第71話 帰宅が早い日
翌日のお昼ご飯タイムは、特に問題なく終了した。
「確かに誤解されそうですね。ここは話をあわせておいた方が良さそうです」
朝、市場で補充作業時に話をした結果、グラハムさんがそう同意してくれたから。
何と言うかグラハムさん、話が通じやすくていい。
頭の回転も速いし知識もあるから会話していて楽しいし。
恋愛的に好きというのとは違うと思うけれど。
無事何事も無くお仕事終了して帰宅。
「ただいま」
「おかえり」
2階リビングから和樹さんの声が聞こえた。
階段をのぼって上へ。
見ると和樹さんは出かける恰好だ。
なおちひさんはいない模様。
「ただいま。お出かけですか」
「ああ、ちょっとミッドダウンの方の市場を見てこようと思って。どんな物が売れているか見てみたくてさ。
ちひはまだ漁から帰ってきていない。そろそろ帰る頃だと思うけれど」
ちひさんは朝から船で漁に出ている。
『趣味と仕事と実験を兼ねた新漁法への挑戦ですよ』
なんて言っていた。
まあ今日は天気がいいし、心配する必要はないだろう。
「わかりました」
「それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ならちひさんが帰ってくるまで1人だな。
そう思ってリビングの応接セット,和樹さんがいつも本を読んでいる場所で、新聞を読んで一休みしていたら。
「ただいま!」
結愛が帰って来た。
もうそんな時間かな、そう思って時計を見ると午後3時45分。
いつもより大分早い。
「お帰り。今日は早いね」
階段上から顔を出して、玄関にいる結愛に声をかける。
結愛が階段を上ってきた。
「今日は寮のあつまりがあるから学校で遊べなかった」
「いつも遊ぶ友達は寮に住んでいるの?」
余分な事だけれど、つい聞いてしまう。
毎回こういう所が私の駄目なところだ。
余分な事までぐちぐち考えて、何もかも駄目にしてしまう。
「アミュは寮だけれど、レダやキーンやリタは家。学校の近くでうちと反対の方」
学校から見てうちと反対、フラムレインかオールドタウンだろう。
それなら心配いらないなと思って、そして自分が嫌になる。
これって以前に私が受けていたのと同じ種類の差別だから。
ただ住んでいる場所による意識の違いというのは確かにあるのだ。
以前日本時代に私が住んでいたあたりが、まさに駄目駄目な人が多い地区。
あそこの子と遊んじゃいけませんと言われる辺り。
勿論まともな人もいるのだろう。
しかし駄目な方がどうしても目立ちやすいのだ。
もっとも私が通っていた公立中も全体的に駄目駄目だった。
私がいた地区はまあ酷いけれど、それ以外も決して良いとはいえない感じだったし。
駄目駄目過ぎて、まっとうな家庭の子は私立中を受けるとか学校選択制を使うとかしてうちの中学を避ける。
業者テストの平均も周囲の中学校と比べ低い。
うん、この件について考えるのはやめよう。
ぐちぐち考えるのは私の悪い癖だ。
今は問題ない、それだけわかればそれでいい。
そう思う事にしよう。
「ただいまっと」
玄関扉を開ける音と、ちひさんの声。
ちひさんも帰って来たようだ。
気分を変えるとしよう。
ちひさん、疲れているだろうしお茶にしようかな。
まだおやつはストックが結構あるし。
「お帰りなさい!」
「お帰りなさい。お茶にしましょうか」
階段下を見下ろす形で、玄関にいるちひさんに声をかける。
「ありがとう。結愛ちゃんも帰っていたんだ」
「今日は寮の行事で、学校で遊べなかった」
「そっか。じゃ美愛ちゃんすみません。手を洗って上へ行きます」
それでは私はお茶の用意をするとしよう。
新聞を置いてソファーから立ち上がり、テーブルへ移動。
テーブル上を魔法でさっと綺麗にして、アイテムボックスからカップと皿を置く。
今日はそこそこ涼しい感じ。
だから温かいアローカ茶でいいだろう。
ポットごとアイテムボックスから出して、カップを魔法で温めた後、注いでやる。
「結愛、デザートは何がいい?」
「プリンがいい!」
プリンならこの前結構作ったから在庫がある。
問題ない。
「それじゃプリンにしましょう」
「やった!」
デザートのうち半分は皿に入れた状態でアイテムボックスに入れている。
スプーンも一緒に。
こうしておけば開拓地や船の上でもすぐに食べられるから。
ちひさんが上へやってきた。
「お帰りなさい。漁はどうでした?」
「釣果はまあまあですが、仕掛けはまだまだ改良の余地があるようですね。底ベタだとどうしても海底の岩なんかに引っかかりやすいようですから。
ところで結愛ちゃんは、今日は学校早かったけれど、どんな事があったか、教えて貰っていいかな?」
「うん!」
なるほど、結愛からはこういう風に話を聞くわけか。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「いただきます!」
アローカ茶は渋みがあまりなく、香ばしさとほのかな甘みがあって飲みやすい。
発酵させた紅茶バージョンも売っているけれど、私は緑茶の方が好きだ。
さっぱりとしていて、自然な感じで。
プリンは卵多めガチガチタイプで、カラメルはちょいほろ苦め。
この辺は私がというより和樹さんの好み。
今は出かけていていないけれど。
「それで学校では何をしたのかな?」
「強化まほうの練習をした。先生に褒められた」
「結愛ちゃんは家や海でも強化魔法を使っているもんね」
「うん、まほう得意。皆にも教えてあげてる」
うんうん、学校は順調なようだ。
「それで今日の寮の行事って、どんな事をするのかな?」
「みんなで市場へ行って、おかいものして、寮でごはんをつくるって。アミュが言っていた」
家から通っていれば買い物や夕食の手伝いなどをする機会がある。
けれど寮だとそういう事がない。
親が小遣いを送らなければ買い物は出来ないし、食事はまとめて専門の人が作る。
だからそういった社会勉強の機会をつくった訳か。
学校も色々考えているなと思う。
「アミュ、市場でお買い物するの楽しみだって言ってた。ヘイゴを1本買うんだって」
色々な物を買う担当がいて、それらをあわせて料理を作るのだろう。
確かにそういうのは子供としても楽しいかなと思う。
でもヘイゴを1本買うのが楽しみなんて、何かいい。
うん、どうも私、また考えすぎていたようだ。
結愛はまだ学校の1年生。
今はこうやって話を聞いて注意しながら、おおらかな目でみて やっていればいいのだろう。
あとは……
ちょっと考えて、そして言ってみる。
「何なら結愛も今度お買い物に行って、一緒に夕食を作ってみる?」
「楽しそう」
あっさりくいついた。
きっと新しい体験が皆楽しいのだろうな、そう思う。
「それじゃ来週、2の曜日の夕方、一緒に行こうか」
「そうですね。なら私も一緒に行きますよ」
「楽しみ!」
うん、きっとこれでいいのだろう。
そう私は感じる。
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