第33話 地球へ

 地上に戻った俺たちは馬車に乗って町に戻り、ギルドに寄った。

 ちょうど日が暮れかかる時刻で、ギルドも混み始めたところだった。


「おっ、嬢ちゃん、久々にダンジョンかい?」


 俺たちを見るなり、ガズさんが声をかけてくる。

 彼女の格好を見て、そう判断したんだろう。


「はい、アラタさまたちと一緒に」

「ほほう。成果はどんなもんだ?」


 ガズさんが尋ねると、アイリスは微笑みながら俺のほうを見る。


「あー、とりあえず納品でいいですかね」

「おう。じゃああっちの納品箱に頼むわ」


 どうやらこちらの世界にも納品箱があるようだ。

 地球と同じく、〈収納〉から直接納品できる仕様だった。


 納品箱に納められた魔物の死骸は、解体場で魔石と素材に分けられつつ査定される。

 このあたりの仕組みも、地球とほぼ同じだな。


「それじゃ、査定には時間がかかるから、よければジョブレベルなんかの確認をさせてもらうが、どうだ?」

「よろしくお願いします」


 そんなわけで、ガズさんに〈鑑定〉してもらう。


 ちなみに人物鑑定の場合、当人の許可がなければ情報は見られない。

 また、相手に教える情報も、ある程度はコントロール可能だ。


「えーっと、アラタは……【銃士】レベル21だと!? 昨日の今日だぞ? それにシャノアさんは【忍者】レベル9か……これも大概だな……おっ、嬢ちゃんも【戦士】レベルがひとつあがって16になってるじゃねぇか」


