第13章 私の好きな時間

第55話 今回の週末

 第5曜日、早朝。

 今日に限り先発は和樹さんと私。

 ちひさんと結愛が後から来る形だ。


 これは昨日、話し合って決めた。


 ◇◇◇


 第4曜日の午後3時過ぎ。

 私が市場での仕事から帰った時、和樹さんとちひさん2人とも作業場にいた。

 なので作業場の扉を開けて挨拶。


「ただいま」


 和樹さんとちひさんが振り向く。


「おかえりなさい。あ、もし先輩がきりがよければお茶にしませんか。私の方はちょうど一段落したので」


「わかった。こっちは大丈夫だ」


 見た感じでは和樹さんは麹種作業、ちひさんは魚の味噌漬けを作っていた模様。

 麹種作業は材料を用意して魔法を起動すればあとは待つだけ。

 当然ちひさんもその事に気づいて声をかけたのだろう。

 

 3人でリビングへと移動する。

 なお結愛はまだ学校だ。

 授業が3時半ころまでで、その後何も家の予定が無ければ友達と遊んでから帰ってくる。

 だから今日は帰ってくるのは4時半過ぎくらい。


 リビングのテーブルでお茶の時間。

 今日のメニューはチーズケーキとアローカ茶。

 お茶は私と和樹さんがアイスで、ちひさんがホット。

 おやつもお茶も、大量に用意してアイテムボックスに入れているのですぐ用意できる。


 一息ついたところでちひさんが口を開いた。


「さて、明日明後日の開拓地行きの予定ですけれどね。今回は美愛ちゃん、先輩と先発して貰っていいですか?」


 いつもは網をセットする関係上、ちひさんが先発している。

 新しい船を買ってからは私もちひさんと一緒に先発組。

 どうして今回は和樹さんが先発するのだろう。


「いいですけれど、何故ですか?」


「今回はエビ養殖場の増設関係で工事をしたいからさ。

 具体的には養殖池4本の増設と、排水用の池の設置。冬に向けてそろそろ始めておいた方がいいかなと思ってさ」


 今度は和樹さんが説明してくれた。

 どちらの工事も以前から話を聞いているから状況はわかる。


 養殖池の増設は、これから迎える冬・春の水温が低い期間対策。

 ヒラリアのエビは年中産卵するけれど、水温が低い期間は成長が遅くなる。

 そこで養殖池を4本増やし、収穫までの期間を4週間分増やそうという計画だ。


 一方、新しい排水池の設置は養殖池の面積を増やす為。

 実は今でもグラハムさんから『入荷量を増やせないか』とプッシュされている。

 そして今のところ、他にエビ養殖を始める業者が出てくる様子は無い。


 だから私達の負担が増えない程度にエビの収穫量を増やそう。

 その為に養殖池を延長できるよう、今まであった東側の排水路の更に東側に排水用の池を新たに設置。

 今まで使っていた排水路は徐々に潰して養殖池を延長していく計画だ。


「私の方は今回は定置網だけでいいですから。朝一番に出て網を仕掛けて貰って、夕方に川の方の網を揚げて貰えれば。

 前回美愛ちゃんと捕った魚が大量に残っています。だから今回は釣りはしなくて大丈夫です」


「網だけなら僕でも何とか出来るからさ。ただ移動して網やって工事してとなるとどうしても魔力がぎりぎりになるから、出来れば美愛の手を借りられればと思って。いいかな?」


 勿論大丈夫だ。


「行きます。元々朝一番で出るつもりでしたから」


「それじゃ美愛ちゃん、よろしくお願いします。私は前回捕った魚をこっちで加工して、結愛ちゃんが帰ってきたら出ますから」


「わかりました」


 ◇◇◇


 そんな理由で和樹さんと私の先発が決まった訳だ。

 最近は和樹さんと2人の機会があまり無かったし正直嬉しい。

 ちひさんに申し訳ないような気がしないでもないけれど。

 

「それじゃ先輩、美愛ちゃん、網を張るのだけお願いしますね」


「行ってらっしゃい!」


 ちひさんと結愛に見送られ、小さい方の船で出る。

 今回は私の操縦だ。


「もし操縦しにくいなら代わるからさ。遠慮しないでな」


「ありがとうございます。でも大丈夫です」


 確かにこっちの船は真っすぐ進みにくいし、気を抜くと揺れが酷くなる。

 その分小回りは効くし小さい力で動くけれども。


 港から出て沖に出て、ようやく一息。

 ここからは波も海流も前方から来るから、少しは操縦が楽。

 勿論気は抜かないけれど。


 ◇◇◇


 ちひさんの海岸で網を仕掛けて、すぐに和樹さんの海岸へ。

 和樹さんが描いた図面を見てから工事を開始だ。


「最初に新しい水路や新しく養殖池を作る場所や、今までの養殖池を伸ばす場所全体を更地にしてしまおうと思うんだ。ここでヘイゴの幹を使う事は無さそうだからさ」


 なるほど。

 それなら以前やった方法だと……


「生えているヘイゴや草は伐採して浜へ運び出すんですか?」


「今回は熱分解してしまおうと思う。運び出すのは大変だし、運び出しても多分使わないからさ。

 ただ今のままやって万が一火事を起こすとまずいからさ。一度全部伐採して、万が一燃え上がっても森に火が回らないよう間を空けた上で熱分解しようと思う」


 伐採は和樹さんが便利な魔法を持っている。

 穴を掘るのも和樹さんの魔法の方が速くて正確。

 どちらも数式で指定して一瞬で効果が出せる。


 だから私が手伝えるのは伐採したヘイゴや草を集める作業と、熱分解する作業。

 集める作業にはエネルギー操作魔法を使えるだろう。

 切り倒されたヘイゴや草に運動エネルギーを与えて、森から離れた場所へ動かせばいい。


「和樹さんが予定地を伐採したら、私がエネルギー操作魔法で木や草を森から離れた場所まで移動させます。

 集めた後、熱分解するところまでは私がやりますから」


「ありがとう。それなら大分魔力に余裕が出来るから助かる」


 工事開始だ。

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