第40話 パーラーに行こう
購入そのものはあっさりと終わった。
登録制度は無いし、整備も終わっているという事でお金を払って受け取るだけ。
船本体もアイテムボックス魔法で収納出来る。
これから行くのはリリレイムという名前のパーラー。
ケーラアーケードに近い、つまりお家からも近い場所にある。
最近出来たばかりのお店で、エルミナレルによれば『価格帯はやや高め』。
ワルトナイヨと同価格帯、つまり安心して大丈夫なレベルという事だろう。
ちひさんが選んだので、多分そういった確認は済んでいるのだろうけれども。
パーラーへ行くのは初めてだ。
だから料理の頼み方や精算の方法を知識魔法で確認。
『カウンターで注文して料金を支払い確認伝票を受け取る。後は自席で待っていると料理や飲み物を持ってくる』
パーラーも先払いのようだ。
飲み物も店員さんが持って来るところがブラッスリーとの違いかな。
でも先払いが多いのは何か理由があるのだろうか。
無銭飲食のリスクとかが多いのかななんて思う。
「今日は結愛ちゃんの好きなパフェとかスイーツが多めのお店ですよ」
「何がある? 知識魔法でわかる?」
「ヘラスのスニークダウン地区にあるリリレイムというお店。それで調べて見れば出てきますよ」
「ヘラス、スニークダウンのリリレイム……出て来た! パフェもいっぱいある!」
勿論甘い物だけでなく、しっかり夕食になるメニューもある。
だから和樹さんも問題ない。
和樹さんもちひさんもお酒を飲まないので、むしろブラッスリーよりこちらの方が向いているのかなと思う。
公共埠頭のあるポータ地区からスニークダウンまでは橋を渡ればすぐ。
民間用の港と倉庫、そして所々に新しいお店や
人もそこそこ多いけれど、とりあえず身なりはちゃんとした人が多い。
外見だけで人は判断出来ないけれども。
リリレイムはケーラアーケードの1本西側の通りにあった。
ブラッスリーやカウンターレストラン、カフェ、ファストフード系のお店と併せて5件で小さな
この地区のお店はこういった構造が多いようだ。
大きな倉庫を潰して建てるからだろうか。
建物は白色が基調でケーラアーケードと似た感じ。
歩く場所は白く塗られたウッドデッキになっていて、1階の屋根くらいの高さがあるシダが3本植わっている。
この雰囲気がヒラリアではお洒落とされているのだろうか。
そんな事を思いながら手前側の人が多そうな店の前を通ってお店の入口へ。
「いらっしゃいませ。4名様でしょうか」
「ええ」
「こちらへどうぞ」
このお店は店員さんが席まで案内するようだ。
知識魔法によればこの方式は割と珍しいとの事。
『混みやすい店や席数が少ない店に見られる程度』らしい。
奥の窓際、わりと広めの席に案内して貰い、とりあえず着席。
見るとテーブルの端にメモ用紙とペンがある。
『家族向けや多人数向けの店には置いてある場所が多い。ワルトナイヨにも置いてある』
ワルトナイヨの時は気付かなかった。
でも確かにこれがあると皆から注文を受けた時に便利だ。
ちひさんがさりげなくメモ用紙を1枚とってペンを持つ。
「それじゃ何にしましょうか?」
「テッティレルケーキとホワイトパフェ、あと乳清ドリンク!」
おっと結愛、デザートのみだ。
「今日はこういう機会だからいいと思いますよ。そのかわり普段はちゃんと野菜やお肉も食べようね」
「うん!」
ちひさんがそう言うなら、まあ今回はいいだろう。
その辺りのバランス感覚は私より上だと思っているし。
バランス感覚というか、私に普段のルールと違う事をおおらかに受け入れる余裕がないのかな。
「あ、でもそれじゃ、パラサラダも!」
「ちゃんとお野菜も食べるんだ、偉い偉い」
うーん、結愛の方が私より性格的なバランスがいい感じがする。
私だとどうしてもガチガチに考えてしまいがちだから。
なおテッティレルケーキとは甘酸っぱい味のシダの茎を甘く柔らかく煮たものが入ったパイだ。
雰囲気的にはアップルパイみたいなもの。
ホワイトパフェはクリーム、シリアル、カラメルソース無しプリン、アイスクリーム等が入った白いパフェ。
パラサラダは野菜やお肉、ゆで卵がサイコロ状にカットされて入っているサラダ。
ヤット&デールサラダのソース無しみたいなもの。
何気に結愛、ヒラリアのメニューを私より知っている気がする。
学校で給食が出るからかもしれない。
ヒラリアの給食は案外メニューが豊富でおやつも出るらしいから。
「僕はチーズハンバーグプレート、キーンヌカサイダーとワッフルで」
「なら私はヒラリアンシチュープレートですかね、乳清ドリンクとハニーケーキで。美愛ちゃんはどうしますか」
「ミックスサンドセット、キーンヌカサイダーとケルストルにします」
ケルストルとはバターとドライフルーツやナッツがたっぷり入った菓子パンで、外側が粉糖で白くなっているらしい。
『地球にあるシュトレンと同じルーツ・ほぼ同じ製法』とある。
けれど日本時代にシュトレンを食べた事がないからよくわからない。
「それじゃ注文行ってきますね」
立ち上がろうとする私をちひさんが手で制止する。
「今日は私の買物ついでですから私が行きますよ」
「わかりました」
何か申し訳ないけれど、それならという事で御願いする。
さて、注文が終わって落ち着いたところで気になった事を思い出した。
船を決める時の和樹さんとちひさんとのやりとりだ。
『私は停止時の安定性で、先輩は魔法で航行中の操船のしやすさで選んだんですよ』
ちひさんはそう言っていた。
和樹さんが否定しなかったという事は、この分析は正しいのだろう。
ちひさんが停止時の安定性を重視した理由は想像がつく。
釣りや魚捕りに使う事を考えてだ、きっと。
なら和樹さんが航行中の操船のしやすさを重視して、それをちひさんが正しいと思った理由は何なのだろう。
あ、気付いてしまった。
多分私のせいだ。
これからの第5曜日は、私とちひさんが先におうちを出る。
使う船は今までより操船しやすい今回買った船になるだろう。
そして馴れていない私が操船する可能性があるなら少しでもやりやすい方がいい。
停止した際の安定性を少し削ってでも。
私は2人の会話を思い出す。
『でも普段使うのはちひだろう』
この言葉『普段はちひさんが漁業に使うから、ちひさんが選んだ方がいい』という意味に捉えていた。
でも本当は違う。
『私が操縦するかもしれないけれど、普段はちひさんが使うからそっちを中心に考えた方がいいだろう』
そういう意味だ、きっと。
確認してみようか。
でも今は結愛がいるし聞きにくい。
それに和樹さんにも何となく聞きづらい。
私にとってはこういう話、ちひさんの方が聞きやすいのだ。
帰りにでもそれとなくちひさんに聞いてみよう。
そう思うのは私のずるさなのかもしれないけれども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます