第19話 地球ダンジョンでレベルアップ

「いらっしゃいませアラタさん。本日は探索ですか?」

「ええ。今日はS-66ダンジョンに入ろうと思います」


 例の、山のダンジョンだ。

 トワイライトホールがどうなったのか、自分の目で確かめておきたい。


「おひとりですか?」


 受付さんが、心配そうに尋ねてくる。

 彼女にしてみれば俺は、〈サンダーブレット〉以外ろくな戦闘スキルを持っていないってことになるもんな。


「大丈夫ですよ、浅いところをうろつくだけなので」

「そうですか。ではくれぐれもお気をつけて」


 手続きを終え、ギルドの転移スペースへ。

 ここにはかなり大規模な転移ギアがあり、周辺のダンジョンへ瞬時に行き来できる。

 転移といっても、ギアは〈帰還〉に比べれば距離は格段に短いし、魔石の消費量も結構なものになるので、物流革命を起こせるほどのものではない。

 それでもギルドが転移ギアでの行き来を管理しているのは、ダンジョンへの不法侵入を防ぐためだ。


 無許可でダンジョン内の魔物を倒したり、資源を持ち帰るのは密猟だからな。


 このギルドからは、近隣6カ所のダンジョンへ転移できる。


「S-66いき転移箱はこちらでーす」


 係員の案内に従い、S-66ダンジョンいきの転移箱に乗る。

 これは大きなエレベーターのようなもので、10人くらいを一気に運べるものだ。

 起動後ちょっとした浮遊感のあと、およそ10秒ほどで目的地に到着する。

 乗り合わせた冒険者もいたが、挨拶を交わす程度でそれぞれ転移箱を降りていった。


 降りた先はちょっとした休憩室となっていて、そこには数十名の冒険者がいた。

 これから探索を始める者もいれば、浅いところを回って昼休みに戻ってきた者、探索を終えて帰る者など、内訳は様々だ。

 帰る冒険者にしても、午前中で終えた者もいれば、夜通し、あるいは数日がかりで探索を続けた者もいる。


 なんにせよここが混み合うのはよくないので、設備としてはトイレがあるくらいだ。

 ちゃんと休みたければ、さっさとギルドに帰れってことだな。


 そんな冒険者たちを尻目に、施設の外に出る。


 施設を出ると木々に覆われた山がそびえ立ち、そこに向かう大きな道があった。

 その道を、幾人もの冒険者が行き交っている。


 モルタルで整備された道がしばらく続いたあと、それが突然途切れた。

 その瞬間、ちょっとした違和感を覚える。


 ダンジョンに入った証拠だ。


 特に景色が変わることはないが、なんとなく実感できるのだった。


「さて、いくか」


 気合いを入れ、森の深い部分を目指して駆け出す。

 まだ周りには冒険者の姿が多いので、シャノアにはもうしばらく影に入っていてもらおう。


○●○●


 記憶を頼りに、あの日の道を進む。

 3時間ほどでそれらしい場所に辿り着いた。

 それからさらに1時間以上探索しているが、いまのところトワイライトホールは見つかっていない。


 俺もはっきりと場所を覚えてるわけじゃないので、もう少し捜索範囲を広げつつ、あと2~3時間で切り上げよう。

 それで見つからなければ、あのトワイライトホールは消えたと考えていいだろう。


「ゴォオアァァァアアッ!!!!」


 目の前でハイオーガが叫ぶ。

 トワイライトホールをくぐり、あの日異世界で遭遇したオーガと比べると、倍近い大きさだろうか。

 強さはへたをすると10倍以上だ。


「とはいえ、もうお前なんて怖くないんだよなぁ」


 誰に言うでもなく呟きながら、ショットガンを取り出す。


「グギャギャアッ!」


 そんなオモチャが通用するものかと言わんばかりに、ハイオーガが吠えた。

 まるで笑っているようだ。


 ――ドゴンッ!


 気にせず一発。


「ゴォッ!?」


 雷撃を纏ったスラッグ弾を腹に受け、ハイオーガは身体を震わせて腰を折った。


「ほらもう一発」


 ――ドゴンッ!


「グガッ……!」


 今度は氷雪を纏った銃弾を膝に受け、敵の身体がぐらりと揺れた。


「グッ……ガガッ……!」


 なんとか体勢を立て直そうとしたが、その前に大きく踏み込み、距離を詰めて銃を構える。


「終わりだ」


 ――ドゴンッ!


