第15話 そして午後は

 まさかこんな話になるとは……

 何だかなと思いつつ、昼食終了。


「それではミアさん、また」


「ええ、それでは失礼します」


 グラハムさんと挨拶して立ち上がり、職場へ向かう。


「うーん、これじゃグラハムさん、難しいかなあ」


「そうそう、グラハムさんを射止めるには、まずミアさん以上にならないと」


「でも家がそんな大物で、本人も仕事出来るとなるとなあ」


 リアさんとレアさんが妙な話をしている。

 ちょっと待って欲しい。


「別に私とグラハムさんはそういう関係じゃないですけれど」


「でも既にミアさんの事はあれだけ詳しく知っているんでしょ。ならそれ以上じゃないと振り向いて貰うのは難しくない?」


「そうだよね。別にミアさんが悪い訳じゃないけれど、どうしてもそう思っちゃうよね」


 リアさんとレアさんに交互に言われてしまう。

 うーん、やっぱりまずかったかな。

 そう思っても避けられたとは思えない。

 今日避けたとしてもいつかは同じ事になってしまうのだろう。


「でも収穫はあったかな。この時間にミアさんと昼食に行けば、間違いなくグラハムさんと会えるとわかったしね」


「そうそう。機会は大事。とりあえず来週は……無理でも再来週はミアさんと同じシフト入れてと」


「私もそうするね」


 うーむ、このリアさんとレアさんの言葉、どう判断すればいいのだろう。

 こういった心理が私には良くわからない。


「大丈夫、ミアさんはグラハムさんと繋がる窓口だからね」


「そうそう、だから明日も一緒に食堂行こう!」


「そうだよね。まずはグラハムさんに顔を売らないとね」


 うーん、わからない。

 今ひとつ理解出来ないノリだ。


 日本に居た頃は結愛がいたから学校が終わったらすぐ帰宅していた。

 給食費の支払い等で福祉のお世話になっている事も知られていた。

 だからどちらかというと周囲から避けられていた。

 自然、誰かとつるむ事も無かった。


 それだから女子のノリというのが今ひとつ分からない。

 もっとも日本のそれとはまた違うのかもしれないけれど。


 私としてはどう反応すればいいのだろう。

 わからない。


 ふっと今まで黙っていたカイアさんが笑みを浮かべた。


「そんな心配そうな顔しないでも大丈夫です。実際に何かするという訳ではありませんから」


「そうそう。退屈な毎日の彩り代わりみたいなものだし」


「と言いつつ、ミアさんがグラハムさんを狙っているかどうか聞いてみたりしてね」


 一瞬カイアさんの言葉に安心しかけて、そしてレアさんとリアさんの言葉でまたわからなくなる。

 こういう雰囲気、私には難しい。

 でもわからないなりに対応しておこう。


「それはないです。あくまで仕事相手ですから」


「なら余計に問題はない訳よね。まあ仕事で気まずくなったらまずいから、ミアさんのいるところで具体的アタック! は慎むけれどね」


 うーむ、駄目だ。

 感覚的にわからなくてついていけない。


 でももうすぐ職場だ。

 担当は違うし特に問題はないだろう。

 もし次回、昼食で一緒になっても、その時間だけ乗り切れば済む話だ。


 ◇◇◇


 この仕事そのものはある意味楽でいい。

 書類さえ受け取れば後は1人でこつこつ進められるから。

 やり方も書類に書いてあるし、いまのところ和樹さんやちひさんに聞いた知識の範囲内。


 調子よく2枚仕上げたところでもうすぐ3時。

 グラハムさんとの予定があるし今日はちょうどに出よう。

 ミナさんに出来た書類を提出し、机の上を片付ける。


「お先に失礼します」


 挨拶して職場を出る。

 念の為偵察魔法で後方及び前方を確認。

 これ以上グラハムさんの話で面倒な事にはなりたくないから。


 大丈夫、つけられているなんて事はない。

 どうやら今日、私と同じシフトの人はいない模様。

 なら大丈夫かな、という事で現場へ。


 真っすぐ行けば待ち合わせ場所の食品棟まではすぐ。

 あと20歩くらいというところで中からグラハムさんが出て来た。

 偶然なのか何処か見えないところで待っていたのかはわからない。

 こっちもそれは問わない方針で。


「こんにちは」


「こんにちは、来ていただきありがとうございます。これから軽食のお店に行こうと思いますが、お勧めのお店とか行きたいお店とかはありますでしょうか?」


 私が知っているのは結愛お気に入りのパフェの店くらい。

 ここはグラハムさんに任せた方がいいだろう。


「お店を知らないのでお任せしても宜しいでしょうか?」


「わかりました。それでは歩いて10分くらいですけれど、いいですか」


「ええ」


 どちらの方だろう。

 10分位と言うとパン屋や結愛が好きなパフェの店がある方かな。

 そう思ったが向かったのは南側、学校がある方だ。

 こちら側は学校や役場しか私は知らない。


「こちらはどんな街なのでしょうか」


「フラムレイン地区と言って、ヘラスの最初の頃の街らしいですね。北部へ向かう道も以前はこちらがメインだったようです。10年前に役場前を通る新街道が開通するまでは」


「詳しいのですね」


「そうでもないです。この街は私も来たばかりですから。ただ街を見て歩くのが好きなので、散歩ついでに知ったという形ですね。今日行こうと思っている店も、そうやって見つけた場所です。実は入るのははじめてなのですけれども」


 散歩が趣味か。

 グラハムさんだと散歩と言ってものんびり優雅にではなく、お仕事時のように速足でせかせかと歩き回っているような気がする。

 勿論偏見だ。

 今は私にあわせてゆっくり歩いてくれているし。


 ただ散歩っていい趣味だなとは思う。

 私はこの前変なのに絡まれた件があるので、必要以上は外に出なかったりするけれども。


「いい趣味ですね」


「ありがとうございます。ですが場所を選びますし、ミアさんにはお勧めしにくい趣味です。特にヘラスのように開拓地に近い場所では。

 成功している家の女性ですとどうしても面倒な輩に付きまとわれやすいですから」


 やはりその辺は常識らしい。

 この前のような事がないよう、これからも毎日気をつけよう。

 そう決意する。

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