第32話 船の操縦魔法
朝ご飯、エビの収穫、そして船でちひさんの海岸へ移動して魚捕りはいつもと同じ。
しかし昨日は暗くて魚捕りが思う存分出来なかった。
その分結愛が張り切っている。
「捕った! 大きい」
「捕った! でも小さい!」
そんな事を言いながら狭い金庫網の中をばしゃばしゃやりまくっている。
潮が満ちてくるギリギリまで粘って、しっかり楽しんだ。
ただ少し気になる事がある。
「魚の大きさ、最初の頃より大きくなっている気がします」
「秋ですからね。この調子だと冬から春は魚が少なくなったり小さくなったりする可能性が高いですね」
ちひさんも気づいていたようだ。
そして話はまだ続く。
「もし此処の定置網だけで魚が足りなくなったら、今度買う予定の船で新たな漁をするつもりです。
とりあえずは
既に対策まで考えていたようだ。
やっぱり流石だなと思う。
「そうすれば大きい魚が捕れる?」
結愛がくいついた。
「捕れると思うよ。試してみないとわからないけれどね」
「やりたい!」
「今回は用意していないから、やるとすれば来週からかな」
「わかった!」
そんな話をしながら網をしまって、今週のここでの漁はお仕舞い。
そしていよいよ帰り、船を操る練習だ。
「どうする? ある程度沖に出てからやるか?」
「せっかくですから最初からやってみます」
岩場を削って作った船着き場で、全員が船に乗ったところから開始だ。
基本は、
○ 波を横から受けないように走らせること
○ 運動エネルギーは徐々に与えること
○ 船は必ず前進させて動きを止めないこと
の3点だそうだ。
そうすれば船が変な方向を向いたり波で横倒しになったりする可能性は低くなる。
余裕があれば波を打ち消す方法を考える事。
これは和樹さんとちひさんで方法論が違うらしい。
さて、まずは基本通りに。
ゆっくり船の運動エネルギーを増加させる。
思ったより簡単に前へと進み始めた。
しかし揺れが酷い。
船が倒れないか心配になる。
結愛は大丈夫だろうか。
「揺れる! 楽しい!」
大丈夫な模様だ。
「しっかり掴まっていてね」
「わかった!」
波の来る方向へ船を向ける。
船そのものよりも船の先端部を引っ張るくらいのイメージでやると船の向きや姿勢がいい感じだ。
波に正対した事で横揺れの危険は無くなった。
しかし縦揺れが思った以上。
上下動が結構酷い感じだ。
少し速度を上げてみる。
上下動が少しだけ収まった。
しかし波が船底をたたく振動が気になる。
更に速度を上げてみる。
駄目だ、危険だ、そう感じてすぐに速度を下げた。
なるほど、波を何とかしないとこれ以上はこの船では難しい。
和樹さんの方法も聞いているが、数式が多くて直感的に理解しにくい。
だからちひさんの船を操縦する魔法を参考にしてみる。
確か船周辺の海水全てを動かすイメージだったかな。
試しに運動エネルギーを与える場所を船周辺の範囲へと広げてみる。
波は消えたが船が横へ回り始めた。
慌てて船を少し前進させる。
船首が波のある場所にさしかかり大きく揺れる。
つまり船首を前方向に向けて、かつ海水全てを動かす訳か。
予想はしていたがなかなか難しい。
船周辺の海水と、船そのものと両方を同時に操作するので意識がいっぱいいっぱい。
「お姉ちゃん、何かいつもと船の方向が違う」
結愛に言われて気がついた。
そろそろ右へ回りこまないとお家がある海岸から離れてしまう。
全体を動かす方法を右斜めにして、船首をそちらに少し引っ張って。
気を抜くと船が波のある場所に出たり違う方向を向いたりするし、神経を使う。
何とか浜辺に作った船着き場についた時にはもう頭がくたくただ。
「結構大変です。湾内だけ、この距離でもこれだけ大変なんですね」
「でも揺れもたいした事無かったし、最初としては十分上手かったと思いますよ。あとは慣れるだけです。私もこの船を自由に動かせるまで、結構かかりましたから」
「そうそう。僕も最初はあまり上手くなかったしさ」
「先輩は最初、2回くらい船を揺らした後は上手くやっていましたよね。まあ先輩は元々規格外ですから参考にしない方がいいです」
このあたりもの互いの言い分もいつも通りだ。
そういえばと思い出す。
確か和樹さん、イロン村から皆で帰るときにはじめて船を魔法で操ったんだよなと。
あの時は確かに最初に2回くらい縦に揺れた。
けれどその後は割と自由自在に船を操っていたし、竿を出してトローリングなんて事までやって海上を走らせまくったのだ。
うん、確かに和樹さんの真似は無理だ
思い切り納得してしまった。
「それじゃ今日は私がお風呂の準備をしますよ。美愛ちゃんは少し休んでいてください」
「すみません」
「いえいえ。船を操縦して貰った分、魔力が余分に残っていますから」
でもちひさんならこの程度船を動かしただけなら疲れた様子はみせない。
やはりかなわないな、そう感じてしまうのだ。
張り合う気は無いし、張り合っても勝ち目はないとは知っているのだけれども。
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