第16章 私の答
第69話 相談失敗?
和樹さんに言われた事が頭の中に残っている。
ただどう返答していいか、まだ私はわからない。
答えはすぐに出さなくていい。
そう和樹さんは言ってくれた。
それに思い切り甘える形だ。
ほんとうは真っ先にちひさんに報告して、ついでに相談するべきだろう。
利害関係者第1位に間違いないから。
しかしどうにもちひさんに話をする踏ん切りがつかない。
そして1人で考えても答えは出ない。
ただ今日は第3曜日、リアさん達と夕食を食べに行く日だ。
だから夕食の場で何気なくを装って意見を聞いてみようと思った訳だ。
「今日はミルクラスにしようか。最近行っていないしさ」
リアさんの意見で本日の店は決定。
場所はヘイゼラールから更に南へ2ブロック行ったところ。
店の雰囲気は気取らない居酒屋という感じ。
ただテーブルの構造が少し他と違う。
外側は長方形なのだけれど、内側に一段高い円形の部分があって、そこに料理をおいて回せるようになっている。
「ここのテーブルは他と違いますね」
「ミルクラスはシトイ風ブラッスリーだから。皆で何でも注文して、この回るテーブルに載せて食べる形式」
日本でも本格的な中華料理店には似たようなテーブルがあるらしい。
実際に行ったことはなく、ネットで知っているだけだけれど。
取り敢えず皆で注文して、飲み物だけもってテーブルへ戻ってきて。
少し間合いを考えつつ、聞いてみる。
「ところで戸籍を入れようと思う時って、皆どうやって決めているんでしょうか」
「ひょっとしてグラハムさんに告白された?」
和樹さんの言葉も告白みたいなものなのだろうか。
ただ単に一緒に居たいと言われただけの気がしないでもないけれど。
でも世間一般にはそういう意味に取られても仕方ない。
ただ、此処での間違いは訂正しておこう。
「違います。グラハムさんとはそういう仲では無いですから」
「向こうはそう思っていないかもしれないよ。そんな事はない?」
「グラハムさんに関しては無いと思います。単に家が取引先というだけですから」
後はヒラリアの普通を模索する仲間でもある。
こっちの方は誤解されそうだから言わないけれど。
「私自身はまだそういう事は考えた事は無いですね。そういう相手に会ったと感じた事が無いですし、そういった近い付き合いの男性もいませんから」
カイアさんがさらっとグラハムさん関係の話を切ってくれた。
毎度ながらありがたい。
「学校の頃は結構そういう話もあったけれどさ。社会人になると手頃な相手と出会える場が無いよね。で、そういう話も自然無くなるとか」
「そうだよね。でも学校時代にモテていた男って、大体顔とスタイルがいいだけだったよね、今思うとさあ」
「そうそう、確かに。だいたい今はさえない単純労働者だったり」
なるほど、そういう事もある訳か。
参考にはならないけれど面白い。
確かに日本の学校もそんな感じだった気がする。
頭が良かったり努力家だったりする人より、恰好だけの人や運動能力だけ、調子がいいだけの人の方がずっとモテていたし。
私が通った公立の小中学校だけかもしれないけれど。
そんな事を話していると料理がやってきた。
今日私が頼んだ料理はヒラリアン肉シチューとパエージャ・ミノラ。
他にテーブルに乗っているのはミートパイ、カトフェルグラタン、カトフェルズパ、ヤット&デールサラダ、ダンパーパン、ラルドケーキ。
カトフェルグラタンは肉と野菜をいためたものの上に甘辛系ソースをかけ、更に上にマッシュした蔓芋をのせて焼いたもの。
カトフェルズパはソーセージや野菜がごろっと入った、ポタージュスープ風だがとろみ成分が全て蔓芋のもの。
ラルドケーキは甘く煮たフルーツや
取り皿は浅い物とスープ用の深い物がテーブル両端にがっつり積んである。
私はヒラリアン肉シチューとパエージャを最初に取ってみた。
ここの肉シチューはビーフシチューのルーに鶏モモ小間切りを入れたような感じの味。
肉がデルパクスではなくアルケナスなのだ。
ただこれはこれで結構美味しい。
「そう言えばレアは前、彼氏がいた気がするけれど」
リアさんがそんな事を言う。
確かにこの3人、割と綺麗だし勤めている場所もいいし、彼氏がいてもおかしくない気がする。
今までそういう話は聞いた事がなかったけれど。
私自身は誰が好きだ愛だ恋だという話は得意ではない。
ただ今の状況、和樹さんへの返答の参考になるかもしれない。
だからちょっと注意して聞いてみる。
「ジャンはそういうのとは違うかな。単なる遊び友達枠で。最近は一緒に出掛ける事も無くなったけれど。
だいたいジャンは戸籍を一緒にしたり、まして子供を作ったりするような相手じゃないなあ。家で毎日顔をあわせると疲れそうだし」
「ならレアのそういう相手って、家で毎日顔をあわせても大丈夫というのが条件?」
「一緒に暮らすならそうかなあ。一緒に暮らさずに子供だけ欲しいという相手が出来たら別だけれど。リアはどう?」
「私の場合はそうかな、一緒にいていいなと思えるか、ずっと一緒にいてもいいと思えるかか。
ただ今のところ良さそうな相手がいないしさ。公設市場、勤める前はもう少しいいのがいるかなと思ったんだけど」
「いいのは既に相手がいたりするんだよね。もしくは過去に相手がいて、今はもういいという感じで」
一緒にいていいなと思えるか、ずっと一緒にいてもいいと思えるか、か。
和樹さんの場合は両方ともYESだなと思う。
なら何故、私は素直に答えを出せないのだろう。
やはりちひさんの事がひっかかっているのだろうか。
それもあるし、それ以外にもあるような気がする。
つまり、私にはわからない。
「そういう意味ではグラハムさんは貴重な存在かなあ。ルックスいいし、仕事出来るし、独身だし」
「でも戸籍を入れるとなると面倒そう。あの辺の上流階級は家なんて面倒な概念があるしさ」
「それでも狙っている子は多いと思うなあ。で、ミアは本当のところ、グラハムさんとどうなのかなあ?」
またグラハムさんの話になってしまった。
「そういう関係じゃないですよ。確かに話はしますけれど、そのくらいで」
一緒に出掛けたりするのを見られたら面倒な事になりそうだ。
今までも一応気をつけてはいたけれど、今後も注意をしておこう。
そんな事を思ったりする。
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