第38話 船を買いに行こう
昼御飯を食べて一休みしたら午後の作業。
ちひさんは公設市場へお出かけ、和樹さんは作業場で御仕事の続き。
そして私は家事作業、まずはお洗濯から開始だ。
この世界には洗濯機は無い。
しかし魔法が使えれば洗濯機のように洗濯を自動化出来る。
洗濯物を洗濯用の樽の中へと放り込む。
勿論型崩れして欲しくないものはネットに入れて。
入れ終わったら中に魔法でお風呂より熱いかな程度のお湯を入れ、水属性魔法で洗濯機のようにかき混ぜる。
ある程度しっかりかき混ぜたら、金属製の網で洗濯物をすくって取り出す。
洗濯物を出した樽は魔法で洗浄。
中が綺麗になったらもう一度先程の洗濯物を入れて、同じようにお湯洗いから網ですくうところまでを実施。
最後にすくった洗濯物を水属性魔法で生乾き程度まで乾燥させれば洗濯は終了だ。
網ですくったり樽を洗浄したり洗濯物を乾燥させたり、一連の流れを全て魔法にしている。
だから魔法を起動したらあとは自動だ。
なお生乾き程度までにするのは干してしわを伸ばす為。
ヒラリアの服は麻のような強い繊維を使っているものが多いので、しっかり伸ばして干せばアイロンをかける必要はない。
洗濯が終わるまでの時間に家の中を掃除しておけば、洗濯物を干した時点で家事はほぼ終了だ。
この時点で干した洗濯物に魔法を使って乾燥させてもいい。
でも私はお日様の下で干した洗濯物の匂いと感触が好き。
だから最低でも2時間は外で干して乾かす事にしている。
勿論天気が悪ければ話は別だけれども。
さて、洗濯物が乾くまで少しお料理のストックを作っておこう。
先週は結構ストックを使ってしまったので、作る量はやや多めで。
◇◇◇
「ただいま!」
結愛が帰って来た。
いつもは学校であと1時間くらい遊んでから帰ってくるのだけれど、今日は早い。
理由は勿論……
「船を買いに行こう!」
そう、今日は船を買いに行く予定だから。
和樹さんの作業は終わっているし、ちひさんも公設市場から帰ってきている。
「それじゃ行こうか」
「うん!」
全員で家を出て、ゆっくり公設市場の方へ。
「いい船あるかな」
「頑張って探そうね」
「うん!」
ちひさんと結愛の会話を聞きながら、知識魔法で今回購入する船の在庫を確認する。
『ヘラス公設市場船舶仲介部門における標準型1級輸送船(外洋仕様)の現在庫は35隻。価格は
在庫は充分あるようだ。
それでは選ぶ上のポイントは何だろう。
『安い中古船の場合、キールが削れている場合がある。この場合は強度や直進性が落ちるので外洋には向かない。
また使用に応じて船体へ樹脂塗り直しを行っていない場合、船体の樹脂が剥がれ黒ずんでいる場合がある。特に船底の腐食には注意。
そのような船は木材の油分が失われている事も多く、船体寿命が大幅に短くなっている事が多い。
更に運搬用で荒く使われた船の場合、ガンネル部が削れていたりヒビが入っている場合もあるので要確認。
これら使用状況が悪い船の場合、船体の黒ずんだり削れた部分を全体的に削り上げて修復する事がある。その場合外形は一見綺麗に見えるが船体の板厚が薄くなっている。特にキール部分を削り修復したものは船体強度が落ちる。
また……』
なかなか複雑な模様。
船に対する知識に乏しい私には判断は難しそうだ。
『公設市場で仲介する船艇については査定時に細かい点検があり、注意事項については確認の上明記してある。故に概ね値段相応となっている』
これを信じるしかないようだ。
「だいたい
「予定ではそうですよ。とりあえず寿命は10年以上は残っているものを。あとは個々の船を見てからですね。同じ標準型1級輸送船でも用途によって微妙に仕様が違っているみたいですから」
「どうせちひの事だから目星はついているんだろ」
「ある程度は、ですけれどね」
ここは素直に聞いてみよう。
「どんな船がいいですか?」
「うちは海流や波があるところを通るから船首が高めで、船底のストライプが深めのものですね。
ただそんな理屈は別として、見て気に入ったかどうか。それが実は重要だったりするんですよ。隠れた瑕疵なんかも案外無意識で気付いていたりしますからね。
あと気に入っているなら、その分大切に使おうと思えるじゃないですか。これって意外と重要だと私は思いますよ」
なるほど。
スペック的なものも重要だけれど、それ以外の部分も何気に重要だと。
「可愛い色の船、あるかな?」
「どうかなあ。色は白が多いみたいですけれど」
公設市場の雑貨・日用品棟を過ぎ、更に倉庫が多い区画を過ぎるとあとは港だ。
その一角に公設市場の船舶仲介場がある。
「船がいっぱい!」
「確かにそうだな」
確かに結愛の言う通り、船がいっぱいだ。
そこそこ大型の船まで100隻以上が船架台に乗っかっているのはなかなか壮観だ。
そして思った以上に小型船の数が多い。
「さて、それでは見ていきますよ。配置は種類別になっていますから」
『標準型1級輸送船』と立て看板があるので、そちら方向へ。
展示は外洋仕様と内水面・運河仕様がわけられていないようだ。
同じくらいの大きさの、同じような形の船が並んでいる。
概ね値段順になっているようだ。
「やっぱり安いとそれなりにくたびれた感じだな。これは外洋仕様じゃないけれどさ」
和樹さんの視線の先にあるのは
ただ色に艶がなく、塗った後かなり経っているような印象。
他にも船の横に削れた痕があったり、底にも削り直した部分があったりする。
更に説明には『キール削り箇所あり。運河や流れ、波のない内水面に限定した使用がおすすめです』なんて記載も。
「やはり値段なりなんでしょうね。ただ掘り出し物を見抜けるような経験はないですからね。今回は多少高くても無難に行きますよ」
確かにそうだなと思う。
海上で船に分解されたら命に関わるし。
ただ微妙な形の違いはあるけれど、どれも同じように見える。
この中から1隻選ぶのは難しそうだ。
「あまり難しく考えなくてもいいと思うんですよ。標準型1級輸送船の外洋仕様、そして公設市場の査定を通ったものなら使用に問題はない筈なんで」
このちひさんの言葉はきっと私あてだろう。
確かにそうなのかもしれないな、そう思い直す。
つい難しく考えてしまうのは私の悪い癖だ。
でもどうせなら与えられた条件で一番いいのを選びたい。
勿論実際に選ぶのはちひさんが中心なのだけれども。
メインで使うのはちひさんだから。
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