第10話 第5曜日の日課

 今日、第5曜日は仕事はお休み。

 今日の夕方から明日まで、開拓地の家に家族皆で行く予定だから。


 行く前にまずは事前準備。

 海で動くから着替えは大量に必要だ。

 和樹さんとちひさんは自分のを持っているから、私と結愛分、あとタオル等の共用のものを多めに持っていく。


 時間目一杯使うから食事はすぐ食べられるように調理済みを準備。

 ただエビを揚げたりもするので、油や調味料、調理器具もひととおり用意してアイテムボックスへ。


 ちひさんは一足先に自転車で出ていった。

 朝の干潮時に網を仕掛けておく為だ。

 結愛が帰ってから船でちひさんの海岸に行くとほぼ夕方の干潮時間。

 そこで皆で魚を捕った後、和樹さんの海岸にある家へ向かうという日程。


 和樹さんはまた別の準備をしている。

 今週からは養殖エビを毎週収穫予定なので、その準備だ。

 持っていくのは布袋や容器代わりの大樽の他、醤油麹粕の残り等。


 布袋はエビ等を採取する為の網代わりだ。

 網では無く布袋なのは、ちょうどいい細かい漁網を作っている業者がいなかった為。


 ただ布の方がエビや魚が引っかかりにくいので、取る時に楽でいい。

『結果としてこの方が正解でしたよね』

 そうちひさんも言っていたし。


 醤油粕は肥料みたいなもの。

 収穫を終えて水を換えた養殖池に醤油粕をある程度撒くと、藻が生えやすくなるそうだ。

 生えた藻はエビや魚の餌になる。


 なおエビ養殖池と言ってもエビだけがいる訳では無い。

 稚エビを放流している訳では無く、育ちやすい環境を作って外から入り込んだものが勝手に育つのを待つという仕組みだから。


 和樹さんは当初、プラワナという底生のクルマエビに似た海老をメインに養殖するつもりだったそうだ。

 しかし今まで収穫した時は他の種類も多かった。


 前回、養殖池1つで捕れたのは、

  プラワナ 全長10指10cmくらいの底生エビ 約40重240kg

  デラドウ 同じく全長10指10cmくらいになる中層に住むエビ 約50重300kg。プラワナよりやや白っぽい。

  ゴヌール 小骨が多いけれどフライにすると美味しい魚。池でとれるのは大体全長20指20cm程度。約10重60kg

  レジペイド 細長く茶色で底に住む白身魚。池でとれるのはゴヌールよりやや大きめ。約7重42kg


 他にも小魚や小エビがいたけれど、概ねこんな感じ。


「予想外だけれど悪くないですよね。デラドウも同じようにエビとして出せますし。勿論出荷する時はわけて出さないとまずいと思いますけれど。

 ゴヌールやレジペイドはよければ私に下さい。揚げても加工しても使いやすい魚ですから」


 というのがちひさんからの評価。

 なおエビは2種類とも他に大量に市場に出しているところがなかったので、結構いいお値段で売れた。


「加工しなくていいです。大きさと種類だけ揃えて出荷して下さい。他に大口で出していないので十分高値で売れます。これもできれば定期的に出していただければ助かるのですが、どうでしょうか」 


 勿論これはグラハムさん。

 エビ1回目を出した時の台詞だ。


 今週からは週末の天候が悪くなければ毎週出荷。

 そのことをつい言ってしまったので、明後日の1の曜日には手ぐすね引いて待っているだろう。

  

 捕るのには潮の干満差による水位の違いを利用する。

 干潮時に排水口に布袋を仕掛け、排水口を開け閉めしながら池から排水するのだ。

 排水に混ざって出てきたエビや魚が袋に入るという仕組み。

 予定では明日の早朝、潮が引いた時間にやる予定。


 他に家の周囲に生えているヘイゴを収穫したり、家や水路を補修したりなんて作業もする予定。

 ちひさんの場所で定置網作業もある。

 だから向こうにいる間は結構忙しい。


 しかしその忙しさが結構楽しかったりする。


「ただいま!」


 結愛がダッシュで帰ってきた。

 結愛は毎週、この開拓地行きを非常に楽しみにしている。

 昨夜寝る前に自分用のたも網や貝掘り用の熊手を準備して置いておく位に。


「早く行こう!」


「結愛はまず着替えてね」


「わかった」


 結愛が自分の部屋へダッシュしていく。

 なお結愛の分の着替えは私が事前に収納済みだ。

 他の荷物も私か和樹さんが収納済み。

 だから結愛が着替えさえすれば出発できる。


 各部屋の窓や玄関等の扉は……閉まっているな。

 魔法鍵があるから泥棒等の心配はいらないけれど、念の為偵察魔法で確認。

 作業場も含め、全部大丈夫だ。 


 結愛が自分の部屋から戻ってきた。


「着替えた!」


「荷物は全部持った? 網や熊手も」


「持った!」


 結愛は手持ちの荷物を持っていない。

 でもきっとアイテムボックスに入れているのだろう。

 学校で習って使えるようになったみたいだから。

 勿論魔力がまだ少ないので容量はまだまだ小さいけれども。


「それじゃ行こうか」


 ソファーにかけて本を読みながら待っていた和樹さんが立ち上がる。


 1階へ下りて玄関と反対側の扉から外へ。

 魔法で今出た扉の鍵を閉めている間に、和樹さんが船を出して運河に浮かべる。


「お姉ちゃん早く!」


「はいはい」


 和樹さんが船を押さえてくれている。

 まずは結愛が乗って、次に私。

 最後に和樹さんが乗って、そして船は動き出した。


 海に出るまでは運河だから速度はそれほど出せない。

 一応結愛もその事は知っているのでじっと待っている。


 待てよ、何かごそごそし始めたな。


「海に出たら釣りしていい?」


 結愛が和樹さんにそんな事を尋ねる。

 大分前だけれどトローリングで大物釣りをしたのがよほど楽しかったようだ。

 前回行くときには私に駄目と言われたので、和樹さんに聞いたのかな。

 確かに私なら今回も駄目と言うけれども。


「途中で釣りは無理かな。今日はちひが定置網で魚をとる手伝いをするから。その代わり向こうに着いたら網でいっぱい魚が捕れる。それでいいか?」


「わかった!」


 結愛相手でもきちっと説明するところが和樹さんだなと思う。

 ちひさんもそうだけれど。

 だから結愛も2人になついているのかな。

 そんな事を私は思う。

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