第51話 来週の予約?

 夕食を片付けた後、自室へ引っ込んで今日買ったエルミナレルを取り出す。

 明日、ちひさんと見るのにちょうどいいショーがあるかを探す為だ。


 ショーそのものはヘラスでも毎日何処かで何かしらやっているようだ。

 問題は内容と時間と場所。

 旧リベル川より手前で、お昼の健全な時間で、私達でも面白そうなもの。


 取り敢えずリアさんが言っていたハッサンズやタイタニア、マキシミリアを探してみる。


 ハッサンズはやっているけれど……この劇場は旧リベル川より向こうだ。

 タイタニアとマキシミリアは明日はやっていない。

 ワルブルガはやっている。

 ただこの前見た物と演目は同じで、場所もオスタリア。


 おっとマキシミリア、来週は第1曜日からやっている。

 会場であるエルスタルはスニークダウン地区からすぐ。

 明日ちひさんと行くのには使えないけれど、グラハムさんと行くのには使えるかもしれない。

 一応調べておこう。


『マキシミリア:男女5人組のパフォーマンスユニット。ブラックで不条理だがテンポがよく笑える舞台が特徴』


 ブラックで不条理で笑える……想像出来ない。

 ただリアさんが一般的だと言っていたから多分大丈夫かな。


 念の為、ショー・舞台評論専門紙『メタトロニオス』の方も見てみる。

 なかなか評価は高いようだ。

 これならグラハムさんと行ってもきっと大丈夫だろう。


 開始は来週の第1曜日の5時で、夕食とドリンク付のA席が小銀貨7枚7,000円、B席が小銀貨4枚4,000円

 値段的にはB席かなと思いつつ、知識魔法で確認。


『エルスタルはA席、B席、C席の3グレードで、C席はドリンクのみ。B席は中央の3列目から5列目等。

 席の販売は予約無し、先着順』。

 B席でオスタリアのC席と同等という感じかな。


 あと夕食の内容はどうだろう。

『B席はキャバレーで一般的なワンプレートタイプの夕食。ドリンク、パン、デザートの他に5品』

 これもオスタリアのC席と同程度の模様。

 ならこれでいいだろう。

 

 さて、肝心のちひさんの方はどうしようか。

 そう言えばこの、グラハムさんと行こうと思った劇場では何をやっているだろう。


『ピルグリム公演『ガジェット』評価★★★★★★★☆☆☆ ある日突然落ちてきた何かを巡る喜劇』

 この日やっている舞台の中では評価が高い。


 評価点もこの前見たワルブルガの『窓辺の花』、『街角の彼女』、『ラストダンスは私に』と同じだ。

 知識魔法でピルグリムについて調べてみる。


『ピルグリム:男女5人のユニット。毒多めなメタフィクションを得意とする。『誰だ?』が有名』 


『誰だ?:ヘラス・エルミネ大賞第7回スモールユニット部門受賞作。

 平凡な港湾勤務員エミラスはある日、自分の生活の全てを監視されているという妄想に囚われる。妄想は酷くなり、自分は本当の人間で無く、舞台で演じられている役であると感じるようになる。そしてそんな自分を観客が見ていると……。

 何重にもなった虚構と現実の狭間を感じさせる傑作』


 勿論今回の演目は『誰だ?』ではなく『ガジェット』だ。

 つまり内容がそもそも違う。

 でも確かに面白そうだ。

 ワルブルガとは全く違う方向性だけれども。 


 やはり予約無し先着順。

 昼1時からのランチ&ドリンク付きB席が小銀貨3枚3,000円

 これでいいかな。


 場所はケーラアーケードから近い。

 服を見てから行くのに便利だ。

 それにグラハムさんと行く場合の予習にもなる。


 それでは明日は、ケーラアーケードへ行って、エルスタルへ行って、最後に結愛の服のデザイン確認に行くという予定にしよう。


 子供服等があるアーケードは……

 エルミナレルで確認。

 大丈夫、ケーラアーケードの近くにある。 

 評判も悪くないし、此処でいいだろう。


 ◇◇◇


 翌日朝9時、まずは1人で公設市場に品物補充へ。

 ちひさんは最初、一緒に市場へ行って、その後服を見に行こうかと言っていた。


 でもちひさんは朝食後、出かけるまで加工食品製造をするそうだし、それなら私が1人で行くと言って断った。

 実際は来週の話をグラハムさんにする為だけれど。


 グラハムさんとの付き合いは単なる友人として。

 恋愛とか、ましてや将来をうんぬんという訳では無い。

 だからちひさんにこの事が知られても本当は問題は無い。


 でも何となく言いたくないというか、言わない方が楽。

 そんな感じに思ったから。


 公設市場食料品部の事務所横にあるメッセージボックスを確認。

 今日も少し補充が必要な模様だ。

 顔を出す口実にはちょうどいい。


 事務所に入ると例によってグラハムさんが先に私を見つける。


「おはようございます。今日は第3商談室を使いましょう」


 私も挨拶をして商談室へ。

 いつものように商品補充や会計等をした後、ショーの話を持ちかけてみる。


「もしグラハムさんが宜しければですが、この次の第1曜日はショーを見に行きませんか? こちらからカーバルト地区へ入ってすぐの場所で、夕方5時からあるのですけれど」


「早速探して頂いたのですね。ありがとうございます。勿論行かせて頂きます。何時に何処で待ち合わせをすればいいでしょうか?」


「予約無し、先着順受付で夕食もついていますので、此処を4時に出ようと思います」


「わかりました。それで出来れば場所と内容を教えていただけないでしょうか」


 言ってしまおうか、当日のお楽しみで黙っておこうか。

 少しだけ考えたけれど、グラハムさんの性格なら言っておいた方がいいかなと判断。


「カーバルト地区のエルスタルというお店で、マキシミリアというグループの公演です。A席、B席、C席とありますが、無難なB席を取ろうと思っています」


「わかりました。ありがとうございます」


 よし、これでグラハムさんの方はOKだ。

 帰ってちひさんとケーラアーケードへ行く事にしよう。

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