第11章 新しい船のある第5曜日
第47話 船上にて
第5曜日。
今日は早朝から開拓地へお出かけ。
準備を済ませたらちひさんと新しい船に乗って出発。
「いってらっしゃい!」
「行ってきます」
結愛と和樹さんに見送られ、船を出す。
「最初は私が操縦しましょうか?」
「お願いしてもいいですか」
「わかりました」
この前ある程度試したので船の動かし方は一応わかる。
運河部分は波があまり無いから、船の運動エネルギーを操作するだけでいい。
前の船の方より重い分、魔力は必要になる。
しかしこの船は無駄な動きをしにくいので制御が楽。
結果として余分な制御に魔力を使わない分、こっちの方が操縦が楽と感じる。
港に出た時点で運動エネルギー操作範囲を少し広く設定。
これで波の影響をかなり防げる筈だ。
船はやはり操縦しやすい。
狭い運河で曲がる際、少し気をつける必要がある程度。
「目的地はちひさんの海岸ででいいですか」
「ええ。でもあまり急がなくていいですよ。2人いれば潮がある程度満ちていても網のセットが出来ますから」
それでも早く着いた方がいいだろう。
無理しない範囲で速度を出そう。
港から出ると波は一段と大きくなった。
それでもこの船、割と安定していて不安感はない。
速度もある程度までは割と簡単に出せる。
「もう操船は美愛ちゃんに御願いして問題無いですね。ただもし疲れたら言って下さい。海流に逆らう分、どうしても魔力を使いますから」
「わかりました。ところで今日は網を仕掛ける以外にどんな事をする予定なんですか。何か新しい漁法を試すとかは?」
「本当は刺し網が欲しかったのですけれど、網を作ってくれるいい業者が見つからなかったのですよ。延縄は動力付の引き上げ装置が無いと危険な感じがするので、今日出来るのは竿を使った釣りですね。網と比べると数を稼げないので大物狙いになります」
「結愛が喜びそうですね」
「確かにそうですね。大きい魚が釣れると楽しいですから。かかった時点で電撃魔法で気絶させれば簡単に上げられますので、結愛ちゃんでも出来ると思いますよ」
「電撃魔法ですか?」
その魔法は初耳だ。
少なくとも
電気というものがそもそも研究されていないから。
「食塩水を電気分解する逆のイメージで出来ますよ。塩素イオンとナトリウムイオンを集めて、塩素イオンから電子を奪って電撃をかけたいもの経由でナトリウムイオンに渡す、それだけですから。
塩素ガスが出るのが少し嫌ですけれどね。あと魚を気絶させるにはそれなりの電圧が必要なので、このイメージを積層させる必要もありますけれど。
別に冷却魔法で獲物を冷やしてもいいんですけれどね。電撃魔法の方が馴れると狙った範囲に瞬間的に仕掛ける事が出来ますから。まあこれは私の場合は、という事なので誰でもそうかはわからないですけれど」
なるほど、なら後で練習してみよう。
ただ塩素ガスが発生するなら室内や空気がたまりやすい場所ではやめたほうがいいかな。
海辺で時間のある時にやっておこう。
「ところで美愛ちゃんはこの前、何か出し物を見に行ったんですよね。実は私も漁業以外に少し娯楽系の趣味を増やしたいなと思っているんで、もし良ければ教えて欲しいんですけれど。どんな所へ行って、どんな手続きをして、どんな内容だったか」
ちひさんにならこの前のワルブルガの話もしやすいかなと思う。
船を動かしているだけなら話をする位の余裕もあるし。
「ワルブルガ、というダンスチームのショーです。場所は……」
◇◇◇
「なるほど、それは結構面白そうですね。今度美愛ちゃんがお休みの時、似たようなものを探して一緒に見に行ってみましょうか。お昼の手頃な時間にやっていれば、ですけれど」
とっさにワルブルガの公演時間を知識魔法で確認する。
『来週末までは第2,3,5,6曜日の昼11:00~1:00、夕5:00~7:00にショーを実施。第3曜日と第6曜日のみ夜10:00~12:00にも実施。場所はいずれもオスタリア』
「同じ演目だと美愛ちゃんに悪いですし、似たようなのを情報紙で探しましょうか。前、美愛ちゃんに教わった情報紙の専門書店ありますよね。あそこに行けばそういったものの専門紙もあるんじゃないですか?」
「確かにそうですね」
あのお店はグラハムさんに教わった場所だ。
私は教わった後、確認ついでに1回行ったきり。
でも和樹さんは結構はまったようで、毎週1回は行って4~5紙買い込んできて家で読んでいたりする。
「あとはそろそろ冬物の服も見ておきたいんですよ。だから今度かその次の第2曜日、お出かけしないですか? 服の買い物があると先輩は来たがらないと思いますから2人で」
確かに服は買った方がいい。
仕事場へも毎回ほぼ同じデザインの2着を交代で着て行っている状態だし。
それにそう言えばそろそろ買った方がいいもの、他にもあった。
「そうですね。あと結愛の服も少し買っておきたいですし」
結愛の服はヘラスに引っ越してきた頃に何着か買った。
しかし物によっては既にサイズが微妙になりつつある。
「でも結愛ちゃんの服は結愛ちゃんが一緒の時でないと無理ですよね。だから見るだけ見て、実際に買うのは平日の夕方、学校が終わってからですね」
そうだった、ヒラリアの服屋はセミオーダーが標準。
だから本人がいないと買えない。
サイズを合わせる事が出来ないから。
「この船を買った帰りに寄ったお店の近くに子供服が置いてあるアーケードがありますよね。その辺でデザイン等を確認しておいて、結愛ちゃんが学校から帰ってきたら一緒に行けばいいんじゃないんですか」
「そうですね」
あの辺りならお家から割と近い。
だから学校から帰った後でも結愛を連れて行く事は簡単だろう。
「さて、まだ到着まで時間がかかりますし、朝食にしないですか? 向こうへ着いたらすぐに網張り作業をしたいですから」
「そうですね」
私はアイテムボックスから朝食を出す。
今日は船の上でも食べやすいようおにぎりで、若干小さめに握ってきた。
「おにぎりですか。中身は何ですか?」
「ツナマヨ風と甘露煮風、おかか風です」
「いいですね」
おかか風はちひさんが試作したかつお節もどき(ハピタを使用)を使った。
ちひさん曰く枯れ節ではなくて荒節ですけれどね』との事だけれど、充分美味しいと思う。
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