第14話 食事のおさそい
「しかしジンのやつも、いよいよ年貢の納め時かな」
ジンとタツヨシだが、あいつらは総合病院でメディカルチェックを受けたあと、冒険者ギルド管理の重警備留置所に入れられた。
スキルの使用を制限できるうえ、そこそこ腕利きの冒険者が警備にあたっている場所だ。
さすがのジンもあそこから逃げ出すのは無理だろう。
まぁ逃げ出したところで、いまのあいつになにができるとも思えないけど。
ジンたちの危険は去ったし、ギルドと警察への正式な事情聴取を終えたいま、ヤスタツがすぐに動くとも思えない。
なので、ちょっとくらい出歩くのは問題ないだろう。
「どっかでメシでも食っていくか」
「だな。腹減ったぜ」
なんやかんやで3時間近く経っていた。
少し早いが、昼メシにしよう。
そう思ってぶらぶらと歩き始めた。
スクーターを出すか、近くの店に歩いていくか。
「なぁ、セイカ……ん?」
とりあえず、なにを食べたいかセイカに聞こうかなと声をかけたところで、黒塗りの自動車が近くに止まった。
しかも2台。
いやな感じだ。
運転席からスーツを着た中年の男が降り、後部座席のドアを開く。
中から、恰幅のいい老人が現れた。
「やあ、古峯新太くんと松元清華さんだね」
老人は親しげに声をかけてくる。
知り合いではない。
だが、顔は知っている。
子供のころから選挙ポスターやらテレビ中継やらで、よく見た顔だった。
「どうも、鵜川さん」
このタイミングでヤスタツがくるか。
「これはこれは、君らのような若い人に知られているとは、私もまだまだ捨てたもんじゃないなぁはっはっはっ」
にこにこと笑いながら近づいてくるヤスタツは、気のいい爺さんに見える。
さすが元政治家、好印象を与える術には長けているらしい。
「俺たちになにかご用で?」
セイカを庇うように半歩前に出て、尋ねる。
ちらりと彼女を見たが、嫌悪感がはっきりと顔に出ていた。
「いやなに、君たちにはウチのバカ息子が迷惑をかけたようだからね。早く謝りたいと思っていたら偶然見かけたので、声をかけさせてもらったんだよ」
うそつけ。
どう考えても待ち伏せてただろう。
「このたびはタツヨシが大変迷惑をかけてしまった。まことに申し訳なかった」
ヤスタツはそう言って、深々と頭を下げた。
さすが元政治家、みごとな頭の下げっぷりだ。
「お気になさらず、もう済んだことなので」
ここでこいつを糾弾しても意味はない。
政治家に通じるような皮肉を言えるほどのワードセンスもないし、適当に流しておこう。
「それでだ」
ヤスタツは頭を上げて、俺とセイカを交互に見る。
「お詫びにもならんとは思うが、よければこれから、食事でもどうかね?」
「はぁ……」
できればこんなおっさんは抜きでセイカとのランチを楽しみたいところだが、せっかくのお誘いだ。
「セイカ、いいかな?」
「えっ? あ、うん。アラタがいいなら」
俺が応じると決めたことに彼女は少し驚いた様子だったが、すぐに納得してくれた。
「では遠慮なく」
「そうかそうか。ではうしろの車に乗ってくれたまえ」
せっかく先方から接触してくれたんだ。
出方を見させてもらおうじゃないか。
○●○●
乗り込んだ自動車は、滑るように町を走った。
ダンジョンができてからこっち、道路の整備は以前ほど行き届かず、道はかなりでこぼこしているはずなのに、だ。
この自動車、相当金をかけて作られた魔道具だな、こりゃ。
「アラタ……」
後部座席の隣に座るセイカが、不安げに見てくる。
俺は彼女を安心させるように寄り添い、手を握っていた。
こうしておけば、いつでも〈帰還〉できるからな。
それに、なにかあれば影の中にいるシャノアが気づくはずだ。
相手が誰だろうと、無闇に恐れる必要はない。
「おつかれさまでした」
自動車が停まりドアが開けられる。
降りるとそこは、よくある住宅街だった。
