第3章 職場と知人と

第13話 今日も御仕事

 今日は和樹さんもちひさんも作業場で御仕事。

 分別しきれなかった魚を仕分けたり、魚を加工したりするそうだ。

 だから私は昨日仕分けしたエビの樽も持って、出勤前に公設市場の食品部へ。


 まずは事務所横に並んでいるメッセージボックスの512番を確認。

 やはりメモが入っていた。


『エビが入りましたら、出来るだけ速く入荷を御願い致します』


 他に醤油や味噌、甜麺醤、干物やさつま揚げ等も補充要請がある。

 どうやら第5曜日と6曜日に結構売れた模様。

 勿論用意はしてあるので問題は無い。


 事務所に入るとやっぱり私が探すより早く声がかかった。


「ミアさん、今日もありがとうございます。第3商談室を使いましょう」


 いつも通り委託・補充開始だ。


「ところで今日も会計の方で御仕事ですか?」


「ええ。今日は10時から15時までの予定です」


 黒はんぺんは30個追加、次はチーかま80本……

 そう補充しながら機械的に返答する。


「なら良ければですが、終わったら少しお話ししませんか。実はどうやってこういう商品を考えて作っているか、ちょっと伺いたいと思うので」


「作っているのは主に和樹さんとちひさんですから、私では大した事は答えられないですけれど」


「それでも結構です。皆さんが此処へ来るまでに住んでいた場所がどんな場所だったのか、そんな話を聞きたいだけですから」


 ちょっと考える。

 今日はちひさんも和樹さんも家にいる。

 だから私より先に結愛が帰ってきても問題は無い。


 夕食も5曜日や6曜日分に作ったものが自在袋に余っている。

 だから夕方5時くらいに帰れば大丈夫だろう。


 それにちひさんから、職場の人と一杯程度やってきてもいいよと言われている。

 ヘラスは安全だから心配していないよとも。

 だから夕方5時程度まではいいだろう。


「1時間くらいでしたら大丈夫です」


「ありがとうございます。それでは夕方、お待ちしています。待ち合わせは3時過ぎ、ここ食品棟の入口でいいでしょうか?」


 会計の入口よりはこっちの方がいいだろう。

 前にミナさんから注意された件もあるし。


「わかりました」


「ありがとうございます。それにしてもこのエビ、いいですね。他で入ってくるものは量も大きさも不揃いなので。これもそのうち3日くらいで無くなるようになるのでしょうね」


 でもこれは規模を大きくするのは難しい。


「増産は難しいです。週末の天候が悪くない限り1週につきこの量、そこまでだと思います」


「生物ですから仕方ないですね。それでは今回の補充と委託、ありがとうございました」


 任務無事終了だ。

 それでは買い物しながら時間を潰して、会計に10時ちょうどに入れるようにしよう。

 買い物の他にお金をおろすのもやっておいた方がいいかな。

 そんな事を思いながら事務所を出る。


 ◇◇◇


 今日の御仕事は検定を利用した比較がほとんどだった。

 和樹さんがχ²検定とかKS検定とか言っていたものだ。


「ミアさんがこれをやってくれるので助かります。正直なところ私も苦手で」


 私はみっちり和樹さんに習ったから概ね理解出来る。

 計算方法も書類に記載がある順にやっていけばいいので問題無い。

 実際は標準偏差を求める関数ならぬ魔法なんてのも作ってあるから、余計に簡単だ。


 しかしそうなると少しばかり疑問も出てくる。


「それではこの書類の元になる計算方法入りの雛形は何処で作っているんですか?」


 誰がこの場合にこの計算方法を使うと決めているのだろう。

 計算式についてもそうだ。


 会計課は公設市場における複雑な計算のほとんどを担っている。

 しかしここの主任であるミナさんがこの手の計算が苦手となると、誰が雛形だの場合分けだのをしているのかがわからない。

 また別の専門部署か何かがあるのだろうか。


「この雛形そのものは産業技術院で出している定型です。その定型書類例にどんな場合について当てはまるかが記載してありますから、それを見比べながら元の数値を表にして、ここへ送ってくるんですよ。

 一応書いてある通りに計算すれば出来るのですけれど、意味がわからないと書類として作りにくいですよね。そこでいつも悩んでいたんです」


 なるほど、公設市場ではそういった既存の定型様式にあてはめているだけなのか。

 和樹さんあたりなら定型様式無しでも出来そうだな。

 そんな事を思ってしまう。

 表からどんな計算方法が必要か、自分で考えて。


 和樹さんならもっといい方法なんてのも知っているかもしれない。

 何せ和樹さんに1日教わっただけの私でもこれだけ出来るのだから。


「そんな訳でしばらく検定や標本関係はミアさんに御願いしていいですか。この課内でも得意としている人はほとんどいないので」


「私もあまり難しいのは無理ですけれど、今の書類程度なら」


「本当に助かります」


 うんうん、自分の担当というか受け持ちが出来ると楽でいい。

 単純計算の表よりもこの方が意味が読み取れて面白いし。

 今度和樹さんにもう少し統計や検定について教わってもいいかな。

 でもそれはちひさんに悪いかな。


 そんな感じで気分良く書類を2枚仕上げて、お昼御飯。

 今日はミナさんはまだ作業中なので1人で行こうかな、そう思った時だった。


「あ、お昼行くなら一緒に行こう」


 課内の別の係の女子3人から誘われた。

 見た感じでは3人とも私と同じくらいの年齢だ。

 自己紹介とかしていないので名札に書いてある名前しか知らないけれど。


 私としては1人で食べる方が気楽でいい。

 しかしここは断らない方がいいだろうと判断する。

 少なくとも地球の、日本的処世術では断らないのが正解。

 だから私はこう返答する。


「それじゃ宜しくお願いします」


 同じ職場内なのだ。

 ある程度職場内でも仲良くなっておいたほうがいいだろう。

 それに私に足りないのはこのヒラリアでの一般的な知識や常識。

 彼女達と会話すればある程度その辺についても理解出来るかもしれない。


「A棟の食堂でいいよね」


「ミアさんは持ち込み? 食堂のメニュー?」


「持ち込みです」


 弁当の事をここでは持ち込みという表現で示す。

 弁当箱ではなく普通に家から持ってきた皿に入れているし。


 アイテムボックスがあるからこれでこぼれたりする事は無い。

 だから持ち込みという表現は正しいなと感じる。


「そっか、家で作っているの? テイクアウト?」


「自作です。家での料理は私が担当なので」


「すご! 私は面倒だからテイクアウトだよ」


「確かにテイクアウトの方が楽だよね。食堂で買うと並ぶしねえ」


「そうそう、食堂混んでいるし」


 そんな話をしながらこの前行ったのと同じ食堂へ。

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