第5章 気づかなかったこと

第21話 お店の確認

 家に帰った後。

 私はリビングにある大きめのテーブル上にヘラスの地図を広げる。


 和樹さんは作業場でお仕事中。

 結愛はちひさんと家の前の水路で投網の練習をしたり、たも網でエビをすくったりしている。


 では知識魔法で店を探すとしよう。

 カイアさんの言葉を元にお店を探す。


 フラムレインとは旧街道を南、学校付近から南東に広がる一帯。

 つまりこの前グラハムさんと行ったお店の辺りらしい。


 パーラーとはお菓子やケーキ類をメインにソフトドリンク等といただくタイプのお店。

 ブラッスリーとは酒類と食事を提供する店で、レストランよりは気軽でカフェよりはやや上級という位置づけとのこと。


 グラハムさんと行くのならブラッスリーの方だろう。

 結愛と行くならパーラーだけれども。


 知識魔法で『フラムレインにあるブラッスリー』を調べてみる。

 ヘイゼラールが出て来た。

 この前グラハムさんと行った店だ。


 この店が出てくるという事は探し方が正しいという事だろう。

 カイアさんに感謝しつつ他の店を調べてみる。


 出来れば公設市場に近くて、そして美味しい店。

 デートではないから雰囲気があるより明るい方がいいな。

 あと話はしやすい方がいい。


 いくつか見てみたところ、良さそうなお店があった。

 アスクライテというお店だ。

 こちらはヘイゼラールより店内が明るい感じで、女性や家族向けに近い雰囲気。

 家族向けっぽい大きなテーブル席もある。


 システムは……ヘイゼラールと同じようにその都度注文してお金を払うようだ。


 料理の種類はヘイゼラールにもあったフィッシュ&チップス、ミートパイ、サイコロステーキ、ヒラリアン肉シチュー等。

 しかし他にスイーツ系もある。


 ファミレスに近い感じのお店も兼ねているのかな。

 値段もヘイゼラールと同じくらい。

 ただ2人席やカウンターもあるから、グラハムさんと会うのに使っても問題はないだろう。


 場所もヘイゼラールより家に近い。

 ならば一度行って、料理や雰囲気を実地で確認しておこう。

 出来るだけ早い方がいい。

 そして出来れば家族全員が揃っている時の方が。


 知識魔法で確認。

 このお店は夕食時間なら子供連れの家族で行っても問題無い模様。

 本日は営業中で、かつ家族席も今はそこそこ空いている。


 よし、私は立ち上がり、バルコニーの方へ。

 開けるとちひさんと結愛の姿が見えた。

 今は庭で投網訓練中だ。


「ちひさん、結愛、今日の夕食は外に食べに行きませんか?」


「いいですね。それじゃ着替えてそっち行きます。結愛ちゃんもそれでいい?」


「うん!」


 よしよし。

 なら私も支度しよう。

 和樹さんもいつもと同じならそろそろ作業終了する頃だ。


 ◇◇◇


「こっち側はあまり来たことが無いですね」


「フラムレインという、ヘラスでも古い地区だそうです」


「よく知っているな、美愛」


「職場の同僚に聞いたんです。こっちにいい店があるって」


 そんな事を話しながら歩く。


 結愛と一緒のペースでも歩いて10分かからない程度。

 店は学校の少しだけ先、ヘイゼラールより手前の東側。

 当たり前だが知識魔法で見た通りの外見だ。

 

