第22話 間違い探し?

 今日もいつも通りグラハムさんのところに寄ってから御仕事へ。


 午前中はグラハムさん発では無さそうな書類を2枚片付ける。

 違うと思った理由は微妙に検定の仮説設定が甘いから。

 ピントが微妙に外れているというか、検定の意味が今ひとつわかっていない感じ。


 つまりグラハムさんは検定の意味を良くわかった上で書類を作っていた訳だ。

 この不出来な書類でそんな事に気づいたりもする。

 どうやらグラハムさん、出来る人ではあるようだ。

 レアさん達が狙うのも正しいのかなと思ったりする。


 確かに見た目も悪くはない。

 一般的に想像するイケメン欧米人という感じだ。

 私の好みかというとまたそれは別だけれど。

 和樹さんの方がいいかな、私的には。


 一応この書類を書いた人にも結果と意味が分かりやすいよう、いつもより丁寧に説明を書く。

 ついでに図も冗長になるけれどわかりやすく複数個作成し、更に説明を追加してミナさんに提出。


 ミナさんはほっとしたような顔をして書類を受け取った。


「助かりました。この書類、微妙に設定がわからなくて私ではどう書いていいかわからなかったのです」


 それはミナさんが悪いのではない。

 この書類の書き方が悪いのだ。


「この書類の計算方法でわかる事と、この問題設定が少しずれているんです。ですのでこう設定しなおして回答を作りました。そこが書類の定型と少し外れるのでわかりにくいんです」


「今までこういったものは課長代理に御願いしていたんです。ミアさんがいてくれて助かります」


 いや、私の知識なんて所詮付け焼き刃程度。

 和樹さんに1日教えて貰っただけだし。


 本当はここに和樹さんかちひさんを招いて一日講師でもして貰えばミナさんも出来るようになるのだろう。

 和樹さんもちひさんも役所勤めはもういいと言っているので頼めないけれども。


 軽く頭を下げて、そして。


「それでは昼食に行ってまいります」


 そうミナさんに告げる。

 ちらっと横目で見るとレアさん達が立ち上がったのが見えた。

 いつも通りだ。


 それにしても3人とも毎回勤務シフトの日が私と同じような気がする。

 曜日を変更したのだろうか。

 そのあたり微妙に気になる。

 けれど何かまずい理由があるかもしれないのでとりあえずは聞かない。


 そうだ、そう言えば先に言っておく事があった。


「昨日はお店の調べ方を教えていただきありがとうございました。早速、家族と一緒に行ってきました。とっても良かったです」


「何だ、家族と行ったんだ。てっきりグラハムさんと密会かと思ったのに」


 実はその為の先行偵察だなんて事は当然言ってはいけない。

 それにここで表情を変えてはいけない。

 努めて表情も口調もいつも通りを意識する。


「ええ。たまには外で食べようと思って」


「うーん、怪しいなあ。家族とならわざわざお店を探すなんて必要はないよね」


「本当にここの事はほとんど知らないもので」


 嘘では無い。

 微妙に本当でもないけれど。


「何処の店に行ったか、聞いていいですか?」


 これはカイアさんだ。

 店の名前は言ってもいいだろう。

 実際に家族で行ったのだし。


「アスクライテというお店です。明るくて料理も美味しくていいお店でした」


「えっ!」


 何故かリアさんがそんな驚いたような声を出す。

 見るとレアさんも似たような表情。

 カイアさんは苦笑という感じだ。


「どうかしたのでしょうか?」


「アスクライテへ家族で行ったの? 家族って何人だっけ?」


「4人です。大人3人と子供1人で」


「やっぱりミアさんの家、違うなあ」


 レアさんの台詞、どういう意味だろう。


 そんな私の疑問がわかったのだろう。

 カイアさんが苦笑という表情のまま教えてくれる。


「あの辺でもアスクライテとか、あとヘイゼラールあたりは高級店なんです。確かに美味しいですけれど、相手が1人でここぞという時以外、普通は使わないですね。


 家族や仲間と行くならもうすこし南にある、ブラッスリーならワルトナイヨかミルクラス、パーラーならルアセリアあたりです。アスクライテより3割くらい安いですから。雰囲気や味は少し落ちますけれど」


 なるほど、そういう事か。

 

「すみません。そのあたりの感覚が今ひとつわかっていないので」


 ただグラハムさんと行く店の選択としては間違っていなかったようだ、そう私は判断する。

 ヘイゼラールと同じくらいの店だというならば。


「アスクライテで4人だと相当高くつかなかった?」


 注文をしに行ったのは私なので値段は覚えている。

 最初の1回と、追加注文で合計はおおよそ……


正銀貨1枚1万円くらいだったと思います。4人あわせて」


「うわ、やっぱり結構する」


 なるほど、このくらいかかるお店は高級店の範囲という訳なのか。

 そしてグラハムさんは前回、そういう店を選択したと。

 なかなか参考になった。

 でも言い訳も一応しておこう。


「まだヒラリアの物価というのがよく分かっていないのです。高いかどうかも分かっていませんでした」

 

「何と言うかそういうところ、ミアさんには勝てない気がするなあ」


 うーむ、レアさんの今の台詞、どういう意味なのだろう。

 でも本当にわからないのだから仕方ない。

 金銭感覚そのものがよくわかっていないし。


 なんて考えて、そして気付いた。

 ひょっとしたらさっきの私の台詞、金持ちっぽく嫌味に聞こえたかもしれないなと。

 

 でも元々の私は金持ちではなく貧乏の、それもかなり悲惨な側。

 普通っぽい生活をはじめたのは和樹さんに助けてもらってからだ。

 ただその辺まで言うのもどうかと思う。

 

 返答に困っていたところで。


「ミアさん、こっち空いてますよ、四人分」


 お馴染みの声がした。

 勿論グラハムさんだ。

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