第59話 操船も慣れた
翌朝、いつもの第6曜日と同様にエビを収穫した後。
「僕はこの後、空になった池を新しい排水池まで延長する工事をするからさ。3人で向こうの海岸に行ってきてくれないか」
「誰か手伝わなくて大丈夫ですか?」
ちひさんの言葉に和樹さんは頷く。
「ああ。美愛のおかげでほとんどの工事は終わったからさ。これは1人で大丈夫だ」
「わかりました。それじゃ3人で定置網作業をしてきますね」
「ああ。こっちはすぐ終わると思うから、養殖池で取れたエビの仕分け作業もある程度までやっておくよ」
確かに仕分け作業がある程度出来ていると後が楽だ。
何せ仕分け作業、かなり魔力を使う。
早めにやっておけば時間経過である程度魔力の回復を見込める分、多めに作業が可能だ。
「助かります。それじゃ分別用の樽を出しておきますね。
あと向こうの海岸へ行くの、近場ですし、小さい方の船で行こうと思うんです」
「わかった。じゃあ出そうか」
「大きい方の船と交換しておきましょう。いざという時に先輩の方にも足があった方がいいですから」
「確かにそうだな。それじゃ作業場で樽を収納した後、砂浜で船を交換しよう」
小さい方の船は昨日和樹さんと私が使って、和樹さんのアイテムボックスに入っている。
まずは作業場へ移動。
「樽は10個出しておきます。分類はもう紙に書いて貼ってありますから、それでお願いします」
「わかった」
和樹さんとちひさんのアイテムボックス容量はとんでもない。
いつ見てもそう思う。
何せこれらの樽の他、船だの捕った魚やエビだの、仕込み終わった商品だのがごっそり入っているのだ。
ただこのアイテムボックス魔法を真似する事は諦めた。
何と言うか背後の理論が難しすぎて。
だからまあ、別の方面で役に立つしかない。
「それじゃ外で船を交換して、そのまま出発しましょう」
こっちなら手伝えるな。
そう思ったので砂浜で船を出した後、ちひさんに声をかけてみた。
「操縦は私がします。集中的にやって覚えておきたいんです」
「お願いしていいですか」
「はい」
そんな訳で今回も私の操縦でちひさんの海岸へ。
操縦してみると船が今までより軽く、思い通りに動くように感じた。
波を防ぐために意識する海水の範囲を、ことさら意識しなくても指定できるようになっている。
昨日長距離を操縦してみたから慣れたのかな。
「美愛ちゃんに操縦して貰うと助かりますね、本当に」
「もっと早く練習しておけば良かったですね」
「前は練習の機会が無かっただけですよ。船が一艘だけでしたから」
「結愛も練習する!」
「なら魚を捕った後、少しやってみましょうか」
「うん!」
大丈夫かな、少し心配になる。
でもちひさんがそう言うなら大丈夫だという自信があるのだろう。
なら止めずに見守りつつ、何かあった際にすぐ対応出来るように考えておくのがきっと正解。
私の出番は多分無いし、その方がいいのだけれど。
「ところで養殖池の工事、今朝見ましたけれど確かにほとんど終わっていましたね。かなり広い範囲を工事したから大変だったと思うんですけれど、どんな感じでやったんですか?」
確かに朝、エビ収穫の時に見た時、随分広い部分に手を加えたなと改めて感じた。
それまでに作ったエビ養殖池や水路等の場所全部を合わせた面積の半分くらいの面積を一気にやったから。
「最初に工事予定場所全体の木や草を一気に伐採したんです。和樹さんのいつもの数式で範囲を指定する魔法で。
その後、私が伐採した草木を集めて燃やして、和樹さんが数式指定の魔法で池や水路を掘って。
防水処理や舗装処理で土の壁部分を乾燥させて焼く作業は2人でやりました」
「なるほど……」
ちひさんは頷いて、そして続ける。
「それじゃ美愛ちゃん大変だったでしょう」
「そうでもないです。最初に工事範囲の草木を全部伐採したので全体を見て把握することが出来ましたから。
大変な部分はほぼ全部和樹さんです。見えない範囲を含む広範囲を一気に指定して草木を伐採したり穴を掘ったりする魔法。
あの魔法って使えれば間違いなく便利だと思うのですけれど、ちひさんも使えるんですか?」
ちひさんはふっと溜め息をついて首を横に振った。
「あれは先輩だから出来るだけだと思いますよ。使っている式だって単純な一次や二次の式じゃなくて、見ただけでは理解不能な微分方程式を使っているようですから」
やっぱりそうなのかと納得する。
普通の式では表現出来なそうな形の段差付きの池を1回の魔法で作ったりしていたし。
「これでエビ、いっぱい取れるようになるかな」
「そうですね。今までより樽1個分は多く取れるようになるんじゃないでしょうか」
「楽しみ!」
もうちひさんの海岸が見える。
和樹さんの海岸からちひさんの海岸までは、小さな岬をぐるっと回るだけ。
10分程度あれば余裕の距離だから。
「ついたら川の下流側の網からやりますよ。今回は時間節約で、魚がいたら冷却魔法をかけて動きを鈍らせて捕まえます。
結愛ちゃん、この前も練習したから大丈夫だよね」
「大丈夫! 冷たくする魔法は学校でもやった!」
そういえばヒラリアの学校は魔法も教えているのだった。
一応結愛の教科書はひととおり目を通している。
1年生の魔法だと照明や温度の上げ下げ等の基礎的な魔法と、知識魔法の使い方の初歩だったかな。
「それじゃ浜の右側に近い方につけてください。その方が楽ですから」
「わかりました」
岩が無い部分を選んで船を近づける。
場所さえ間違えなければ下は泥っぽい砂なので底がついてもほとんど傷まない。
船底が軽くついて動かなくなったところで停止。
「いちばん!」
真っ先に結愛が降りて、そのまま川の方へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます