第12話 第6曜日の日課

 翌朝は4時50分に起床。

 着替えて御飯を食べ、まだ明け切っていない空の下を全員でエビ養殖池へ。


 ちひさんが今回収穫する池の排水路側に布袋を固定する。

 布と言ってもかなり目が粗いので問題は無い。

 砂や泥くらいなら目から抜ける。

 藻は何本かたてている杭で止まって排水溝まで来にくい仕組みになっているし。


「こっちの袋はセット終わりましたよ」


「わかった。こっちはOKだ。それじゃ美愛、頼む」


 和樹さんは杭にひっかかった藻を大きなたも網で取り除く作業。

 これは藻が袋の目を塞いだり、藻にエビがひっかかって袋まで流れなくなったりするのを防ぐ為。

 なお取り除いた藻には往々にして小エビがついている。

 だから取り除いた藻は一度バケツに入れ、結愛が確認。


「それじゃ流します」


 私は池をせき止めている堰部分の丸太に手を触れ、最上部の1本とその横のもう1本を収納する。

 池の水が流れはじめた。

 水は排水口を通り袋を膨らませながら通り抜け、水路を通り海へと流れていく。


 最初のうちは水だけが動き、魚やエビはあまり動かない。

 ただ浮いている藻が溜まると後が面倒なので、和樹さんがたも網で掬ってはバケツに入れている。


 水の勢いが緩くなってきた。

 そろそろかな。


「2回目外していいですか」


「こっちはまだ大丈夫よ」


「わかりました」


 池をせき止めている丸太は全部で10本。

 2列、互い違いになるように組んである。

 これを2本ずつ計5回外すと池が干上がる訳だ。


 なおちひさんに聞くのは袋を替えるタイミングがあるから。

 前回は3回目の前、4回目の前、5回目の前と3回袋を取り替えた。

 今回はどうだろう。


「それじゃ2回目、外します」


 私がまた丸太を2本取り除いた。

 水がまた勢いを増して流れ出す。


 ◇◇◇


 今回も4袋、ほぼ満タン状態に獲物が入った。

 獲物入りの袋は海水入りの樽にそのまま入れ、氷温状態にして中に入った生物を仮死状態にしてから樽ごと和樹さんとちひさんが収納する。

 仮死状態にしないとアイテムボックスに収納する際に魔力が大幅に減るから。


「今回の収穫はどれくらいだろう」


「前回とほぼ変わらない感じですね」


 水を出し終わっても作業はある。


 外した丸太を出して組み直すとか、取り除いた藻を戻すとか、排水溝と反対側に藻の栄養代わりの醤油粕を少し撒いておくとか。


 せき止めに使っている丸太は比較的重くて組んだ状態では浮き上がらない。

 組んだ後両面に泥を塗っておけば、満潮時に隙間に泥が詰まって水が抜けないようになる。

 でも一応出来るだけ隙間が出来ないよう、しっかりきっちり組み直してと。


「それじゃすぐ次行きますよ」


 この後、ちひさんの海岸に行って定置網にかかった魚を捕る作業もある。

 干潮のうちでないと出来ないからなかなか忙しい。


 ◇◇◇


 ちひさんの海岸で昨日と同じように定置網で魚を捕り、今度は網をしかけずにこの海岸に戻ってくる。


 お風呂で汚れを流して、そしてお昼御飯。

 お昼御飯が終わったらこの家の作業場で魚やエビの仕分け。

 定置網3箇所×2回分と、エビ養殖池分両方をやるので量は多い。


 洗浄・選別作業はもちろんオリジナル魔法。

 手作業でやったら明日までかかっても終わらないだろうから。


 まずはちひさんが出した樽に分類を書いて貼る。

 今回は12種類だ。

  ○ プラワナ 大/中/小(樽3つに大きさで分けて入れる)

  ○ デラドウ 大/中/小(樽3つに大きさで分けて入れる)