 知識魔法でシステムを確認、ヘイゼラールと同じで問題無い。

 そんな訳で中へ入って、4人でちょうど座れる窓際の席へ。


「最初は私が見繕って注文してきます。何か食べたいものはありますか?」


「パフェ!」


 結愛はいつも通り。


「このお店は何も知らないしさ。美愛に任せるよ」


「私も。美愛ちゃん御願いしていいかな」


 和樹さんとちひさんは、私が自分で注文する事を試したいという事をわかってくれているのかな。

 いきなりお店に食べに行こうと言ったのだから、何かあるのかな位は気づいているかもしれないなと思う。


 ただ、だからどうだという詮索はない。

 そこが少しありがたい。

 別に隠すようなやましい事はないのだけれども。


「わかりました。それでは行ってきます」


「僕も行くよ。荷物持ちでさ」


 和樹さんが一緒に来てくれた。

 確かに1人で飲み物4つは辛いので有り難い。


 カウンターの手前側にメニューが置いてあった。

 その気になれば知識魔法でも調べられるからあまり見られていないのだろう。

 こんな感じなのだな、そう思いつつ注文する。


「すみません。注文いいでしょうか」


「はい、どうぞ」


 優しそうなお姉さんがカウンター内からそう返答してくれた。

 ちょっと安心。


「それでは飲み物、パインサイダー2つ、キーンヌカサイダー2つ。食べ物がミートパイ、サイコロステーキ、フィッシュ&チップス、ヒラリアン肉シチュー、トーロードオムレツ、パエージャ・ミノラ、マイナサラダ、ダイナーパフェ。

 あとダンパーパン2人前を御願いします」


 トーロードオムレツとはオムレツというが包んでおらず、野菜や肉のみじん切りを卵に混ぜて一緒に焼いたもの。

 パエージャ・ミノラは親指大くらいの茹で肉がゴロゴロ入ったパエリア。

 マイナサラダはシダ系植物の葉っぱメインの、よくあるサラダだ。


 ダイナーパフェはパフェと名がつくがプリンアラモードだと思えばほぼ間違いない。

 これは勿論結愛用だ。


 メジャーなメニューと食べてみたいメニュー、御飯とパン、無難な飲み物と結愛用パフェという注文だ。


「わかりました。それでは会計を御願い致します」


 お姉さんがささっと伝票を書いて、そして合計金額を出す。

 どうやら表計算魔法と同じようなオリジナル魔法を使っている模様だ。


「合計で小銀貨8枚、正銅貨7枚8,700円となります」


「僕が出すよ」


 私が財布を取り出すより早く和樹さんが硬貨を取り出して支払った。

 どうやらアイテムボックスに直接入れていたようだ。


「すみません」


「後で友達と来るんだろ。その分は取っておかなくちゃさ」


 やはり下見だと気づかれていたようだ。

 でもそれがグラハムさんだと知ったらどんな顔をするだろう。

 そんな事を思いながら支払ってもらい、細長いグラス4つが載ったお盆を受け取る。


「料理は出来次第お持ちする形で宜しいでしょうか」


「それで御願いします」


 うんうん、問題無い。

 お盆を持って立ち上がったら和樹さんにすっとグラス2つを取られた。


「この2つは僕が持っていくよ」


「ありがとうございます」


 好意に甘えながら席へ。

 

「今回は飲み物、よくあるらしいパインサイダーとキーンヌカサイダー2つずつにしました。飲み比べて好きな方をどうぞ」


「飲む」


 真っ先に結愛が味見する。


「うーん、こっち、少し青臭い。こっちが甘くて美味しい」


 キーンヌカサイダーの方が好みのようだ。


「あとどんなの頼んだの? パフェある?」


「そうだね、ここで知識魔法の練習をしてみようか。学校で習ったよね」


 どうやらちひさん、結愛の勉強内容もかなり把握しているようだ。


「うん、習った!」


「それじゃ確認してみようか。美愛お姉ちゃんが今頼んだの、何かなって」


『今しがたあった事』を知るのは一番簡単な知識魔法だ。

 ちひさん、何と言うか流石だなと思う。

 私はこの機会にこうやって魔法の復習をするなんて思いつかなかった。

 結愛の実の姉なのに。


「うーん……あ、いっぱい出てきた。お肉、魚のフライ……」


 結愛、楽しそうに指折り数えている。


 店員さんがお盆を持ってこっちに向かってきた。

 早くも最初のメニュー、到着するようだ。


「お待たせ致しました。ヒラリアン肉シチュー、マイナサラダ、ダンパーパンになります」


 ヒラリアン肉シチューはデルパクスのすね肉を煮込んだビーフシチュー風の料理で、シチューと言うが中身はソースと肉のみ。


 ダンパーパンは酵母を使わず魔法で気泡を入れて膨らませ、分厚い鍋で焼く固いパン。

 薄切りにして食べると塩気があって美味しい。

 ヒラリアン肉シチューのソースをつけても良さそうだ。


 この辺りは作り置きを皿に入れたり、切ったり盛ったりするだけ。

 だから提供が早いのだろう。


「それじゃ食べようか」


「うん!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る