 今日1日の成果が、これだった。

 ガズさんの反応から見るに、異常なペースだとわかる。


 俺のレベルが高いのは、【忍者】のレベルが上がりづらいのもあるだろうが、ほとんどの敵を俺が倒していたからだ。

 そもそもシャノアは俺と一緒にいたいだけなので、強さにはさほど興味はない。

 ……とはいえ、実はシャノアのほうが俺より強かったりするんだよな。

 さすが【忍者】だよ。


 アイリスはほとんど戦闘に参加しなかったが、探索中に警戒するだけでもレベルは上がるのだとか。

 それでも直接戦闘に参加するのに比べると、レベルの上がりはかなり遅くなってしまうけど。


「【斥候】だと、もう少しレベルアップしてたかもしれませんね」


 アイリスは少し残念そうに呟く。

 同じ行動でも、ジョブによってはレベルの上がり方がかわるらしい。

 【戦士】はやはり、直接戦闘に参加したほうがいいようだ。


 とりあえずジョブレベルを確認してもらったあと、簡単な活動報告をしておく。


「ははっ、冒険者になりたてのやつが、たった3人で石造りの迷宮を踏破するとはな」

「ちがいますよガズさん。わたしはうしろで見てただけです」

「なるほど、実質ふたりで踏破とは、ますます驚きだが……」


 そこでガズさんは俺を見て、にやりと笑う。


「俺の見る目は正しかったってわけだ」


 5級だとソロであのダンジョンを踏破する冒険者もいるようだが、6級でソロはさすがに難しいらしい。


「だが4級となると、ジョブレベルも実績もいま一歩だな。もう少しがんばりな」

「わかりました」

「それからシャノアさんは、とりあえず7級だな」

「うむ、よくわからんがわかった」


 そうこうしているうちにギルドが混み合ってきたので、査定結果は後日確認することにした。

 急ぐ必要はないからな。


「アラタさま、神殿へいきませんか?」

「ああ、そうしようか」


 【銃士】レベルが21になった俺は、弾丸への属性付与や、属性弾を作成できるスキルをいくつか習得している。

 それが魔道士系ジョブ発現の条件になるかどうかはアイリスが調べてくれると言っていたが、こうなったら直接いったほうが早いだろう


 ちなみに〈鑑定〉で確認できるジョブ候補だが、それにはまず神殿で祈りを捧げなくてはならない。


「それでは女神さまに祈りを捧げてください」


 神官さんの指示で、手を組み、頭を垂れて祈る。


「おっ、やったぜ」


 ジョブ候補に【白魔道士】と【黒魔道士】、そして【時魔道士】が追加されていた。


○●○●


 翌日は1日休んだ。

 同じダンジョン探索でも、ポーターとしてついていくのと自分で戦うのとではかなり違う。

 探索中は平気だと思っていたが、帰って風呂と食事を済ませたら、一気に眠気が来て次の日は昼まで寝てしまった。


 シャノアもお疲れのようだったので、その日1日だらだらと過ごした。

 ついでに言うと、アイリスも結構疲れていたようだった。


 そしてさらに翌日。

 俺はふたたびレベリングをすべく、ダンジョンに潜る。

 もちろんシャノアも一緒だ。


「おはようございます!」


 そしてアイリスも同行する。

 トマスさんの許可を得て、彼女には俺たちのレベリングを手伝ってもらうことにした。

 このあたりのタンジョンに関する情報を持っている彼女がいるといないとでは、効率が変わってくるだろうから。


「今日はまた、格好が違うんだな」


 今日のアイリスは、レザーのノースリーブジャケットにホットパンツ、ショートブーツという格好だ。

 ジャケットの下はタンクトップで、これまた彼女のスタイルが強調されている。

 しかもヘソ出しスタイルだ。

 といっても網タイツと網シャツを来ているので素肌はあまり晒していないが、逆に、こう……あれだな。


「今日は【斥候】ですから!」


 そう言って彼女は、腰に差した鞘から短剣を引き抜いた。

 どうせならと、警戒だけでもレベルが上がりやすいジョブにしたのだろう。


 俺? 俺はこないだと同じスタイルだよ。

 もちろんシャノアもね。


「ではいきましょう!」


 というわけで、今日も『石造りの迷宮』にやってきた。


 俺の【時魔道士】レベルが1なので、安全を考慮して、というわけだ。


「そういえば、アラタさまは杖などをお持ちですか?」


 ダンジョンに入ったところで、アイリスが問いかけてくる。


「持ってないけど、なんで?」

「いえ、魔道士は普通、杖を持って魔法で攻撃しますから」


 杖の中には魔法の威力を上げてくれるものもある。

 なので、地球でも魔法系スキルを使う冒険者は、杖を持っているヤツが多かった。


「っていうか、【時魔道士】って普通はどうやって敵を倒すんだ?」


 ジョブチェンジした際に覚えたスキルは〈ショートチャージ〉といい、魔法の発動にかかる準備時間を短くできるものだ。


「普通は【黒魔道士】のレベルを少し上げておくか、スキルオーブで攻撃魔法を覚えますね。〈ショートチャージ〉との相性がいいので」

「なるほど。でもまあ、俺は攻撃魔法が使えないから」

「ああっ、そうでした……!」


 そのことをうっかり忘れていたのか、アイリスがしゅんとしてしまう。


「なに、心配はいらんよ」


 俺は彼女を安心させるように笑かける。


「魔道士だからって、魔法を使わんでもいいだろう?」


 そう言って俺は、拳銃を取り出すのだった。


○●○●


 それから20日ほど、俺たちはレベリングに励んだ。

 途中からは護衛のマリアンが復帰し、アイリスと交代で付き添ってくれることになった。


『このマリアン、命を懸けてアラタさまに付き添いますです!』


 なんて気合いの入りっぷりだったので、肩の力を抜かせるのに少し苦労した。


 トマスさんの見立てどおり、【時魔道士】のレベルを上げることで、〈帰還〉の効果が上がることがわかった。

 なにせホームポイント数が増えたからな。

 いまじゃ5つだ。


 よきところまで【時魔道士】のレベルを上げたところで【銃士】に戻った。

 あと、回復がポーション頼りなこと、素手でも戦えるようになっておきたいことから、【白魔道士】のレベルをいくつか上げたうえで【武闘僧】にもなった。

 それと、ワケあって【商人】レベルも上げておいた。


 〈帰還〉で移動時間を短縮しつつ、アイリスとマリアン、ときどきギルダスさんのサポートを得ていくつものダンジョンを踏破した俺とシャノアは、3級冒険者となった。

 ジャレッドくんを超えたわけだ。

 ちなみに彼は、まだ復帰していない。

 再生魔法ってのは時間がかかるらしい。


 とまぁいろいろあって充分な強さを得たと感じた俺は、いよいよ地球へ帰ることにした。

 ダンジョンで行方不明になると、30日で死亡扱いになるからだ。

 そうなる前に、生存報告をしておかないとな。


 それに、銃弾もそろそろ心許ない。

 魔弾の威力も上がったし、〈ショートチャージ〉のおかげで装填時間も短縮できたけど、それでも通常弾は便利だからな。


「それではアラタさま、シャノアさま、いってらっしゃいませ」

「がんばってくださいです!」


 アイリスとマリアン、そしてトマスさんとギルダスさんに見送られながら、俺は腕輪を装着する。

 これまでに用意できた高密度の魔石は6個。

 【時魔道士】レベルの効果次第では、もっと密度の低いものでもいけるかもしれない。

 今回はその実験も兼ねての〈帰還〉だ。


「じゃあ、いってきます」

「またな」


 挨拶を済ませ、シャノアを抱えて〈帰還〉を発動した。


「おぅ……!」

「ぬぉ……!」


 空間の歪みに目眩を覚える。


「――はぁっ……!」


 相変わらず、気持ち悪いぜ……。

 でも、なんだかぐらぐらしてる時間は短くなったな。


「主……おろしてくれ……」

「おう、すまんな」


 小上がりの床に降ろしてやると、シャノアはふらふらと少し歩いたところで、顔を上げた。


「おう、我が家ではないかー!」


 だが家の中を見るなり元気になり、駆けだした。

 元気なやつめ……。


「さて……」


 目眩が落ち着いたところで、魔神の腕輪を〈鑑定〉する。

 今回はマナポーションを急いで飲むほどの魔力は消費しなかったが、こっちはどうだ?


「おほっ!」


 魔石の魔力が半分以上残っていて、俺は思わず変な声を上げてしまった。

 あわてて顔を上げたところ、シャノアは喜びに家中を駆け回っていて、俺の様子には気づいていなかった。


「よしよし」


 口元がニヤけるのを自覚しながら、魔神の腕輪を〈収納〉する。


 今後は高密度の魔石1つで、地球と異世界を往復できることがわかった。

 片道なら、半分の密度で言いわけだし、それならもっと多くの魔石を用意できそうだ。


 行き来の問題は解決したと言ってもいいんじゃないかな。


「よし、じゃあ明日はギルドにいくか」


 今日1日ゆっくり休んだら、明日からはいよいよ地球での活動再開だ。


――――――――――

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ジャンル別ランキングも1位をキープし、総合ランキングもじわじわ上がっております(ジャンルの壁が厚い…!)。

本当にありがとうございます。

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明日より第2章となりますが、まだしばらくは毎日更新を続けますので、お付き合いいただければ幸いです。

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