第20話 お店探しの方法

 第3曜日。

 今日はちひさんが公設市場に行くというので補充や買物を御願いして、そのまま職場へ。

 同じ公設市場でも事務棟の2階に出勤だ。


 ミナさんに挨拶して本日の仕事の指示を聞く。


「今日は何か急ぎの書類ありますか」


「昨日の夕方にあの、独立であるとか無いとかの書類が3枚きました。それから御願いしていいでしょうか」


「わかりました」


 この手の書類は好きだ。

 数値に意味がある分読み取る面白さがある。

 似たようなものばかりやっているので慣れてもいるし。


 ただ処理している最中に微妙に気になった事がある。

 これってちひさんの商品、それもチーかまを他に展開するかどうかの下調べでは無いだろうか。

 何か出荷と売上げの数値に見覚えがあるような気がする。


 しかしこれは仕事だ。

 努めて気にしないようにしつつ、いつも通りグラフにして書類作成終了。


 ちなみに結果は独立ではない、つまり関係性があるとなった。

 つまり類似商品ならば『同じように売れるだろう』という解釈となる。

 もしこれが本当にチーかまの分析なら、一気に出荷要求が増えそうだ。


 今日この書類を決裁してと考えると、グラハムさんから御願いが来るのは明日か明後日かな。

 そんな事を思いながら書類をミナさんに提出。


「もうそろそろお昼ですね。私はもう少しかかりそうですから先にどうぞ」


 なら行くか、そう思って立ち上がりつつレアさん達のデスクを見る。

 あ、私の方を見た後、3人とも立ち上がった。

 なら仕方ない。


「一緒に行きましょうか」


 こちらから声をかける。

 ちょうどいい。手頃なお店についても聞いてみる機会だし。


 ついでに言うと多分本日は食堂でグラハムさんと会わない。

 きょうはちひさんが市場に来る予定だから。


 ちひさんは概ね11時過ぎに家を出る。 

 しかも今日は新製品を幾つか持ってくる予定だし、和樹さん分の材料の業販購入もしてもらう予定。

 だからそこそこ時間がかかる筈だ。


 なのである意味今日は安心できる。


「ミアは昨日休みだったの? 姿を見なかったけれど」


「週3回勤務なんです。家の都合もあるのでだいたい第1、第3、第4曜日出勤にしています」


「うーん、私と2日しか合わないなあ」


「レアは週1と週5を休みにしてるから」


「今週は忙しいから1の曜日も出たよお。それにどうせなら休みの日が長い方がいいよね」


「でも連続3日勤務は疲れない?」


「3日まったり出来るのに慣れちゃうとね」


 顔だけでなく話し方でも3人の違いがわかるようになった。

 一番おしゃべりなのがリアさん。

 語尾に~だよねえ、とか~かなあ、と付ける事が多いのがレアさん。

 2人に比べると無口で丁寧な話し方をするのがカイアさんだ。


 なお知識魔法によると週3回とか週4回勤務というのはごく一般的な模様。

 これは女性に限らず男性でも同じ。

 というか少なくともヒラリアでは男女とも勤務体制は同じだ。


 むしろグラハムさんのように毎日来ているなんて方が珍しい。

 というかグラハムさん、休みはどうなっているのだろう。 

 労働基準法に対応する法律はヒラリアにもあるし、就労時間についても結構厳しい筈だけれども。


「ところでグラハムさん、今日はいるかなあ」


 レアさんの台詞に一瞬ぎょっとする。

 ちょうどグラハムさんの事を考えている時だったから。

 大丈夫、問題は無い。


「今日はいないかもしれません。この時間は商談していると思いますから」


 言ってからしまったと気づく。

 別に言う必要はなかったのだ。


「あ、今日はうちの家からお昼くらいに新製品の商談に来る予定なんです。ですから多分いつもの時間には来ないかなと思います」


 ついつい言い訳を言ってしまう。

 あ、でもこれも悪手かもしれない。

 グラハムさん目当てで食事に行くのなら、もっと早く言って欲しかったと思うかもしれないから。


 失敗した。

 どうしようかな。


「あ、ミアさんの家の人が来ているんだ。どんな人? ミアさんの親にあたる人?」


 おっと、予想外の質問が来た。

 どう答えようかなと一瞬だけ考え、無難な方にする。


「10歳ちょっと年上の、姉みたいな存在の人です」


「何だ、女の人か。男の人ならどんな関係か聞こうと思ったんだけれどなあ」


 レアさん、何だそれは。

 話の展開の方向がよくわからない。

 でもまあ、グラハムさんの件で文句が出なくて良かった。


 食堂に到着。

 レアさんが食堂の中をぐるっと見回すかのように目線を動かす。


「残念、やっぱりいないなあ」


「まあそういう日もあるでしょ。空いている場所、探そう」


 右奥の窓際が空いていたのでそこを占拠。

 それぞれ昼食を出す。


「やっぱりミアは手作りなんだ」


「家族用におかずを大量に作るので、そこから詰めるだけですから」


「それって事はつまり大量に作っているって事でしょ。凄いなあ。私なんて3食買ってきたものそのままだよ」


「でも1人分だけなら作るより買ってきた方が安いよね」


「まあそう言っているけれど、実は作れないだけという悲しい話が……」


 そんな話を聞きながら思い出す。

 そうだ、この機会にお店を教えて貰うのだった。

 忘れる前に聞いておこう。


「ところで相談なんですけれどいいでしょうか?」


「えっ、何? グラハムさんに言い寄られた?」


 何故そういう話になるのだろう。

 確かにグラハムさん絡みの話ではあるけれど。

 そんな事を思いつつ、尋ねてみる。


「今度知り合いと軽い食事と飲み物をとりながら少し話す機会があるんです。ですけれど私、この辺でちょうどいいお店を知らなくて。何処かおすすめのお店ってありますか?」

 

「何々、デート?」


 何故そう恋愛関係になるのだろう。

 そう思いつつも返答する。


「いいえ、ただ話をするだけです。概ね午後、ここが終わった後に1時間くらい」


「相手にもよります。どんな料理が好きかとか、飲み物の趣味はとか。

 基本的にはお店の種類はパーラーかブラッスリーあたり。場所としてはフラムレインあたりが無難です。それだけわかればあとは知識魔法で好みの店を探せばいいと思います」


 これはカイアさんだ。

 なかなか参考になるな、今の台詞。

 種類はパーラーかブラッスリーで、場所はフラムレインが無難だと。

 覚えておこう。

 

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