「ゴッ……」


 最後に火炎を纏った銃弾で頭を撃ち抜き、トドメを刺した。


「おっ、レベルアップだ」


 ジョブレベルが上がったことに気づいた。


「主、あっちのは片付けておいたぞ」


 別のモンスターと戦っていたシャノアが、トコトコと帰ってくる。


「俺はレベルアップしたけど、シャノアは?」

「うむ、儂もいましがたひとつ上がったぞ」

「やっぱこっちはレベルが上がりやすいな」

「そのようだ」


 異世界ダンジョンにくらべて魔素が濃い地球ダンジョンに出現するモンスターは、強い。

 ただ、俺たちが持つスキルの効果も上がるので、戦闘の難易度はそこまで変わらない。

 にもかかわらず、素材や魔石の価値が高いうえ、レベルまで上がりやすいときた。


 ほんと、ボーナスステージだな。


「そのうちアイリスたちも連れてきてやりたいよな」

「うむ、同感だ」


 異世界ダンジョンをいくつも攻略した俺たちだったが、このところレベルが上がりづらくなっていた。

 どのジョブもレベル20を超えたあたりで急速にレベルアップの速度が鈍り、25を超えるとほとんど上がらなくなった。

 それでも俺は【武闘僧】と【時魔道士】を30くらいまで、【銃士】は頑張って40手前まで上げていた。


 まぁアイリスいわく、ひと月足らずで合計レベル100に届くかどうかというのは異常なハイペースらしいが、それは銃とシャノアのおかげだろう。

 魔物がうじゃうじゃ出るトラップにわざと引っかかっては自動小銃を撃ちまくったり、明らかにレベル不相応な強敵をシャノアの協力で倒したりできたからな。


 ただ、それ以上のレベルアップを目指すなら、拠点を移す必要があると言われていた。

 それも含めていろいろ検討していたが、ありがたいことに地球ダンジョンだとまだまだレベルを上げられそうだ。


 今度こっそりとアイリスやセイカも連れてこよう。

 密猟? それを言ったら異世界との行き来なんて密入出国を繰り返してるようなもんだし、いまさらだよな。

 トワイライトホールの件も結局秘密にしたわけだし。


「シャノア、元気か?」

「むしろ疲れる要素があったのかと問いたいな」


 これまでかなりの数のモンスターを倒したってのにこの余裕、頼もしいね。


「ま、俺もそんなに疲れてないし、もうしばらく続けようか」

「よかろう」



 そんなこんなでさらに3時間ほど探索を続けた。

 結局トワイライトホールは見つからず、消えたと判断することにした。


「よしっ、50が見えてきたぞ!」


【銃士】レベルが48になった。

 さすがにここでも、40を超えるとレベルの伸びが鈍化した。

 そこでシャノアにお願いし、できるだけ強い個体か、群れを探して倒しまくった。


 このダンジョン、深い場所だと出現モンスターの質も量もかなりのものだ。

 魔素が濃いおかげか、再出現リポップのペースも早いような気がする。


 そのおかげで、かなりレベルがあがった。


「儂はようやく30を超えたな」


 シャノアはようやく【忍者】レベルが30を超えたみたいだ。

 ただレベルアップごとの成長は、段違いだな。

 自分のレベルが上がれば上がるほど、シャノアとの実力差を実感するよ。


「よしよし、いいスキルを覚えたな」


 新たに習得したスキルの効果に満足しつつ、いま倒したレッドドラゴンの死骸を〈収納〉する。

 魔神の腕輪に使う魔石もかなり溜まったし、いい素材もたくさんとれた。

 セイカやアイリス、それにウォーレン商会の護衛用に、いい装備を用意できそうだ。


「とりあえず、何日かかけて【銃士】レベル50を目指すかな」


 それが終わったら、他のジョブもレベルを上げよう。


「シャノア、どうだ?」

「うむ、あちらのほうに強い気配を感じるぞ」

「よしきた!」


 シャノアの索敵も、効率的なレベリングに欠かせない要素だな。

 さすがに今日はこれ以上のレベルアップも難しいだろうけど、やれるところまではやっておきたい。


「む?」


 強い敵と戦うべく森を駆けていると、先導するシャノアが足を緩めた。


「どうした?」

「いや、この先にいる強者だが、どこかで似た気配を感じたことがあるのだ」

「似た気配? レッドドラゴンとかグリフォンとか、おなじみのやつってことじゃないのか?」

「いや、近づいてわかったが、それらより遙かに強い」


 おかしいな。

 このダンジョンにそんな強いモンスターはいないはずだ。

 たまにイレギュラーが発生することもあるけど、シャノアの様子を見るに、そういうのでもないらしい。


「ん?」


 いま気づいたけどこのあたり、トワイライトホールがあった場所に近いような……。


「む、気づかれたか?」

「えっ?」

「いかん! 主っ跳べっ!」

「おおぅっ!?」


 シャノアに言われるまでもなく、ヤバい気配を感じてその場を跳び退く。


 次の瞬間、俺が立っていたあたりを暴風が駆け抜けた。


「これは……〈疾風剣〉か!?」


 とんでもない威力、そして速度だが、その軌道はまさしく〈疾風剣〉のそれだった。


 少し遅れて木々が倒れ始める。

 数十……いや百本を優に超える木が、斬り倒された。


「はっはぁーっ! このへんにいると思ったぜおっさん!!」

「ようやく見つけたぞ底辺! 殺してやるから覚悟しろぉ!!」


 倒れた木々の向こうには、重警備留置所にいるはずのジンがいた。

 その隣には全身鎧に大盾という変な格好のやつがいるんだけど、声からしてタツヨシか?


 なにがあったか知らんが、元気そうでなによりだよ、ちくしょうめ。

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