっ?」
仰け反りながら逆手に持ったナイフを振るうと、俺の顔をかすめそうだったオーガの指があっさりと切断された。
「これは……!」
手にしていたのは、タカシにもらったサバイバルナイフだった。
決め手に欠けると思っていたが、これなら何とかなりそうだった。
「グゥゥッ……!」
いともたやすく指を切断されたせいか、オーガはこれまで以上に警戒していた。
かなりダメージを与えたが、致命傷かどうかは微妙なため、様子見はできない。
オーガは再生力が強いので、時間が経てば回復するおそれもある。
それに、早く倒して助けられる人は助けたかった。
「悪いけど、一気に決めさせてもらうぞ」
俺はそう宣言し、まずスタングレネードを取り出した。
屋外では充分に効果を発揮できない武器だが、それも使いようだ。
スタングレネードのピンを抜き、〈鑑定〉でタイミングを見計らって投げつけ、背を向けて耳を塞ぐ。
――バシューッ!!!!!
ちょど敵の目の前で、スタングレネードが炸裂した。
「グォァッ!?」
目の前で発生した閃光と轟音にオーガは混乱し、うずくまって硬直した。
その隙に俺は背後へ回り込み、敵の背中に乗る。
「トドメだ!」
手にしていたのは、タツヨシが落としていったダガーナイフだった。
刃渡り20センチの刃を、首のうしろに突き立てる。
「ガッ……!」
両刃のナイフに
動かなくなったオーガに手をかざす。
「くっ……」
軽い目眩のあと、オーガの巨体が消える。
問題なく〈収納〉できたので、ちゃんと倒せていたようだ。
虫の息だろうと生きていれば〈収納〉はできないからな。
「次は……」
倒れている人たちを確認して回る。
〈鑑定〉の結果、5人中3人はすでに息絶えていた。
全員が武装しているので、護衛かなにかだろうか。
生き残っていたのは年配の男性と若い女性。
男性のほうはあちこち骨折し、
女性のほうはオーガに殴られたせいか、片方の肺が完全に潰れていた。
折れた肋骨も数本、内臓に刺さっており、あと数分で息絶えるだろう。
見捨てるわけにもいかないので、ライフポーションとヒールポーションである程度のところまで治しておいた。
もし家に帰れたときのため、ライフポーションを使い切るわけにもいかない。
「さて……」
怪我人の治療が終わったところで、馬車に目を向ける。
あの中に、ふたりいることはわかっていた。
直接姿を見られないので、詳細まではわからない。
とりあえず馬車に近づく。
護衛の人たちが、文字通り命懸けで守ったおかげか、馬車には大きな破損もなく、馬も無事だった。
この状況で逃げ出さないとは、かなり肝が据わった馬だな。
「あのー」
なかの人に声をかけながら、ドアをノックする。
「誰かいらっしゃいますか?」
「……はい」
呼びかけると、か細い女性の声が返ってきた。
「オーガは倒しましたので、出てきていただいても大丈夫ですよ」
「えっ!? あ……はい……!」
驚いた声のあと、足音が続く。
カチリ、と鍵の開く音がしたあとに、馬車のドアが開いた。
中から出てきたのは、若い女性だった。
ピンクがかった金髪と、ライトグリーンの瞳が印象的な、かなりの美人さんだ。
シンプルなデザインの、きれいなドレスに身を包んでいた。
「どうも、通りすがりの冒険者です」
馬車のドアが一段高いところにあるので、俺は彼女を見上げながらそう言って、軽く一礼した。
「えっと……わたしは、その……」
なんと答えたものか迷った様子の彼女は、ふと視線を巡らせ、目を見開いた。
「ああっ、そんな……!」
倒れた護衛の人たちが、目に入ったのだろう。
「いやっ、マリアン……!」
彼女はそう言うと、馬車を飛び降りて駆けだした。
そして倒れた女性の前に、しゃがみ込む。
「待って!」
「えっ……?」
倒れた女性の身体に触れようとした彼女を、慌てて制止する。
「その子、酷い怪我なんだ。ポーションで治療はしたけど、強く揺すったりするのは、よくない」
「じゃあ……」
「大丈夫、命に別状はないよ」
「よかった……」
安堵したように肩の力を抜いた彼女だったが、すぐ辺りの様子に気づいて顔をこわばらせる。
「あの、他の方たちは……?」
「その子とそちらの男性以外は、残念ながら」
「そう、ですか……」
そう言って肩を落とした彼女だったが、1度深呼吸をして立ち上がると、顔を上げて俺を見た。
表情は、きりっとしたものになっている。
「わたしはウォーレン商会のアイリスと申します。このたびはご助力いただき、ありがとうございます。父トマスに代わって、お礼を申し上げます」
彼女はすらすらとそう告げ、頭を下げた。
「い、いえ、どういたしまして」
アイリスさんの堂々とした態度に、むしろこちらが気圧されてしまう。
「あー、えっと。私は冒険者の古峯といいます。古峯新太です」
とりあえず自己紹介を終えた俺たちは、今後のことを話し合うことにした。
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