第46話 今日のメイン
思い切り笑ったところで3人が舞台中央に揃って頭を下げ、そして舞台の端へと消えていく。
さて、この次が本題、ワルブルガのショーだ。
まずは中央に1人、若い男性と思われる燕尾服の人が登場。
わざとらしい山高帽を脱いでしてこちらに頭を下げる。
『本日は我々ワルブルガのショーにお越し頂き、誠にありがとうございます。本日は『窓辺の花』、『街角の彼女』、『ラストダンスは私に』の3本をお送り致します。
それでは境目のない夜を、貴方へ』
境目のない夜とは何だろう。
『『境目のない夜を貴方へ』はワルブルガのキャッチフレーズ』
考えると半ば無意識に知識魔法が起動してしまう。
今日は予習なしで見るつもりなので、そこで魔法を意識的に終了。
男が右手に持った山高帽をふっと背後に投げる。
右斜め後ろに飛んだ帽子がキラキラ星のような灯りをまき散らしながら飛んた次の瞬間、舞台は真っ暗になった。
キラキラするのはきっと独自魔法だ。
光だけで無く魔力も感じたから。
こういった舞台も魔法を使うんだな。
そう思いつつ舞台を注視する。
1秒くらいして舞台が明るくなると舞台は一変していた。
先程の男の姿は無く、代わりに舞台の左右に男と女がそれぞれ中央から背を向けた形で立っている。
軽快な音楽と共に2人が歩き始めた……
◇◇◇
時間を忘れて一気に見てしまった。
気がついたらもうフィナーレ。
7人全員が出て挨拶したところで周りの皆さんと同様、思い切り拍手しまくる。
何というか、今まで見た劇や映画などの中で一番『いい体験をした』と感じたから。
話の筋そのものは整理すれば割と単純。
店の外からいつも自分を見ていると思った男性が、実はショーウィンドウのマネキン人形に恋をしていて、そのことが分かったとたんマネキン人形が人として動き出す話。
告白された男性が実は同性しか好きになれない人で、告白失敗かと思えば告白した女性に見えた人が実は男性でカップルが成立する話。
AはBを好きで、BはCを好きで……そういう関係だったのが、その中の1人が見かけとは違う性別で、それで一気に関係が変化する話。
台詞はほとんど無く、やや大げさな身振り手振りとダンスで話が進んでいく。
そのダンスがどれも美しいし迫力があるのだ。
日本の一般的な劇場と違い、ここの舞台と客席はごく近い。
時には舞台から降りて客席通路までダンスしてやってきたり、端の席から客を拉致して舞台に引っ張り上げたり。
迫力や臨場感があるのはその近さも理由の一つだろう。
テンポも良くてとにかくずっと目が舞台とダンサーを追い続けている状態。
結果、フィナーレまで時間を感じなかったという訳だ。
ただ微妙に疑問が残る。
ダンサーさん7名でやっている感じだったけれど、全員男性役だったり女性役だったりで、本来の性別がよくわからない。
まあ途中で服の前を開けて胸を出した人は男性なのだろうけれど。
もういいだろうと思って知識魔法でワルブルガを検索。
『ヘラスを中心に活動する7名のダンスユニット。性別は1名(男性)を除き不詳としている。男女入れ替わる話の他、人と物、動物が入れ替わる話が多い。キャッチフレーズの『境目のない夜を、貴方に』はそういった話の傾向を表している』
なるほど。
今日見た舞台でも男女の入れ替わりは結構あったし、人形と人の入れ替わりもあった。
つまりそういう『違い』という『境』が無い世界の物語を提供しているという訳だ。
色々と納得。
「それじゃ飲み物を飲んだら帰りましょうか」
そういえば舞台に夢中でタクサルドリンクが半分残っている。
ぬるくなってそうなので魔法で少し冷やして、一気に飲む。
周囲を観察すると人の流れは横の出口へ向かう人と、前の舞台側へ向かう人の2通り。
帰るのは分かるけれど前へ行くのは何だろう。
そう思ったがすぐに理由がわかった。
握手会やサイン会みたいな事をやっている。
ダンサーさん7人それぞれに列を作って。
「ミアさんはどうする? サインを貰っていく?」
リアさんにそう聞かれて首を横に振る。
「いえ、今日はいいです。ただ、本当に面白かったです」
「なら良かった」
本当に満足だ。
お店を出て、行きと同じ道で公設市場方向へ。
「皆さんはこういった出し物をよく見られるんでしょうか?」
「それぞれ微妙に趣味が違うからなあ。ワルブルガはまあ、私達3人とも割と好きだけれど、他は結構違うしね」
「レアは割と若い子の歌唱ショーとか多いんじゃない、概ね週1位で」
「そんなものかなあ。あ、でも平均するとそうなるかも。6曜日にハシゴする事もあるしね」
「私は月1くらい、今日のような一般的なダンスショー形式。カイアは演劇系が多いんだっけ」
「月2くらいですね。アブソダスとかシグドレンが多いです」
『アブソダス ヒラリア南部地域を中心に活動する演劇集団。独自魔法を駆使した斬新な演出と不条理な展開が特徴』
『シグドレン 前衛的革命劇団と自称する演劇集団。静かで難解な劇が多いと言われるがファンも少なくない』
カイアさんの趣味は難しそうだ。
このなかで聞くべきはリアさんのような気がする。
「リアさんお勧めのチームとか劇団とかありますか?」
「ワルブルガ以外だと、ハッサンズやタイタニア、あとはマキシミリアあたりは外れが少ないと思う。私はそこまで詳しい訳じゃないから一般的なチームばかりだけれど」
「ありがとうございます」
その一般的というのが大切なのだ。
あとで調べて、休みの日にでも挑戦してみよう。
ただ内容的に和樹さんを誘うのは微妙な気がするので、誘うならちひさんかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます