第17話 異世界の状況

 契約成立後、俺はタイジくんを通して鵜川アームズへ大量の武器防具を発注した。

 ステンレス製のものを中心に、魔物の革製品も多数用意してもらう。


 大量生産の過程で魔物の革からは魔素が抜け、性能は落ちてしまう。

 だとしても、シンプルに硬い皮を持つ魔物も多いので、それなりの強度は保てるのだ。


 カーボンやプラスティック、アルミニウムなど、向こうの技術では再現が難しい素材は使わないことにした。

 変なものを持ち込んで、面倒事が起こるのはいやだからな。


 タイジくんは特に詮索することなく、武器防具類を用意してくれた。


「では社割で少し安くしておこう」

「いや、社員じゃないですけど?」

「似たようなものだろう。気にするな」


 というわけで、かなり安くしてもらえた。

 

 それからしばらく経ち、多くの異世界冒険者が鵜川印の装備品を使うようになった。


「ブーツの評判が特によろしいですな」


 というトマスさんの報告は、少し意外だった。

 なんでもこちらでは、靴は結構な高級品らしい。


 そういえば冒険者の多くはグラディエーターサンダルを履いていたことを思い出す。

 あれはサイズ調整をしやすいのだが、一見してわかるとおり防御力は皆無だもんな。


 対して鵜川印のブーツは、つま先に金属板の入った安全靴仕様なので、結構な防御力がある。

 いざというときは攻撃にも使えるしな。

 サイズは0.5センチずつで細かく作り分けられるうえ、編み上げ式なので微調整もできる。


 冒険者の活動ってのは大半が移動だ。

 なので、靴がかなり重要だとわかってはいたんだけど、当たり前のように売られていて気軽に買って履けたもんだから、そこは盲点だった。


「タカシさまのおかげで、メンテナンスのほうもかなり効率よくなったのはありがいですな」


 ジンに四肢を奪われたタカシだが、少しずつ回復しつつある。

 欠損部位の再生ってのはかなり時間がかかるようで、彼はようやく両腕を取り戻したところだ。

 脚はまだ回復していないが、車椅子を使っての日常生活くらいはできるようになっていた。


 タカシはリハビリも兼ねて、リース品のメンテナンスを手伝っていた。


『あー、グラインダーがありゃもっと楽なんだけどなぁ』


 ふとしたとき漏らした、タカシの言葉が気になった。


『グラインダー?』

『グルグル回る研磨機っすよ』


 なんでもタカシは冒険者になる以前、鵜川アームズでアルバイトをしていたことがあるらしい。

 そのとき、製品の研ぎや仕上げに、グラインダーを使っていたそうだ。


 聞けばトマスさんの工房には足踏み式のグラインダーはあるらしいが、残念ながらタカシには使えない。

 魔石を動力に自動で動くものも存在はするようだが、手に入れるのは難しいようだ。


『タイジくん、グラインダーとかって用意できます?』

『問題ない』


 というわけで、魔石で動くグラインダーを購入した。

 大きいものから小さいものまでいろいろ用意してもらい、必要に応じて追加で発注する。


『いやー、懐かしいっすね、この感じ』


 勘を取り戻すまで少し時間はかかったが、タカシはヤスリやら布パッドやらを適宜使い分け、器用に研磨作業をこなしていく。

 また、彼が技術指導員として工房の従業員に日本式グラインダーの使い方を教えることで、メンテナンス作効率は大幅にあがった。


 ○●○●

 

「そういえば最近、ギルドを離れていた冒険者の多くがまた戻ってきたようですな」

「へええ、なんでまた?」

「どうやらあのロゴマークが要因のようですな」

 「ロゴマークって、『ウ』印ですか?」

 

 鵜川アームズの装備品には、カタカナの『ウ』をベースにした鵜川グループのロゴマークが刻印されている。

 

「ええ」


 ギルドを離れたといっても、探索するダンジョンは変わらない。

 なので、伯爵家から援助を受けている例の五商会と手を組んだ連中が、ウォーレン商会とリース契約を結んだ冒険者たちと現場で遭遇する、ということもあるだろう。


 ウォーレン商会と契約した冒険者ってのは、ほとんどが下級冒険者だ。

 そんな格下の者たちが、自分たちよりいい装備を身に着けていたら気になるのもしょうがない。

 しかもみんながお揃いのロゴマーク入り装備を使っているなら、なおさらだ。


 となれば、どこで手に入れたのか? と問いかけるのは自然の流れなわけで。


「うちのリース品を使う以上、冒険者ギルドへ卸していただく必要がありますからな」


 そんなわけで、中級以下の冒険者――すなわちギルドを離れた冒険者のうちの大半――がウォーレン商会と契約し、ギルドへの納品を再開したらしい。


 いまなお五商会とつるんでいるのは、自前でハンドメイド品やダンジョン産の装備を用意できる、そこそこ優秀な冒険者くらいのものだとか。

 五商会も買い取り額を引き上げて対抗しているが、それよりも実質無料でそこそこ優れた装備を使える、というサービスの魅力には勝てないようだ。


「現状で、往時の7割ほどまで、納品量は戻っているようですな」


 これ以上伯爵家がいくら資金を投入したところで、状況を覆すのは難しいだろう。

 リース契約を真似しようにも、装備品の供給がおいつかないだろうしな。

 

「というわで、ことの趨勢はほぼ決まりつつありますな」

「なら、そろそろトドメといきますか」


 異世界の状況をある程度把握した俺は、日本へ【帰還】した。

 その足で、マック銃砲店のドアをくぐる。


「サカイさん、自動小銃用の銃弾、あるだけください」

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地球にダンジョンができたと思ったら俺だけ異世界へ行けるようになった~地球にはないジョブシステムと神獣になった飼い猫の力で二つの世界を行き来しながら無双する~ 平尾正和/ほーち @hilao

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