第8章 第1曜日の行事
第33話 1日3回出会う人
第1曜日は概ねいつもと同じ。
朝、グラハムさんのところでエビと、売り切れそうな商品を補充。
醤油と甜麺醤、味噌を補充するのはいつもの通り。
しかし今回はちひさん関係のものも大幅に補充が必要になった。
チーかまをはじめいくつかの商品が完全に品切れ状態だったのだ。
おまけに私の漬物まで残り僅かで要補充。
「連絡メモにも書きましたが、このあたりの商品は今後は補充数を多めにお願いします。最低でも2倍程度は必要です」
そんな事まで言われてしまった。
ひょっとして先週に私が行った売り上げ分析の結果、拡販したりなんて始めているのだろうか。
そういえばサカスの市場に出すと聞いた気もする。
細かいことを聞いても良かったのだけれど、私の分析が関係していると思うと遠慮してしまう。
納入が終わったら同じ公設市場でも事務棟の方へ出勤。
お仕事はいつも通りで、やはり検定ものばかり。
どうやら私はこれ専業となりつつあるようだ。
書類はグラハムさん以外が出したと思われるピントの甘いものが更に増えていた。
こういった分析をあまりよく知らない担当者が、何となく真似して作ったという感じだ。
つまりグラハムさんのやり方を真似しているのだろう。
ならグラハムさんはこの方法で実績を上げているという事だ。
確かにうちの商品、補充する数が大幅に増えている。
ヘラスに引っ越してきたばかりの頃と比べると醤油や甜麺醤は3倍以上。
ちひさんの加工品も一部は大量生産が必要な状態になっている。
私の漬物すら毎週1回は仕込まなければ間に合わない。
確かにこのペースで他の商品を拡販しているなら、バイヤーとしてはとんでもなく優秀だろう。
真似して拡販しようとする人が出るのも頷ける。
そんな事を思いながら書類を2枚仕上げたらお昼の時間。
勿論リアさん達と一緒だ。
どうやら3人とも本当に私と出勤日を合わせている模様。
「こちらの仕事は締めの日までに終わらせれば大丈夫だしね」
「そうそう。うちは月報系統だし、締めの前以外は3人同時に休んでも問題ないから」
本当にそれでいいのだろうか。
しかし問題になっていないようだからきっと大丈夫なのだろう。
そして食堂で予想通り。
「ミアさん、こっち空いてますよ」
こちらが空席を探すよりグラハムさんが私達を見つける方が早いのだ。
もう昼の恒例行事状態だなと思う。
リアさん達も当然という感じでそっちに行くし。
「ミアさん、今朝も納入ありがとうございました」
「いえ、こちらこそいつもお世話になっています」
この辺はいつもの挨拶。
しかしリアさんがこれを聞きつけた。
「ミアさん、今日はどんな物を納入したの?」
「今日は扱い商品ほぼ一通り、主に調味料や加工食品です。あとは週末にエビを捕ってきたので、それもですね」
別に言っても問題はないだろう。
なので正直に答える。
「そういえば先週ワルトナイヨで食べたエビ、あれってミアさんのところのなのかなあ? お店で使える量のエビを扱っているのは、うちの公設市場でも他の店でも見た事がないけれど」
そういえばワルトナイヨでもそんな話をしたなと思い出す。
「ええそうです。ミアさんの所のエビはワルトナイヨに限らずヘラスの飲食店を中心に卸しています」
グラハムさんがあっさりと肯定。
まさかと思ったけれどあのエビ、本当にそうだったとは。
「それって何か特別のエビなんですか?」
「いえ、普通のエビです。ただ飲食店で使う場合、質が揃ったものがある程度の量ある事が必要です。エビに限らず海産物は今のところそういった入荷ルートがほとんどありません。
ミアさんのところからは種類と大きさを揃えたエビを毎週第1曜日の朝に納入して頂いています。現在では飲食店対象の業販だけで予約がほぼいっぱいの状態です
市場としては本当はもっと納入をお願いしたいところです。ですが現状で目一杯と聞いています」
「何とかならないのかなあ?」
レアさん、今度は私に聞いてきた。
「すぐには無理です。少しずつ増やそうとはしているのですけれど」
和樹さんも一応対処はしているのだ。
収穫の度に養殖池を少し広げたり等して。
しかしエビが育つまでには2ヶ月半かかる。
だからすぐには効果が出ない。
「ミアさんの家には他にも多くの加工品や調味料の納入をしていただいています。そちらの方に影響が出ても困るので、あまり強くお願いできないのが現状です」
確かに朝の様子では加工食品全般を今まで以上に量産する必要がありそうだ。
勿論出来ない量では無い。
強いて言えばちひさん担当の魚をもう少し捕る必要があるかな位だ。
ただちひさんは既に対策を考えているようだし、問題はないだろう。
それにしても食事中の話題、私の家の事が多いよなあと思う。
まあグラハムさんとの共通話題となるとどうしてもそうなるのかもしれないけれど。
◇◇◇
お昼を食べて、その後お仕事して、書類を3枚仕上げるともう3時。
「お先に失礼します」
挨拶して部屋を出る。
さて、今度は本日3回目のグラハムさんだ。
待ち合わせは前回と同じ食品棟の前。
あと20歩くらいというところで中からグラハムさんが出て来た。
前回もそうだったし、おそらく偶然ではないのだろう。
しかしあえて聞かないというのもきっとマナーだ。
「こんにちは」
「こんにちは、今回も来ていただきありがとうございます。今回はミアさんの案内という事でいいでしょうか?」
「ええ。案内といっても友達に教わったメジャーなお店ですけれども。この前のお店と同じフラムレインにある、アスクライテというお店です」
今日は営業していて、席も空いていることは知識魔法で確認した。
場所もわかっているし道順も問題無い。
だから大丈夫な筈だ。
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