第4話 資格とお仕事
どう考えても分からない問題が2問あった。
それでも一応、1級合格。
合格証を受け取って役場を出る。
1級に合格した事そのものは嬉しい。
しかしこれで目標がなくなってしまった、という思いもある。
ちひさんや和樹さんに少しでも並べるように。
そんな気持ちで目指した試験だった。
しかし合格した今、逆に2人との差がよりはっきりわかるようになってしまった気がする。
何せ合格できたのは2人に勉強をみてもらい、わからないところを教えて貰ったおかげだから。
それに今回の試験、私は2回目だ。
更に問題集を買って傾向と対策を調べた上で受験している。
しかも点数は1級合格ぎりぎりだし時間もめいっぱい使った。
2人は初回で、しかも私より遙かに余裕をもって合格している。
勿論12~3歳の年齢差はある。
ただそれだけ時が経てば何でも出来るようになるという訳ではない。
反証例ならいくらでもあげる事が出来る。
今まで反面教師的な事例には事欠かない人生だったから。
いずれにせよ、これからどうしようか。
どうしようかと危機感無く悩める事そのものは贅沢な事だと思う。
ただ慣れない状況だからどうにも落ち着けない。
暮らし上の心配はない。
家は充分すぎるくらい広くて快適だし場所もいい。
お金も毎週確実に貯まっている状態だ。
結愛も毎日楽しそうに学校に行っている。
しかし、だからこそ思ってしまうのだ。
このまま甘えてしまっていていいだろうかと。
今のこの環境は和樹さんとちひさんのおかげだ。
私と結愛は2人に寄生しているだけ。
一応家政婦的な仕事は私がしている。
しかしこれくらいはちひさんでも和樹さんでも出来る。
ただ結愛の生活を思うとこの家を出て行く事は出来ない。
それに以前、ちひさんに『納得しない限り逃がさない』なんて事も言われているし。
ただ、それなら私は何をすればいいのだろう。
何をしたいという希望すら思い浮かばないのが今の私なのだ。
「やりたい事なんてそう簡単に見つかるものでもないですしね。焦って結論を求めない方がいいと思いますよ。まあこれは一度失敗した私からの忠告なんですけれどね」
ちひさんはそう言ってくれるけれども。
今度は周囲を注意しながら歩く。
偵察魔法で上空から監視した限りでは問題無い。
しかし朝のような事があっては嫌なので、今日はまっすぐ帰る。
役場から家までは橋を渡ってわりとすぐ。
変なのに見られていないか確認した後、家の中へ。
窓を開けて風を通し、そして洗濯物の様子を見る。
もう少し干しておいた方がいいかな。
さて、それではどうしようか。
これから結愛が帰ってくる4時頃まで特にすることがない。
洗濯物を取り込んで畳む事、自分の食事を食べる事くらいだ。
出かける先も特にない。
知り合いも市場の担当さんといつも行く店の店員さんくらいしかいないし。
もう少し外での知り合いを作った方がいいのだろうか。
しかしそんな機会がそもそもない。
やはり何か外で活動した方がいいのだろう。
となるとやはりお仕事でもした方がいいのだろう。
ただ結愛の帰る時間には家にいたいし、ある程度家事をする時間も欲しい。
そんな都合のいいお仕事、あるだろうか。
しかも移民であまりこの国の事を知らない私でも出来るような仕事が。
確か1週間くらい前にも同じような事を考えて探したんだったよな。
それで結局見つからなかった。
今回も無いかな。
そう思いつつ知識魔法を起動してみる。
あれ、今回は手応えがある。
手応えという表現で正しいかはわからないけれど。
知識魔法で検索を掛けた場合、該当する情報があると手を伸ばして何かが手の先に届いたような感触がある。
その情報を引き寄せる形で捉えて確認してみる。
『雇用先:ヒラリア共和国産業局公設市場課ヘラス支部。勤務場所:ヘラス公設市場。時間:週3回(第1曜日~第5曜日のいずれか)、朝9時~夕5時の間の5時間(フレックス制)。日給:最低
勤務場所はいつも行っている公設市場。
勤務は週3回、フレックス制で5時間。
つまり家事に影響は無い。
何と言うか理想的な条件だ。
見落としがないか、更に詳細な条件を知識魔法でたぐり寄せてみる。
『販売記録から売上高、手数料、税金、振込額を計算して書類を作成する仕事です。売り上げ傾向の分析業務を行う場合もありますので、義務教育学校卒業レベルの学力をお持ちの方が対象となります。業務時間はフレックス制で、前の週に翌週の勤務日及び勤務時間を指定していただく形です』
移民不可とはどこにも書いていない。
さらに知識魔法で検索したところ、『条件に当てはまる国民であれば、以前からの定住民に限らず、新規の移民も含む』なんて細則が出てきた。
つまり問題無い、という事だ。
どうしよう、そう思いつつ応募方法を確認する。
『応募受付場所:公設市場事務棟1階、事務棟受付窓口。受付時間:公設市場営業時間内、随時(朝8時~夕7時)』
いつも行っている食料品部とは違う建物だ。
とは言ってもすぐ隣、役場側の建物。
むしろ食料品部よりこの家に近い。
公設市場は国の施設だ。
職場的に問題があるなんて可能性も低いだろう。
それにこの勤務時間なら生活上の問題にもならない。
週に最低
時計を見るとまだ午前中。
なら思い切って応募してみよう。
それではまず見苦しくない程度に身支度をしないと。
私は鏡の前に向かう。
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