移住日記 ~異世界移住・Series 3 美愛編~

於田縫紀

プロローグ 3月・夏の終り頃

第1話 いつもの日課

 今日は1の曜日。

 和樹さんは作業が残っていたので昨日はこちらに帰らず拠点居残り。

 海老の養殖池をもう1本掘ったら帰ってくる予定だ。

 MTBを持って行っているので午後4時くらいには帰ってくるだろう。


 ちひさんは夜明けと同時に漁に出かけた。

 今日は午後3時くらいまで、釣りで大物狙いだそうだ。


 だから夏休みが終わった結愛を学校へ送り出した後は私1人。 

 ただ昨日は拠点に行っていたからそれなりに家事は溜まっている。


 まずは洗濯から。


 作業場の窓を開け、洗濯用に半分になっている樽を出す。

 中に投入した洗濯物、今日は結構多い。

 何せ5の曜日と6の曜日の2日分、そして持ち帰った和樹さんの分を入れて4人分だ。


 ただこの世界には魔法がある。

 だから洗濯機よりもかかる時間は短い。

 魔法でお湯を入れた後、洗剤を加え、魔法で水流を起こしつつ棒で全体をかき混ぜる。


 20回転くらいしたら流れを反転させてもう1回。  

 これで概ね汚れは落ちる。


 そのまま洗濯物をアイテムボックスに入れた後、魔法で樽内の水を蒸発させる。

 次に樽をひっくり返して叩き、洗濯で出たゴミを出す。

 

 あとはもう一度樽に洗濯物を入れ、すすぎ作業。

 同じようにしてゴミを出すところまでやった後、すすぎ終了後の洗濯物を樽に出して、魔法で乾燥させれば完成。

 時折風属性魔法で換気をしないと湿度が高くなるから注意。


 洗濯物を魔法で畳んでそれぞれの場所に置いたら洗濯終了。

 その後は風属性魔法とモップを使ってお掃除。


 2階は私の部屋、結愛の部屋、廊下と掃除していってリビングで終了。

 和樹さんの部屋とちひさんの部屋は自分で掃除すると言われているのでそのまま。

 使っていない部屋は風を通して風属性魔法でほこりを払うだけ。


 1階は作業部屋とトイレ、風呂。 

 掃き掃除を風魔法で出来るのでやはり時間的には早い。

 2階とあわせて1時間程度というところ。


 リビングに戻って時計を見る。

 午前9時少し前だ。


 鏡に向かって外出準備。

 なんていっても化粧をする訳では無い。

 髪を見苦しくない程度に整えて、あとは眉を整えて産毛処理をする程度。


 この街でも一応ファンデーションやアイライナー、口紅等は売っている。

 しかしこの街の若い子はそういったものを使わないのが普通。


 この前ちひさんに、

「私はそろそろ使った方がいいのかなあ。美愛ちゃんどう思う?」 

なんて聞かれた。


「使う必要ないと思いますよ。そのままで綺麗ですし」

 そう答えておいたけれど。


 実際ちひさんは綺麗だと思う。

 顔は勿論身体もすらっとしていて綺麗だし頭もいいし。

 見ていて何と言うか『かなわないな』と思ってしまうのだ。


 ただそこで『かなわないな』と思ってしまうところが私の駄目な所なのかもしれない。

 そう思うという事は比較してしまっているという事だから。

 そんな自分が卑しいと感じてしまう。

 

 考えても仕方ない事を考えてしまった。

 鏡の向こう側には見飽きたさえない顔。

 いつまで見ていても仕方ない。


 両手で頬を2回ほどたたいて立ち上がる。

 まずは日課をこなそう。

 大した事はできないけれど、とりあえずは役に立たないと。


 アイテムボックスの中を確認する。

 大丈夫、先週5の曜日に揃えた状態のままだ。

 これなら何か追加があっても問題無い。

 それを確認してから家を出る。


 目的地の公設市場までは歩いて10分程度。

 この辺はそこそこ高級住宅地で住民層もいいし治安も問題無い。

 役所も学校も近い便利な場所だ。

 

 逆に言うと、それだけ家賃が高い場所でもある。

 そこも何と言うか申し訳ない。


 そもそも和樹さんもちひさんも此処に家を借りる必要は無かったのだ。

 理由はきっと結愛を学校に通わせる為、それだけ。


 2人とも他に色々言っていた。

 市場が近い方が商品補充が便利だとか、消費動向が分かりやすいとか。

 けれどきっと全部後付けの理由だ。

 

 ただ後付けでも一応理由には違いない。

 そして私が手伝える部分はその部分程度しかない。

 だから今日も私は公設市場へと行く。


 ヘラス公設市場の食料品部に到着。

 まずは事務所横に並んでいるメッセージボックスの512番を確認。


 市場からうちに用事がある場合、ここに連絡票が入っているのだ。

 他に書類等が入っている事もある。

 なおここは私、和樹さん、ちひさん、結愛の4人しか開けられない。

 魔法認証がかかっているから。


 中には連絡票が1枚入っていた。

 さっと一読、どうやら商品の一部が在庫切れ間近な模様。

 アイテムボックスを確認。

 大丈夫、全部持ってきている。


 事務所に入ると私が探すより早く向こうから声をかけてくれた。


「ミアさん、今日もありがとうございます。第2商談室を使いましょう」


 うちの委託販売の担当をしてくれているグラハムさんだ。 

 20代後半くらいの金髪イケメンさんで、和樹さんがイロン村の公設市場を使っていた時からうちの担当をして貰っている。


 つまり元々はイロン村の公設市場の職員だった筈。

 しかし私達がヘラスに引っ越した後、1週間後にはヘラスの公設市場に異動して、そのまま担当をやってくれている。


 本人は定期異動だと言い張っているがどうにも怪しい。

 和樹さんはそう言っている。

 しかし私としては馴染みがある分話しやすい。

 親切だしまめだし。


「それで連絡票は読んでいただけましたか」


「ええ。醤油、チーズ入り魚揚げ、スナックサイパ燻製、他もひととおり在庫を持ってきています」


「助かります。何気にこの辺の細かい違いに拘るお客様も多いですから。それでは醤油は樽で、加工食品はこちらの木箱に御願いします」


 グラハムさんが陳列用と同じタイプの木箱を出してくれた。


 まずは500リットルの醤油樽を出す。

 そして連絡票を見ながら足りなくなったちひさん作の加工食品を木箱に出していく。

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