第19話 無事、帰宅

「ヒラリアにもやはり差別問題があります。これは人種問題や社会階層の固定化とも絡んでくるから解決が難しい。政府でも何とかしようしているのですが、うまくいっていないのが現状です」


 人種問題か、初めて聞いた気がする。

 知識魔法で調べてもいい。

 しかしここはあえてグラハムさんの意見を聞いてみたい気もする。


 少し考えて聞いてみる事にした。


「人種問題というのは初耳です」


 これだけ言えばグラハムさんが教えてくれるだろう。

 そう思ってそこで言葉をとめておく。


「ええ。これは移民とも絡む話になります。数年程前から他の惑星から来る移民の出身地域が変わったようなのです。


 これまでにも移民の出身地域は数年から数十年程度で変わりました。移民を仲介している組織がそうする理由は不明です。ただ人が少なく開拓が進まないのに人口は減少している我々としては受け入れざるを得ない。

 結果として移民して来た時期ごとに出身が異なる状態になった訳です。


 そして新しい移民が来ると、今までの住民の中で『労働力として魅力的でない者』の一部は職を失う、もしくはより条件の悪い職につかざるを得なくなります。


 そうなると必然的に新しい移民全般に反感を持つ者が出る。基本的な構造は単純です。実際はこれに新しい移民の生活習慣や宗教等も関わってより複雑になるのですけれども」


 なるほど、概ね構造はわかった。

 あとは知識魔法で調べてみればそれなりの事がわかるだろう。


「さて、もう少し元の世界の話を聞きたかったのですが、そろそろ約束の時間です」


 壁にかかっている時計を見る。

 確かに午後4時を回ろうとしていた。

 料理もほぼ食べ終わったし頃合いだろう。

 ただそれはそれでグラハムさんに申し訳なかったりもする。


「すみません。話と言っても私から聞いてばかりで」


「いえ、私の方も色々お聞きしましたし、なかなか有意義でした。

 ですがもし宜しければ本日の続きをまたどこかでお願いしてもいいですか。ミアさんの都合のいい日時で結構ですから」


 どうしようかな、少しだけ考える。

 ただ私にとっても今日のこの時間は有意義だった。

 本や試験勉強ではわからないこの国を知る手がかりをいくつか知る事ができたように思う。

 それにこういったお店について知る事が出来たのも良かったし。


 ただ今回は完全にグラハムさんのご馳走になってしまった。

 だからもし次回があるなら今度は私の番だろう。


「ええ。それでは今度は私がお店を探します。日時はもし宜しければ来週の1の曜日、同じ時間でどうでしょうか」


 1週間あればお店探しくらいは出来るだろう。

 最近時々話す、お昼を一緒に食べている女の子達に聞いてもいい。

 何なら和樹さんやちひさん、結愛と一緒に偵察に行くのもありだ。

 1日くらいは夕食に外食というのも悪くない。


 それにこういった場合、案内した方が基本的に払うらしい。

 借りを作ったままにしておきたくない。


「私の方は勿論大丈夫です」


「それでは宜しくお願いします」


「こちらこそ。それでは途中まで送りましょう」


 いや、それはまずい。

 そろそろ会計課の皆さんはお帰りの時間だろう。

 グラハムさんと私用で一緒に居るところを見られると面倒な事になりそうだ。


「大丈夫です。ここは役所も近いですし、念のため魔法で周囲を常時警戒していますから」


「確かにミアさんなら魔法も自在に使えそうですし、問題はありませんね」


 あっさり諦めてくれた。

 正直ほっとする。


 さて、帰るとするか。

 わかりやすい道で来たので帰り道はわかっている。

 近道もできそうだけれど安全対策で太い道で。


 なおグラハムさんは反対方向へ歩いて行った。

 あちらにおそらく家があるのだろう。


 落ち着いた住宅街を歩いて行くと割とすぐ結愛が通う学校の近くに出た。

 今の店の場所もこれで確実にわかった。


 案外美味しかったし今度また来てもいいかな。

 子供は……知識魔法によると夜7時くらいまでなら連れてきても大丈夫。

 なら一度、皆で食べに来てもいいかもしれない。

 その前に次にグラハムさんと来る店を探さなければならないけれど。


 割とあっさり家に到着。


「ただいま帰りました」


「おかえりなさい!」


「おかえり。お仕事おつかれさま」


 結愛と和樹さんが迎えてくれる。

 という事は。


「ちひさんはまだ作業中ですか」


「ああ。もう少しかかると言っていた」


 1の曜日のちひさんは概ね忙しい。

 昨日までに捕ってきた魚を分別してさばいたり、それらを使って加工品をつくったりするから。

 

 和樹さんの方は曜日を特に決めず、ちひさんや私が忙しくなさそうな時を見計らって作っている感じ。

『僕の商品は材料を買ってあればいつでも作れるからさ』

という事である。


 そういえば今日は結構売り上げがあったんだよなと思い出した。

 商品の補充も結構したから報告しておこう。


「そういえば今朝、これだけ商品を補充しました。週末で結構売れたみたいです。こちらが本日の入金票」


 メッセージボックスに入っていたメモとグラハムさんに渡された入金票を渡す。

 口で説明するよりこの方が正確だし早い。


「どれどれ。おっと、僕の方も全滅か。わかった、明日には作っておくよ。あと美愛の漬物もちひの方も結構売れたみたいだな」


「ええ」


 そう返答しながら今日の帰りが遅くなった理由を言おうかどうか迷う。

 しかし和樹さん、グラハムさんを苦手としているからどうしようか。


 少しだけ考えて言わないことにした。

 特に問題になるような事もしていないし、遅くなった理由も聞かれていない。

 だから問題はないだろう。


「それじゃ夕食を作りますね。何か食べたいものはありますか?」


「エビ! 揚げたの!」


 結愛からリクエストが来た。

 エビフライは結愛の好物。

 昨日捕って分別しそこねた物や大きさ・形がいまひとつだったものが結構残っている。

 それを使えばちょうどいい。


「和樹さんは何かありますか?」


「特に。それに美愛が作ってくれるものは美味しいからさ、何でも」


 こういった一言で機嫌が良くなってしまう私って、割とちょろいなと思ったりする。

 でも本当に気分が良くなるから仕方ない。


「わかりました。それではせっかくですから昨日までに捕ったもので作りますね」


「手伝う!」


「それじゃ結愛もお願いね」


 2人でキッチン方向へ向かう。 

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