  ○ ゴヌール 中

  ○ レジペイド 中

  ○ ノータス・アメラ・トリアキス(まとめて1つの樽)

  ○ サイパ・ゴヌール小・レジペイド小(まとめて1つの樽)

  ○ シプリン

  ○ その他魚類


 これ以外に捕ってきた魚やエビが入った樽が10個あるので、作業場は樽だらけ。


 この作業、魔力と時間がそれなりにかかる。

 だから出来るだけこちらの家でやって、残りをヘラスの家でやる。

 ヘラスの家に帰るまでの時間で私ともう1人分の魔力を回復できるから。


「それじゃやるか。いつも通りエビ養殖池の樽からでいいか。明日、怖いお兄さんが待ってるから」


 私とちひさんは苦笑する。

 この場合の怖いお兄さんとは勿論グラハムさんだ。

 和樹さんは何故かグラハムさんを苦手としている。

 親切だし悪い人ではないと思うのだけれども。 


「そうですね。美愛ちゃんもそれでいい」


「はい、大丈夫です」


 そんな訳で私はまずはエビ養殖池の1回目分の樽を選ぶ。


『洗浄・選別魔法!』


 この魔法はやることが多いので結構魔力を使う。

 大雑把にまとめると➀ 洗ってぬめりを取って、② 書いてある種別のどれかを選択して、③ アイテムボックス経由で目的の樽へ移動させるという3工程。


 作業している樽の中身が減っていくのと比例して魔力も減っていく。

 ただこの減り方だと樽3個分は大丈夫かな。

 私ができるだけ作業をすれば、和樹さんやちひさんの負担がその分減る。


 樽その1終了。

 次の樽、貼ってあるメモには『エビ3』

 エビ養殖池、3回目の網分という意味だ。


『洗浄・選別魔法!』


 今度は先程より魔力の減りが早い。

 最初の樽と比べて、多くの種類が混じっているようだ。

 それでも何とか魔力3割程度は残して終了。


 さて、もうエビ養殖池分の樽は残っていない。


「次はどの樽を仕分けますか?」


「それじゃ川朝2と書いてある奴、お願いしていいかな。割とエビが紛れ込んでいるから」


「わかりました」


 川朝2という事は、川に仕掛けてある定置網の下流側で、今朝引き上げた分だ。

 エビは夜行性で、かつ汽水域の泥底の場所を好む。

 だからこの網にもそれなりに入っている訳だ。

 網の目がやや大きいので中・大型だけだけれども。


「定置網のエビ分までやって貰えると助かるな」


「私もそろそろ限界。ごめんね、美愛ちゃん。余分にお願いして」


「大丈夫です。それにちひさんや和樹さんは帰りの船の分がありますから」


 魔力そのものの量は私、ちひさん、和樹さんの3人はそれほど変わらない。

 ただ出来る事は私より2人の方が遙かに上。

 船を動かすのもいまのところ2人のどちらか。

 知識量や思考力の差という事なのだろう。 


 しかし出来ない事を今悩んでも仕方ない。

 まずは出来る事をやらないと。 


 何とか3つめの樽、分類完了。

 ただ予想通り魔力はぎりぎりだ。


「ありがとう。それじゃ美愛ちゃんはちょっと休んで。結愛ちゃんおまちどおさま。それじゃ池の確認がてら水路のエビ取りと潮干狩り、行ってきます」


「行ってきます!!」


 結愛がたも網やバケツをかかえてちひさんの後を追いかけていく。

 最近は結愛も少しだけれどアイテムボックス魔法も使える。

 そしてどうやら中に熊手や釣り道具を入れているようだ。


 さて、私は魔力が限界で少し疲れた。


「それじゃ少し昼寝をしてきます」


「わかった」


 一眠りしたら夕方。

 家を戸締まりして、船を出して。

 帰りは潮流と同じ方向だから行きより少し速い。

 概ね19時半くらいにはヘラスの家に着く予定だ。

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