第24話 私の着ていた服

 ケーラアーケードという名の商店街は思ったより小さかった。

 私が気づかなかったのは無理もない。

 そう思える程度に。


 広さはうちの家の敷地5つ分程度。

 そこに2階建てで幅広な建物が建っている。

 建物そのものはちょっとだけお洒落な感じのつくり。

 よくあるテラコッタ色の焼土や丸太作りではなく、白色の壁が印象的だ。


「ミアさん、ここで何か見たいもの、ある?」


 そう言われてもどんな物があるのかすらよくわかっていない。


「わからないので、今日は一緒に見ているだけにします」


「なら服からかな、ミアさんいつも同じようなのを着ているから。少しは違うのも見てもいいかなあと思って」


 えっ、私用の服?


「買うつもりではなく時間つぶし。だから心配しないで大丈夫です」


 カイアさんの台詞で少しだけ安心。

 そうだ、元々時間潰しで来たのだった。

 

 レアさん達についていく。

 いきなり2階へとあがり、店の中へ。

 うん、洋服店だ。

 マネキン人形が様々な服を着て並んでいる。


 展示されているのは多分ヒラリアとしては秋冬物。

 ただ此処は温暖なので日本で言う3シーズン用くらいの感じだ。

 棚にある程度試着用の服も置いてある。


 日本の一般的な洋服店と違うのは、棚にあるのはあくまで試着用で販売品ではない事。

 ヒラリアではこういった普通の服屋さんでもイージーオーダーが基本だ。


 気に入ったデザインの服についているカードを持ってカウンターに行けば、店員さんがサイズを測った後、サイズに合わせて仕上げてくれる。

 その時間概ね10分程度。

 日本におけるズボンの裾上げより早い。 


 このあたりもオリジナル魔法のおかげ。

 だからサイズが合わないという事はありえない。


 ただ服そのものは日本より高価かもしれない。

 吊しの安物が存在しないから。

 布そのものもそこそこ高価だし。

 オーダーと思えば高くはないのだろうけれど。


「ミアさん、いつもジャケットとパンツだよね。いい服だし流行的にもどんな場所においても悪くはないとは思う。でももう少し違うのも似合うんじゃないかなあ。たとえばこんなの」


 レアさんがそう言ってマネキンのひとつを指す。

 白のブラウス、生成りのクリーム色カーディガン、淡い紺色のの膝上くらいのスカートという組み合わせだ。

 何と言うデザインなのか、スカートの種類とかはわからないけれど。


 確かにこのくらいなら職場で着てもおかしくはないなと思う。

 ただ服は高い。

 今着ている服も1着、上から下まで正銀貨6枚6万円くらいした。

 私の3週間分の給料相当だ。


「いいとは思いますけれど、服はとりあえずこれともう1着あれば大丈夫ですから」


「確かにその服なら何処へ行っても問題無いし、物もいいから長持ちすると思うけれどね。たまには少し違うのを着てみてもいいんじゃないかなあ。このあたりの服ならその服よりはずっと安いしね」


 えっ? そう思って仕立てサイズと値段の表を見てみる。

 確かに思っていたより安い。

 カーディガン、ブラウス、スカートの3点セットで正銀貨3枚3万円ちょっと。


 私の表情を見て気づいたのだろう。


「ミアが着ている服、ハイブランドな店のものです。気づいていなかった様ですけれど。普通の仕事着ならこの程度からあります」


 カイアさんが教えてくれた。


「そうそう。私達が着ているのもこの辺の服。これなら週3日勤務で、毎日違う服なんて事も出来るよね」


 なるほど、そうだったのか。

 ちなみにこのそうだったのかは、服が思ったより安かった事や、リアさん達が服を複数持っている事についてではない。

 この服と、この服を買ってくれたちひさんに対してだ。


 和樹さんも言っていたけれど、ちひさんは動く前に入念に下調べとか準備をする人だ。

 たとえ突発的な行動のように見える時であっても例外ではない。


 だから私が着ているこの服を選んだのも、この服を買った店に入ったのも偶然とか高い店と知らなかったからではない。

 いざという時私が恥ずかしい思いをしないよう、気後れすることがないよう、考えた上の事だろう。


 何と言うか、申し訳ないというか、かなわないというか。

 微妙に表現しづらい気持ちになる。


「あれ? 思ったより高かった?」


 おっと、私の表情がリアさんに誤解を与えてしまったようだ。

 ここは訂正しておかないと。


「ううん、そういう事じゃ無いです。ちょっと別の事を考えてしまって。すみません」


「ひょっとして別の系統の方が好みかなあ」


「いや、そういうことじゃなくて」


 カイアさんは何も言わず何か優しい目でこちらを見ていた。


「ついでだから他にも各自服を当ててみようよ。5時の鐘が鳴ったらさっき上った階段の下に集合で」


「そうですね。私はちょっと小物を見てきます」


「私は冬の上着かなあ」


「それじゃ、5時の鐘で」


 あっさりと皆さん、別れていく。

 どうしようか、何をしようか、そう思って気づいた。

 特にする事を決める必要は無いのだなと。

 今は時間つぶしの時間なのだから。


 さしあたってちひさんにお礼の小物とか、結愛へのお土産とかが見つかればいいかな。

 その程度の気持ちでぶらぶらしてこよう。

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