第18話 難しい話題
少し考えて正直に話すことにした。
言わないという選択肢も当然ある。
しかしグラハムさんの、この世界なりの意見を聞いてみたいとも思ったから。
「私と結愛だけは姉妹で向こうの世界でも家族でした。けれど和樹さんやちひさんはそれぞれ別なんです。
和樹さんとちひさんは向こうの世界でも知り合いだったそうです。ですが私や結愛が和樹さんやちひさんと知り合ったのはこちらに来てからになります」
「そうでしたか。チヒロさんは最初別に来ていましたのでその可能性があると思っていました。しかしミアさんとカズキさんが元々家族ではなかったとは思いませんでした」
あとグラハムさんの元の質問にも一応答えておこう。
「あと、和樹さんもちひさんも、それぞれ別の場所ではありますけれど役所につとめていたと聞いています。知り合いだったのはそれ以前、大学という名前の教育機関時代だそうです」
「そういえば先程も大学という言葉が出てきましたね。それはどのような教育機関なんですか?
ヒラリアでは義務教育学校より上に高等教育学校や専門教育学校があります。しかしそこまで進む人は1割もいません。そのうち高等教育学校に入れるのは100人に2~3人程度でしょう。それと同じようなものなのでしょうか?」
知識魔法でヒラリアの教育制度を確認してみる。
どうやらほとんどの人は義務教育学校卒のようだ。
それ以上はグラハムさんの言うとおり一般的では無い模様。
そして義務教育学校の卒業成績は全国共通の試験において出される。
だからヒラリアにおける学歴とは、一般には義務教育学校の卒業成績の優劣の事らしい。
この違いをどう説明しようか……難しい。
「大学の本来の位置づけは、普通より更に高度な知識を得るための教育機関です。ですが日本、私がいた国の大学はそれぞれ難易度も違っていて、高度な教育機関にふさわしいものからそうでないものまでありました。ですので学歴は成績だけではなく、どの大学を出たかを見るなんて事になっていました」
「それでは進学する意味がないような大学も存在するのですか?」
これも難しい質問だ。
それに大体、私は中卒なのだ。
大学なんてものには詳しくはない。
「世間ではそう見られているような大学もあります。ですが研究のすそ野を広げるという意味でも、研究者の雇用先を増やすという意味でも、全く意味がないという訳ではないと思います。これ以上は私も詳しくないのでうまく説明できないのですけれど」
「なるほど。つまりそう言った無駄に見える事にもそれなりに理由がある。そしてそう言った無駄に見える事に人材や資金を投入できる余裕があるという事ですね」
日本にいた頃の私では思いつかない言葉が出て来た。
「余裕と見るんですね」
「社会全体としてそれを許せる程度には余裕があるという事です。違いますか」
なるほど。
「言われてみると確かにそうかもしれないです」
「ええ。この国ではそこまで教育に人と費用をかける事はできません。生産力人口は貴重です。ですので出来るだけ活用しないと経済が立ち行かなくなります」
予想外の話になって来たな、そう思う。
「経済が立ち行かない、ですか」
グラハムさんは頷いた。
「ええ。この国をはじめ惑星オースのほとんどの国では放置しておくと人口は少しずつ減少してしまいます。ですから正体不明な組織を相手にしてでも移民を受け入れる訳です。
そのミアさん達がいた日本という国もそういった人口の問題は無かったでしょうか。移民を出しているようですから何か人口が増える方法があるのでしょうか?」
これまた難しい質問が出て来た。
「向こうの世界、地球全体では人口は増えています。ですが私のいた日本では人口は減り始めていました」
必死に社会科で習った事やネットで読んだ記事等を頭の中でまとめる。
「一般に、
○ 医療水準が進み、子供が死ななくなる
○ 老人になっても安心して暮らせるような制度が充実する
○ 社会に使われている知識が高度化・専門化する
これらの要素が重なると人口は減少傾向になっていくと言われていました。
老人になって安心して暮らせるような制度が無ければ子供に頼るしかない。子供のうちに多く死ぬような環境では念の為多めに子供を産んでおく必要がある。
そういった理由から生活が厳しい環境ほど子供を多く産むと言われていました。
ところが老人になっても安心して暮らせるようになり、医療が機能して子供が死ななくなると子供を増やす必要はなくなります。
更に社会に使われている知識が高度化・専門化すると教育に時間と費用がかかる事になります。そうなると子供を何人も持つ負担も増える訳です。
これらの要因で日本をはじめとした先進国では人口が減少傾向にある。そう言われていました」
本当は更に細かい話もある。
しかしあまり話を複雑にすると説明も理解も面倒だ。
だから今はこのくらいで。
でも一応注意はしておこう。
「勿論これは私が説明できる範囲での話です。和樹さんやちひさんならもっと詳しい話が出来ると思います」
「いえ、充分です。ただそれではそのうち社会が立ちいかなくなりますよね。何か人口を増やそうとする方法は無いのでしょうか。例えばヒラリアをはじめ惑星オースで行われているような移民とか」
移民か、結構難しい問題だな、これは。
「確かに日本のある惑星、地球には人口が増えている場所もあります。ですが移民で人口を増やそうという意見は一般にあまり歓迎されていません。
移民は今まで身に着けた常識や生活習慣がそれまでの住民と異なります。ですので移民を受け入れる側の社会に摩擦が生じやすい。
移民が移住先に馴染もうとせず、今までの慣習や常識を押し通そうとすれば余計にそういった問題は起こるでしょう。今までの生活環境を壊される訳ですから問題が出ない方がおかしいです。
勿論移民のせいだけではありません。今までの住民の方に問題がある場合もあります。
例えば移民が増えた場合、今まであった仕事が移民に奪われるという事も起こるでしょう。そういった場合、仕事を奪われた側からは当然不満が出てきます。
更にそういった人達ほど自分達の自意識を守るために差別的な考えをする傾向にあります。移住しなければならない人間など格が低い。元々この土地にいる自分達の方が身分は上だ。そんな感じで。
ですので出来る限り国内に元からいた人で人口を増やすような政策を行おうとはしています。ですがあまりうまく行っていないのが現状です」
このあたりの説明も難しい。
正直正しいかどうかは自信がない。
本当、和樹さんかちひさんに任せたいところだと思う。
「なるほど、ヒラリアと同じですね」
グラハムさんはそう言って頷いた。
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