第28話 面倒くさいヤツとの決闘

 ジャレッドくんには悪いことをした……。


 正直面倒くさいヤツだなとは思ったけど、スルーしようと思えばできる相手だった。

 だが権力を笠に着て偉そうにする姿を見て、ほんの少しだけどジンを思い出してしまったんだ。


 そこで俺は登録の際に説明を受けた決闘制度を思い出し、ジャレッドくんを挑発した。


 乗ってくればよし。

 流されれば、ほっといて帰ればいい。

 それくらいの、軽い気持ちだった。


 まぁ、はっきり言えば八つ当たりだな。


 結果、ジャレッドくんは挑発に乗ってくださった。


『ほう……本気で受けるつもりなのかい? 〈クリエイトブレット〉しか使えないのに?』


 この言葉に、ひっかかった。

 わざわざこっちのスキルを確認するかのようなセリフだ。

 こちとら非戦闘スキルだけで10年冒険者やってるからな。

 危険に対する勘は、それなりに冴えてる。


 まぁ、ジンにハメられといて偉そうなことは言えないけど……。


 そんなわけでジャレッドくんの装備を〈鑑定〉したところ、盾にアンチマジックの効果があった。

 なるほど、魔弾銃とやらの魔弾だと、この盾で防がれてしまうのか。

 俺には意味ないけどな。


 ちなみにアイリスは途中からなにも言わず、様子をみているようだった。

 彼女は俺が〈鑑定〉を使えることも、オーガにダメージを与えられる銃を持っていることも知っているからな。

 危険はないと考えたんだろう。


『アラタさま、がんばってください』


 にっこり微笑む彼女だったが、目の奥が笑ってない。

 たぶん、ジャレッドに相当腹を立ててるんだろう。

 これは〝ぎゃふんと言わせてやってくれ〟ってことだよな、たぶん。


 シャノアは我関せずといった具合に、あくびをしていた。

 舌なおせ、舌。



 地下訓練場に下りて、決闘となった。

 防御結界とか、地球ではお目にかかれない魔法だ。

 地球にあるのだと、せいぜい自分の正面を守れる障壁くらいかな。

 これもたぶん、ジョブスキルのひとつなんだろう。


 さて、いよいよ決闘が始まるわけだが、動き回られると厄介だ。

 自動小銃をフルオートにして、7.62x39ミリ弾を20~30発ぶちかましてやろうか。

 などと考えていたんだが。


『そうだな、先輩冒険者として、先手は譲ってやるとしよう』


 てなことを言ってくれた。

 なるほど、魔力弾をわざと受け止めて、俺をビビらそうって魂胆か。

 そいつは好都合だってんで、ショットガンを取りだした。

 すでに12ゲージのスラッグ弾を装填済みだ。


 こいつを1発ぶちかまして盾を吹っ飛ばしたあと、頭に銃口を突きつけてやれば降参するだろう。

 そんなことを考えて、開始の合図を待った。


 ――ドゴンッ!


 合図とほぼ同時に、引き金を引いた。

 そしたらなんてこったい。

 スラッグ弾はジャレッドくんの盾をぶち抜いて、鎧をべっこりヘコましてしまったじゃないか。


 慌てて彼を〈鑑定〉すると、肋骨はぐしゃぐしゃで片肺が完全に潰れていた。

 あと数ミリ着弾箇所がズレていれば、心臓も破壊されていただろう。


 俺は慌てて彼に駆け寄った。


 生命力がものすごい勢いで減っている。

 1秒の遅れが、死に繋がる。


 それでも俺はできるだけ焦らないように、ジャレッドくんの鎧を外した。

 ついでに盾を外したのは、回復が始まったらうまいこと骨を接いでやろうと思ったからだ。

 だがそちらは無駄に終わった。

 彼の前腕は骨ごとえぐり取られ、一部の筋肉と皮膚でかろうじて繋がっている状態だった。

 こうなってしまうと、傷口は塞げても回復は無理だ。

 たとえエリクサーだろうとも。


 ともかく、死んでもらっては困ると、無理やりヒールポーションを飲ませた。

 大丈夫、まだ焦る時間じゃない。


『がっ……ぐぶっ!? んんっ……ぐぶふぅ……!!』


 こらこら、吐き出すんじゃないよ。

 死にたいのか?


『ぐっ……うぅ……き……きさ、ま……!』


 よかった、意識を取り戻したか。

 生命力はギリギリで、数秒もすれば意識は失うだろうけど、命に別状はない。


 ほっとひと息ついた俺だったが、あらためて彼の盾が目に入った。


 ぽっかりと穴があいていた。


 あれはダンジョン産の貴重なヤツだ。

 物理防御は低いようだが、それでもかなり高価なものだろう。


 そして思い出す。


 ――必要以上に相手を傷つけたり、装備を破壊したりしてはいけない。


 という決闘の決まりを。


『ち、違うんだ!』


 だから説明しなくちゃいけない。


『違うんだよ、これは、本当に! その、違うんだ……!』


 決してわざとじゃないってことを。


『こんなに弱いとは思わなかったんだ!!』


 ダンジョン産の盾がこんなに脆いだなんて、想定外だったんだよ!


○●○●


 おかげさまで装備品の補償はしなくていいことになった。

 怪我についても、命に別状はないので不問だ。


 ジャレッドくんはあのまま家に運ばれたらしい。

 ヘタに治療院に預けるよりは、伯爵家お抱えの【白魔道士】に面倒を見てもらったほうがいいとの判断からだそうな。

 メンバーの女の子たちも、わんわん泣きながら彼に付き添って訓練場を出て行った。


「ちくしょうジャレッドのヤロウ、負けやがって」

「あー、当分肉は食えねぇな」


 どうやら賭けがおこなわれていたらしい。

 みんなジャレッドに賭けてたのかな?


「大穴狙うからそうなるんだよ、バカだなおめーら」

「ジョブ授かる前にオーガ倒すようなヤツだぜ? どう考えたってそっちが勝つに決まってんだろうが」

「んだんだ」


 ……と思ったけど、どうやら大半は俺に賭けてたようだ。

 低レベルでバカにされる流れかと思いきや、逆に認められちまったらしい。

 世の中なにが起こるかわからんな。


 それにしても……。


「彼には悪いことをしたなぁ。アレじゃ復帰は難しいだろうに」

「まぁ、そこは本人次第だろうな」


 俺の呟きに、ガズさんが答える。


「いや、あの怪我じゃあ厳しいでしょう?」

「あん、怪我? あれくらいなら問題ねぇだろ。伯爵家の【白魔道士】なら、再生魔法は使えるはずだからよ」

「再生魔法!?」


 まさか、地球にはなかったそれが、あるのか!?


「あのっ! アラタさま、そろそろ帰りませんと」


 驚く俺に、アイリスが声をかける。

 これはたぶん、フォローしてくれたんだな。

 再生魔法も、この世界じゃ当たり前のことなんだろうから。


「そうだな、用も済んだし――」

「ちょっと待て、用はまだ済んでねぇ」


 帰ろうとしたら、ガズさんに止められた。


 そして俺たちは、そのまま受付台に連行された。


――――――――――

おかげさまで週間ジャンル別1位になりました!

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