第24話 異世界の銃

「それはそうとお父さま、いつもはお仕事の時間なのに、どうして帰ってこらたんですか?」

「ああ、そうそう。アラタさんが戻られたというので、これをお渡ししようと思いましてな」


 トマスさんがそう言うと、彼の手に一丁の銃が現れた。

 なんだかアンティークなデザインの銃だ。

 片手式のマスケット銃かな?


「どうぞ」

「あ、はい、どうも」


 受け取った銃を確認してみる。


 弾倉がないので、銃口から弾丸を入れる先込め式ってヤツだろうか?

 俺はマスケット銃にあんまり詳しくないんだけど、これってどういう仕組みで弾が飛ぶんだろう?


 引き金はあるからそれを引けばいいんだと思うけど……。


「これって、弾はどんな感じですか?」

「弾、ですか?」

「はい、銃弾です。やっぱり銃口から入れるんですかね」

「いえ、スキルで作っていただくのですが……」

「スキルで?」


 そんな便利なスキルがあるのか。


「なるほど。ですが俺はそういうスキルを持っていませんね」

「なんですと?」


 俺の言葉に、トマスさんが眉を上げる。

 アイリスとモランさんも、少し驚いているようだ。


 あれ、もしかして銃弾を作るスキルって、こっちの世界じゃポピュラーなものなのかな? 


「あの、トマスさんやアイリスはそのスキルを?」

「まさか! 私たちは【商人】ですからな。ですがアラタさんは【銃士】じゃありませんでしたかな?」

「えっと……」


 それ、ギルダスさんも言ってたな。

 銃を使う人のことを銃士っていうもんだと思ってたんだけど、違うのか?


「【銃士】のジョブを得たら、〈クリエイトブレット〉は最初に習得できるジョブスキルなのですがなぁ……」

「……ジョブ? ジョブスキル? なんですか、それ?」

「なんと、ジョブをご存じない!? ……いや、そうか。それでアラタさんは……」


 驚いたトマスさんだったが、すぐに納得したような表情でぶつぶつと呟き始める。

 そして何度かうなずくと、俺を見て口を開いた。


「ふむ、シャノアさんのことも落ち着いたようですし、アラタさんにはいろいろとお話をせねばならんようですな」


 その言葉にモランさんは小さく1度、アイリスは何度もうなずく。


 シャノアは空になったおやつの袋を、名残惜しげにペロペロとなめていた。


○●○●


 この世界にはジョブがある。

 ジョブを得ると、ジョブスキルというものを得られる。


 そしてこの世界におけるメインのスキルは、このジョブスキルらしい。


「スキルオーブで得られるスキルは、あくまで補助的なものでして、ほとんどが魔道具に組み込まれますな」

「なるほど。だから俺がスキルオーブを欲しがったとき……」

「ええ。なぜこの方はそのような安物を欲しがるのかと、疑問に思ったわけですな」

「安物ですか……はは……」


 ギアが登場したとはいえ、いまだにスキルオーブはおいそれと手に入る物じゃない。

 どんなに安くても100万を切るものはないだろう。

 なので地球だと、手に入ったスキルから職を選ぶ人が多い。

 冒険者をやっていて、生産系のスキルオーブを得たら転職する人なんて、いくらでもいる。


 だがこの世界の人は、自分にあった職業、すなわちジョブを選ぶ。

 そうすれば、ジョブに合わせたスキルを得られるわけだ。

 しかもスキルオーブで得られるものより、よっぽど効果の高い専門的なものが。


 新しいスキルを得るには、ジョブに即した行動をとる必要がある。

 戦闘職なら魔物と戦う、生産職ならジョブにあわせたものを作る、といった具合に。


 そうするとジョブレベルが上がり、新たなスキルを覚えるという。


「ちょっと待ってください、レベルがあるんですか!?」

「ええ、もちろんありますな」


 なんてこった。


 地球にダンジョンができたとき、モンスターを倒してレベルが上がってくれないものかと、何度も考えた。

 そうすれば、俺の安いスキルセットでも、もっと強くなれるのに……。

 キャパシティも広がって、新しいスキルをどんどん習得できるのに……。

 そしたらもっと稼げるのに……!


 そんなことを、本当に何度も何度も考えた。


 それが、実現するかもしれない。


 それから俺は、さらに詳しくジョブについて教えてもらった。


「なるほど……」


 このジョブシステム、俺がずっと求めていたものだ!


「あの、トマスさん!」

「なんでしょう?」

「ジョブは、どこへいけばもらえますか!?」


○●○●


 仕事があるトマスさんに代わって、アイリスの案内で神殿を訪れた。


 この神殿こそが、ジョブを得られる場所らしい。

 石造りの、荘厳な建物だった。


「見事な建物だな」

「まったくだ」


 シャノアもついてきた。

 ひとりで屋敷に残っても暇だもんな。


「アラタさま、シャノアさま、こちらです」


 アイリスに先導され、神殿に入った。


 中は少し薄暗く、窓から射し込む日光が神々しさを感じさせる。

 この世界の神さまについて俺は知らないが、超常的な存在に対する畏敬の念は持っているつもりだ。

 なので、頼むから俺にジョブを授けてくれよ……!


「こちらを」

「ありがとうございます。奥へどうぞ」


 アイリスが紙の包みを渡していた。

 あれは寄付金だ。


 寄付金について聞いたとき、少し申し訳なく思ったが、なんでも俺が渡したモンスターの素材がかなり高く売れそうなので気にするなと言われた。


 しかるべき報酬も、後日ちゃんと払ってくれるそうだ。


「それでは女神像に、祈りを捧げてください」


 神官さんに促され、大きな女神像の前に立つ。


 女神像が設置された礼拝堂はかなり広く、1度に多くの人が祈れるようになっていた。

 まぁ、この世界に住む人のほとんどがジョブを得るわけだからな。


「あの、どうやって祈れば?」

「特に作法はございません。心よりお祈りすれば、女神は必ず応えてくださいます」

「わかりました」


 さすがにここで二礼二拍一礼をるすのもなんだかなぁ、と思ったので、とりあえず跪いて手を組む。

 ふと隣を見ると、シャノアはのんきに顔を洗っていた。


 俺は頭を垂れ、女神に祈った。


 お願いします。

 俺を【銃士】にしてください!


「おおっ……?」


 ふと温かなものに包まれたような気がした。

 目を開けると、身体が淡く光っている。


 その光も、やがて消えた。


「どうでしたか?」


 うしろに控えていたアイリスが、尋ねてきた。


「うん、成功したみたいだ」


 俺は立ち上がり、振り返ってそう告げた。


「どうやら無事、【銃士】になれたよ」


 頭にメッセージが流れたとか、そういうのはなかった。

 ただ、【銃士】というジョブを得た実感は、あった。


「儂は【忍者】だな」


 シャノアがぼそりと呟く。


「なんだって……?」

「よくわからんが、儂は【忍者】とかいうジョブをもらったようだぞ?」


 シャノアのやつ、喋るだけじゃなくジョブまで得たってのかよ!


「なんてこった……」


 ふと視線を巡らせると、アイリスはキラキラと目を輝かせ、神官さんは顔を引きつらせていた。

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