第52話 服のお買い物
「お店はケーラアーケードでいいですか?」
「ええ、案内よろしくお願いしますね」
お家の前の道を北、海の方へ向かって歩いていく。
「これから行くケーラアーケード、職場の友達に教えて貰ったんでしたっけ?」
「ええ。夕食に行く前に立ち寄って、それで知りました」
「私も何か、此処で人間関係作った方がいいですかね。そういった生の情報がなかなか入らないですから。
ただ人付き合いってあんまり得意じゃないんですよね」
ちひさんは人付き合い、上手そうに見えるのだけれども。
上手だけれど得意とか好きとかでは無い、という意味だろうか。
お家からケーラアーケードまでは400mあるかないか。
だから話しながら歩けば割とすぐ到着。
「平日の午前中なのに結構賑わっていますね」
「確かにそうですね」
ちひさんの言う通り結構人がいる。
年齢は私より少し下が下限、ちひさんの少し上が上限という位。
下はおそらく義務教育学校卒業くらいだろう。
ヒラリアは男女とも働いているのが普通らしいけれど、皆さん今日はお休みなのだろうか。
『勤務体制的に週2~4休が多い。また無職・寄生生活的な者も3割程度』
例によって知識魔法が勝手に私の疑問に回答する。
これって便利な反面何だかなと感じる事も多い。
寄生生活とはどんな感じかな、と知識魔法を起動しないように考えつつ、ちひさんに尋ねる。
「服でいいんですよね?」
「ええ。秋冬用に欲しいなと思いまして」
なら2階だな。
以前リアさん達と来た時を思い出して階段をのぼる。
以前とあまり売り場は変わっていない。
まだそれほど経っていないから当然と言えば当然だろう。
それともヒラリアは1年中そこまで気温が変わらない。
だから服もそう違わないのだろうか。
『特に冬服という概念はなく、盛夏用を除けば季節ごとの違いはあまりない。寒い日は上着を羽織ったり、靴下や下着等を変える事で対処する。
季節よりも流行の形や色による変化の方が大きい』
なるほどと思った時だ。
「それじゃ私は自分の服を見てきますよ。美愛ちゃんは美愛ちゃんで自分の服を最低2組、買う候補を決めておいて下さい」
えっ?
てっきり2人でちひさんの服から見ていくのかと思っていた。
ちひさん、冬物の服を見ておきたいと言っていたし。
でもリアさん達と此処に来た時も、全員で一緒に回る訳でなくバラバラだったなと思い出す。
これがヒラリア流なのだろうか。
ちひさんは日本人だけれど。
ただ今回、自分の服を買おうとも思っていたのだ。
だからまあ見て回るとしようか。
そう思い直して、そして売り場を観察する。
さて、どれにしよう。
職場に着ていく事が多いから、デザインは無難な方がいい。
今持っているのはジャケット、ブラウス、パンツという組み合わせ。
だから買うとしたら今度は下はスカートかな。
リアさん達はどんな服を普段着ていたかなと思い出しながら、売り場を見ていく。
◇◇◇
なかなか決まらない。
いや、一応1着は選んだのだ。
厳密に言うと選んだというのとは違うかもしれない。
この前レアさん達と見た、ブラウス、カーディガン、スカートの組み合わせだから。
知識が足りないので自分で考えて選ぶというのが苦手なのだ。
3点セットなのは、その方がお値段がお得になるから。
セミオーダーなので同じサイズでまとめて仕上げた方が安くなる。
だからそれは問題ではない。
問題は選んだのを買うかどうかという点。
仕事にも着ていくのだから買った方がいいとは思っている。
日本とヒラリアの物価が違う事もわかっている。
それでも自分の服に
我ながら貧乏性だとは思うけれど、性格だから仕方ない。
これが結愛の服なら買えるのだけれども。
迷いつつ、また別のコーナーを回ってはもう一度戻ってみて。
これを3回ほど繰り返し、4回目のループに入りかけた時。
「美愛ちゃんはもう決まりました?」
ちひさんがやってきた。
「どうしようかなと思って。今の服があればまだ困らないし、大丈夫ですから」
「候補は絞れました?」
「ある程度は、ですが……」
「なら先に私が選んだのを見て貰えますか?」
それならという事でちひさんの服を見に行く。
ちひさんが選んだのは生成りのジャケット、やや茶色に近いくらいのパンツ、白のブラウスという組み合わせ。
「今回もスカートではなくパンツなんですね」
「自分の好みというのもありますけれどね。どうしても前のと似た感じになってしまうんですよ。一応スカートの場合も考えてみたんですけれどね」
「どれですか?」
上は同じで、下がミディアム丈のタイトなスカートになった。
「こっちでいいんじゃないですか? どうせ海で仕事をするときの服は別なんですから。こちらは街歩き用ですよね」
「そうなんですけれどね。ところで美愛ちゃんの方はどうですか?」
私の方に振られてしまった。
「ある程度は絞れましたけれど、まだ……」
「それじゃその、ある程度を見てみたいです」
そんな訳でちひさんをマネキンのところへ連れて行く。
「いいじゃないですか。これなら仕事にも問題無く着ていけると思いますし」
「ただ最初にちひさんと買った2着で実際は足りているんです。だから今、急いで買う事も無いかなって」
本当は貧乏性の
「仕事でも着ていくんですし、買った方がいいと思いますよ。出来れば他に、仕事用以外の軽いのも1着は欲しいですよね」
買う着数が増えてしまった。
完全に私の処理範囲外だ。
「でもそこまで着るような用事も無いですし」
「とりあえずこんなのはどうでしょうか?」
ちひさんは別のマネキンのところへ私を連れて行く。
こっちはベージュ色のニットのワンピースだ。
ただ私自身がこういった服装をした事が無いので、微妙に判断しにくい。
というか服を選ぶ事そのものが得意ではないのだけれども。
「自分では今ひとつよくわからないです。デザインはいいと思いますけれど。
それに今は仕事用だけで足りますし」
「でも美愛ちゃん若いんですし、仕事用だけでは勿体ないですよ。
ならこういうのはどうでしょう。美愛ちゃんは私の服、パンツの方とスカートの方を買うことにして、私が美愛ちゃんの服、仕事用とお洒落用を買うというのは」
えっ? どういう事だろう。
ちひさんの説明は続く。
「私は自分のスカートを買う事に躊躇いがある。美愛ちゃんも自分の服を買おうと決められない。
でも私用の服なら、美愛ちゃんは客観的に判断して買った方がいいか判断出来ますよね。私も美愛ちゃん用なら買った方がいいか、判断出来る気がします。
だからお互い分を買うべきかどうか、判断するという事で」
確かに私はちひさんの服、スカートの方も買った方がいいと思う。
家の収入も問題無いし、買っても大丈夫。
「そんな訳で美愛ちゃん、私はさっきの服、パンツとスカート両方買った方がいいと思いますか?」
「買った方がいいと思います」
そこまで言って気がついた。
やられた! と。
でももう遅い。
「なら私の番ですね。美愛ちゃんの服、美愛ちゃんが選んだ方と私が選んだ方、両方買った方がいいと思います。
それじゃ採寸場へ行きましょうか。カードは取ってありますから」
最初からちひさん、私の服を2着買うつもりだったのだろう。
そして私が買う事をためらうところまで予想済みだったに違いない。
だから今のような交換条件を出した訳だ。
私の判断が一瞬でも緩むように。
あの交換条件も最初から考えていたに違いない。
何と言うか、やっぱりちひさんには勝てないな。
そう思いつつ、ちひさんと採寸場へ向かう。
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