第14話 今度は予想内?
そうだった。
早めの時間、食堂は混んでいるのだった。
そしてこのパターンにはおぼえがある。
今日一緒なのはミナさんではないし、まずいかも……
往々にしてそういった予想は大体当たってしまうのだ。
「ミアさん、こっち空いてますよ、四人分」
あの人は他人を見つけるのが早い。
そう、勿論グラハムさんの事だ。
よりにもよってと思ったがこの状況で無視は出来ない。
一礼してそちらに向かう。
「えっ、ミアさん、知り合い?」
リアさんに気づかれた。
仕方ない。
「ええ、うちの家が食品部と取り引きしていますから」
そう説明しつつ、グラハムさんの方へ。
グラハムさんの横に2席、前に2席空いていた。
私はグラハムさんの前側に座る。
一緒に来たうちレアさんが私の横、グラハムさんの横がカイアさん、さらにその横にリアさん。
名前は今、名札を見て確認した。
何せ今日まで話した事が無かったから。
「ミアさん、今日は何か面白い物を作ってきていませんか」
グラハムさん、私のお皿の方を見ている。
「昨日は別の作業をしていたので今日は試作品は無いです」
「そういえばエビの入荷、ありがとうございました。早速3割ほどが売れました。やはり大きさが揃ったものが数あるといいですね。店なども使えますから」
「ミアさんの家って大きい商家なのですか?」
レアさんの質問にどう答えようか一瞬迷う。
「昨年ヒラリアに来た移民です。海産物と加工品を中心に家で作っています」
「えっ、移民なの?」
リアさんが意外そうな顔をする。
「ええ。そうですけれど」
何が意外なのだろう。
「なら特採……って事はないよね。会計は特採しないから。でも昨年来たなら学校も行っていないよね。なら、まさか代認1級の方?」
特採とは特別採用、学力基準に満たない人を職員として採用する事だ。
けれど代認とは……知識魔法で調べた結果、教育代行認定の略の模様。
しかしそれが何故『まさか』なのだろう。
分からないけれど一応返答しておこう。
「ええ、つい最近取ったばかりですけれど」
「あれって優卒より難しいよね」
優卒……義務教育学校を成績優で卒業する事か。
こういった略語は使う機会が無いのでこうやって聞くまでわからない。
ただ知識魔法によると代認も優卒も公務員等では一般的に使われる略語のようだ。
事務系公務員等の試験資格として一般的だかららしい。
更に知識魔法でリアさんの言葉の意味の背後を確認する。
どうやら移民は『以前住んでいた場所で能力が足りず失敗して逃げて来た人達』というイメージがあるらしい。
だから移民と聞くと能力がない、知識が劣っているという感覚があるようだ。
ホワイトカラー層に限らずヒラリアで住んでいる人一般の認識として。
「ミアさんの家は一般的な移民と違いますよ。4人中3人が代認1級を持っていますから。残り1名は義務教育学校に入ったばかりという年齢です。
食品部としても大口の取引相手です。実質3人でやっているのに大規模仕入れ先扱いですから」
教育代行認定の話はちひさん経由の情報だろう。
和樹さんは余分な話はしなそうだし、そもそもグラハムさんを苦手としているし。
「それなら働く必要無いんじゃ」
「お金の面を考えたら働く必要はないと思いますよ、ミアさんは。家にいると社会の事がわからないから、でしたっけ」
「うーん、でもそれで公設市場って……何か感覚が違う気がする」
どういう意味だろう。
どう感覚が違うのか今ひとつわからない。
あやふやすぎて知識魔法でも理由を探せない。
「美愛さんの家にとっては普通の感覚なんだと思いますよ。移民だからこそ、公設市場が国の役所だから難しいとか入りにくいという意識が無いのでしょう」
そう言えばそんな事をちひさんが言っていたな。
なんて事を思い出したらレアさんが私の方を見た。
「そう言えばミアさん、ミナ主任のところだよね。あそこ、企画分析担当だから単なる計算書類だけじゃなくて難しいのがあるし、新人は普通入らない筈だけれど……」
「そう言えば課長代理が言ってた。今度の新人は統計がわかるようだから企画分析入れて様子をみようって。それってミアさんだよね、きっと」
ちょっと待って欲しい。
そんな難しい事はやっていないと思う。
「まだ新人だからかもしれないですけれど、そんな難しい書類は来ていないです。書いてあるとおりの計算で求められるものばかりですから」
「そりゃ書類には計算手順は書いてあるよ。でもあの
あ、確かにリアさんが言っているのは私がやっている書類だ。
いわゆる仮説検定だな。
確かにあれは知らなければ難しいかもしれない。
私は和樹さんに教わって何とか理解したけれど。
「申し訳ありません。それは僕が良く会計課に御願いしている書類です。他の街にある公設市場と此処の公設市場の売り上げ動向を調べて、狙った商品が向こうでも売れるか考える為に。
その結果、サカスの公設市場が此処とほぼ同じ傾向がある事がわかりました。ですので今度こっちの商品を幾つか向こうへ送りだそうという計画を立てたのです」
グラハムさん、ちょっと待って欲しい。
その書類には覚えがある。
「ひょっとして先週4の曜日に、食品部門の商品50点について、サカスとここの市場の売れ行き傾向が一致するかの書類を出したのはグラハムさんでしょうか?」
「えっ、ミアさんがやってくれたのですか? あの書類を」
何か苦笑いという感じの表情だ。
何だろう。
「そうですけれど、何かあるのでしょうか?」
「あれはミアさんの家が出している一連の商品をサカスに出すべきかどうかの下調べです。一致するという結果だったから醤油や味噌だけでなく魚の加工品もひととおり出してみようという事にしまして……
いや、別にミアさんが計算しても問題はありません。計算結果は正しいと証明されていますから。
ただそれをミアさんがやったというのは何か複雑な気持ちになりますね」
私としても複雑な気分だ。
まさかあの書類がうちの商品拡販の為の資料だったとは。
物事ってとんでもないところで繋がっているものだなと思う。
「他の市場に出す程の大口なんですか、ミアさんの家は?」
リアさんの質問にグラハムさんは頷いた。
「既に一部の商品は国内8箇所に出しています。まあショーユとテンメンジャンですけれどね。他にもイロン村支部と此処ヘラス両方で出しているものがあったり、ヘッセンに定期的に出しているものがあったり。
ほとんどが独自商品でまだ競争相手がいないのが強みです。いずれ類似品も出てくるとは思いますけれど、その前にブランド化すると思います」
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