乗車時間からして市内であることは間違いないが、見覚えのない場所だった。
「さぁ、ついてきてくれ」
ヤスタツに続いて、普通の民家に入る。
看板もなにもない場所だが、中は立派な料亭だった。
「ここは会員制でね。味は確かなので安心してくれたまえ」
少し驚く俺たちを見て、ヤスタツは得意げに言った。
奥の座敷に通される。
靴を脱ぐのは少し抵抗があったが、さすがにここでなにか仕掛けてくることもないか。
「さぁ、座ってくれ」
掘りごたつ式の座席に、セイカと並んで腰を下ろす。
ヤスタツは俺たちの向かいに座ると、机に手をついた。
「このたびは
そう言って、ふたたび頭を下げる
「先ほども言いましたが、済んだことですのでお気になさらず」
「そう言ってくれるとありがたい」
ヤスタツが頭を上げると、タイミングを見計らったように女将さんらしき初老の女性が現れた。
「なにか苦手なものやアレルギーはございますか?」
「大丈夫です」
「あたしも、問題ない」
「かしこまりました」
それから料理が順番に運ばれてきた。
創作会席とでもいうのかな。
オシャレだけど品のある感じだ。
「どうかね、ここの料理は」
「美味いですね、ものすごく」
俺の言葉に、セイカもうなずく。
さすがヤスタツ御用達の店、といったところか。
「アラタくんは優秀な冒険者らしいな」
食事が一段落ついたところで、ヤスタツが切り出してきた。
「とんでもない。ろくなスキルもない底辺冒険者ですよ」
「ほう、最近力を伸ばしてランクアップしたと聞いたが?」
「運がよかったんですよ」
「ふふ……自分の功績を実力ではなく運によるものだと言える人間はね、大抵優秀なんだよ」
「それはどうも」
「しかしもったいない」
そこでヤスタツは一度徳利を傾け、お猪口に注ぐと一気に飲み干した。
「もっといいスキルに恵まれれば、君ならより高みを目指せるというのに、攻撃スキルがサンダーボルトだけとは、残念だったね」
なるほど、そのあたりはご存知なわけだ。
「まぁ、俺には充分ですよ。がんばればBランクくらいにはなれるでしょう」
「私としては、地元からもっと優秀な冒険者が出てほしいのだがね。ジンくんがああなってしまった以上、新たなAランク冒険者が現れてくれればと、強く思うよ」
「そのうち出てくるでしょう。最近の若い人は優秀ですから」
「優秀なだけではダメだよ君。ジンくんのことでそれがよくわかったと思うがね?」
いやいや、お前がそうさせたんだろうが。
「なんにせよ、俺には関係ない話ですね。長いことダンジョンを彷徨ってようやく単一スキルひとつ分キャパシティが広がっただけですし、これ以上の成長はないでしょう。もう歳も歳なので」
こいつはさっきからなにが言いたいんだ?
トワイライトホールのこととか、向こう側のこととか、そのあたりの探りを入れてくると思ったんだけどな。
それとも俺が向こうから帰ってきたこと自体、嘘だと思っているのだろうか?
まさかジンからそのあたりの話を聞いていないはずはないんだろうけど、
「いや、アラタくん。年齢を理由に限界を決めるのはよくないよ」
「そうは言っても、無理なものは無理ですから」
ジョブのないこの地球なら、だけど。
「キャパシティに関係なく、強力なスキルを得られるとしたら、どうかね?」
「はぁ」
おおっと、そろそろ本題か。
それにしてもこの話、まさか……。
「アラタくん、君は特別なスキルオーブを知っているかい?」
「特別なスキルオーブ?」
「そのオーブを使えばキャパシティに関係なく、しかも通常より遙かに効果の高いスキルを得られる……という話なのだがね」
その話……まさか地球にもあるのか?
「そういう特別な力を持つ、黒いオーブが存在するのだが、興味はないかね?」
間違いない、そりゃダークオーブだ。
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