第44話 飲み物の注文

 テーブルは長くて細いタイプで、C席は1テーブル3人掛け。

 1人あたりのテーブル面積は日本の小中学校用の机くらいの大きさだ。


「もう少ししたらドリンクの注文を聞いてくるから、考えておいた方がいいかな」


 レアさんにそう言われたのでテーブル上に置いてあるお品書きを見ながら考える。

 C席だと、

  ○ グノトム酒

  ○ ハイボール

  ○ ディルワイン(赤、白)

  ○ カクテル

   キーンヌカクール、グノトムクール、ライトジーン、ダークジーン

   アップサイドテール、ベルベリアン、ナサファスアレイ

   ダークレイディ、ホワイトレイディ

  ○ ソフトドリンク

   キーンヌカサイダー、パインサイダー、タクサルドリンク

   アイスティー、アイスレンブランカ

が選べる模様。


 アイスティーの茶は地球の茶とは違う種類の樹木の葉。

 緑茶状態では飲めないが発酵させると紅茶と味が似たものになる。


 レンブランカは多分コーヒーの代用として発達した飲み物。

 豆ではなくレンザというシダの根っこを炒って煎じたもの。


 和樹さんが一度試しで買ったけれど、

『コーヒーとは別物だけれど、慣れると美味しいのかもしれない』

と言っていた。

 その後買っていないところを見ると多分美味しくなかったのだろうけれど、


 ここはタクサルドリンクにしておこう。

 タクサルは結愛やちひさんが好きな赤くて甘酸っぱくて美味しい果物だ。

 ドリンクにしたものはまだ飲んだ事が無いけれど、多分美味しいだろう。

 

 ついでに本日のメニューを確認しておく。

 ○ カトラート(アルケナス肉のカツレツ)

 ○ トーロードオムレツ 

 ○ ヤット&デールサラダ

 ○ ハッシュドポテト

 ○ プーローボ(肉野菜ごった煮をビール酵母味噌で味付けしたスープ)

 ○ パン

 ○ ホワイトジェリー(見た目も味も杏仁豆腐そっくりなデザート)

 ○ ドリンク


 なかなか豪華だ。


「簡素な料理とありましたけれど結構品数があるんですね。これでショーを見る事が出来て小銀貨4枚4,000円なら安い気がします」


「ただここの料理、一品がちょっと少な目なんだよね。あと帰りが遠くなるのが欠点かなあ」


 そういえば私以外はフラムレインの方に住んでいるんだよなと思い出す。

 ここからだと2km位は歩くことになる訳だ。

 夕食を食べた後、暗い中にそれだけ歩くのは確かに大変だろう。


 そんな事を話している間にお客さんが結構やってくる。

 私達より遅くなる理由は何かあるのだろうか。


『工場労働等、一斉に勤務する業務の場合、勤務時間を朝8時半~夕方4時半としている事が多い。

 この場合、昼0時~1時が休憩時間で、労働時間は7時間。出勤は週3回が標準。典型的な工場労働の場合、給与額は概ね法定最低賃金と同一で1回小銀貨7枚7,000円


 なるほど。

 知識魔法はこういう時に便利だ。

 知りたい事がすぐにわかる。


 私の勤務は休憩時間込みの5時間。

 なのに貰う額は小銀貨7枚7,000円と同じ。

 更に色々手当がついて週あたり概ね小銀貨2枚2,000円プラス。

 しかも私、まだ働き始めたばかりだ。


 このあたりが以前グラハムさんが言っていた『そういった職は往々にして待遇があまり良くない』という事なのだろうか。

 拘束時間が全く違うのに給料が同じという。


 でも一日あたりの額が同じなら、暮らしそのものは同様に出来るような気がする。

 その辺りはどうなのだろう。


 そういえばグラハムさん、こんな事も言っていた。

『ある程度生活できる程度までお金が貯まると辞めてしまう。元々長続きしないような仕事内容ですし、困ったとしてもどうせすぐに再就職出来るからです』


 つまりある程度お金が出来ると仕事を辞めて、そして困ると再就職する訳なのだろう。

 

 舞台の左側奥にあるカウンターに灯りがつき、ウエイターさんが店内を歩き始めた。

 ドリンクの注文を取っているようだ。

 どうやら高い席から順に聞いて行っている模様。


 なおD席のドリンクはセルフサービスらしい。

 客それぞれがカウンターへ行って並んでいる。


「今日が休みなら早くから並んでD席の最前列なんてのも面白いんだよね。違う角度から舞台を見られるし、すぐ前でやるから迫力もあるしね」


「ただD席の前の方だと舞台へ連れ込まれて、アドリブで参加させられたりします。そういった席は慣れている人向きですね」


「まあ好きな人にとってはそれも楽しみなんだけれどね」


 レアさんとカイアさんの解説のおかげで、D席の先の方が真っ先に埋まっていく理由がわかった。

 でも確かに初心者向けではないな、そういう席は。

 そういう意味でも今日はここ、中央の料理付きの席を選んだのだろう。


 私達の席にもウエイターさんがやってきた。


「まもなく料理をお持ち致しますが、ドリンクは何になさいますか」


 リアさんはライトジーン、レアさんはホワイトレイディを注文。


「タクサルドリンクでお願いします」


「かしこまりました」


 無事私の分も注文。

 なおカイアさんはキーンヌカサイダーだった。


 そういえばお酒類は飲んだことが無いけれど、どんな味なのだろう。


『ジーンとつくカクテルはゼネバ酒(グノトムで作られた蒸留酒で、ゼネバの樹皮を香りつけに使用している)をベースに使用している。

 ライトジーンはゼネバ酒をキーンヌカサイダーで割り、ラライアの実を発酵させたものを4~5粒入れたもの』


『レィディとつくカクテルのベースはミランダ酒(無臭の蒸留酒にミランダの実を浸漬したもの)。ホワイトレイディはミランダ酒をパインサイダーで割り、ピルアル(ピルアという木の実をすりつぶして漉した酸っぱい液体)を加えたもの』


 今まで知らなかった素材が出てきた。


『ラライア アルカイカやアローカと同様、地球上の球果類に似た種類の植物。ベルファス大陸北部で多く見られる。主にカクテル等で使われ、ヒラリアでは全量を輸入している』


『ピルア 地球上ではイチョウに近い種類の植物。リグリア大陸のエルドア山系が主な分布地。実は直径2センチ程の球形で酸味を持つ調味料として使われる。ヒラリアでは全量を輸入している』


 どうやら海外産の素材の模様。

 だから今まで知らなかった訳か。 


 最前列の方から料理を配り始めた。

 何皿も出てきてなかなか豪華な感じに見える。

 向こうの席は料金も高いから、その分料理もいいものが出るのだろう。


 こちらは『簡素な料理』とあったけれど、どんな感じで出てくるのだろうか。

 楽しみだ。

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